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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡
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36限目 友達をどうにかしないと死にます

 前回のあらすじ:シュルツ大勝利。

 

 というわけで、再び二日目朝からのスタートである。

 心機一転、ヒナはゲームの中の世界に舞い戻る。


「今度はがんばってくれたまえよ、ヒナくん」

「は、はい」

 

 なにやらシュルツが黒猫のくりくりとした可愛い瞳を覆い隠すようにサングラスをかけている上に、口調もちょっと変わってしまっている。

 まったくもって似合っていない。

 

 悪いものでも食べてしまったのだろうか、と思いながらうなずくヒナ。

 しゃべり方もどことなく粘着質だ。


「まあ別にね、ボクが賭けに勝ったからといってもね、

 そんなにかしこまらなくてもいいんだよ。ヒナくん。

 今まで通り? シュルツさん、で構わないからね?」

「はあ。あ、ありがとうございます?」

 

 わけもわからずお礼を言い、ヒナは家を出た。

 ……どうしてしまったのだろうか、シュルツさんは。

 

 

 

 そして学校。

 いつも通りの朝の挨拶をして席に座る……と。

 

「あ、お、おはようございます、

 藤井さん……」

 

 そこにはやはり、首を縮こまらせた凛子がいる。

 曖昧にうなずく彼女の笑顔は、ひきつっているようだ。

 

 初日に食らわせたヒナ式ヘブンズ・ドアーは間違いなく効いている。

 例によって、彼女はNPCの枠組みに縛られているのだ。

 

 なんとしてでも、この状態を保たなければならない。

 封印から解き放たれた凛子の威力は、折り紙付きだ。

 

 火の七日間によって、ヒナの乙女ゲー世界は焼き尽くされる。

 栄華を誇るヒナの物語は、あっという間に終焉を迎えることになってしまう。

 

「じゃあお願いね」

「は……はい」

 

 どさり、と彼女の机の上に、九冊の大学ノートを積み上げる。

 凛子はそれを三度見した。


「えっ……三倍に増えてる……?

 目の錯覚……?」


 コインをすり合わせると、二枚のコインが三枚に見える現象のことを言っているのかもしれないが。

 ところがどっこい、それは現実だ。

 

 現実の不条理を味わった少女はさらに強く、美しく輝くだろう。

 がんばって凛子、がんばって、とヒナは胸の中でエールを送る。

 


 読む以上のスピードで書くのだって、結構疲れるのだ。

 生まれた日から書き始めたヒナ物語の伝記も、もうすでに7才にまできている。

 このままでは、たぶん300冊ぐらいでネタが尽きてしまいそうだ。

 

 どうにか新しい手を考えなければならない。 

 時々、ちゃんと読んでいるかどうかのテストをするとして……

 もっといい方法はないだろうか。

 

 そうだ、ひらめいた。

 ヒナは手を打った。

 きょうの自分は実に冴えている、と思う。


 次からは、全部――速記文字で書くことにしよう。

 

 逆転の発想だ。

 分量を増やすのではなく、凛子が容易には読めないようにすればよかったのだ。

 

 普通の高校生にはとても無理だろうが、

 彼女はNPCだ。もしかしたら多国語に対応してしまっているかもしれない。

 

 そのために次のノートは英語(グレッグ式)ドイツ語(ファウルマン式)で試してみよう。

 スウェーデン語(メリン式)はどうだろう。クロアチア語(マグディック式)は簡単すぎるだろうか。


 一冊ごとに異なる言語で書いていけば、多少内容がかぶったところで、

 表現方法が異なるため、凛子も飽きずに楽しめるだろう。

 

 NPCがどこまで対応しているか、限界を探るのも楽しそうだ。

 もしその文字が読めなかったら、図書館で辞書を借りてきて渡すのもいい。

 一行一行を翻訳しながら読んでゆくのだ。きっと一日1P進むか進まないか、ぐらいのペースになるだろう。


 ヒナとしても楽ができるし、

 凛子もいろんな言語の速記法を勉強することができて、より娯楽度が増すに違いない。

 お互いのためになる。これこそWin-Winの関係だ。


 ヒナがそんなこと――シュルツに言わせれば、悪魔に支配された考えだ――を思っているとも露知らず、

 凛子は日本語の、それも書き順正しい丁寧な楷書体で書かれた文章をつらそうに読んでいる。

 もしかしたら退屈なのかもしれない。マンネリを打開するためには、やはり変化が必要だろう。


 彼女の驚く顔が目に浮かぶようだ、とヒナは心の中でにんまりと微笑む。

 きょうはこのままクリアするつもりだから凛子に新しいノートは渡せないけれど。

 この9冊が終わるのが、楽しみだ。

 

 そんなヒナのささやかなサプライズを感じ取ったのか、

 凛子は上目遣いにこちらの顔色を伺いながら、話しかけてくる。


「……あ、あの?

 藤井さん……」

「うん?」

「これ読んだら、その、

 お友達になれる、んですよね……?」

「うん、もちろんだよ。

 わたしも楽しみにしているね」

 

 にっこりとほほえみ返す。

 

 凛子は少しだけ気圧されたように眉を寄せたが、

 すぐに気弱な笑みを浮かべて、「ははは」と漏らす。


「……よーし、がんばろ……」

 

 凛子は深呼吸し、目の前のノートの一冊から取りかかる。

 ヒナは彼女に見えないように片目を瞑って、小さく舌を出す。


 それで“全部”とは、

 言っていないけれどね、と。

 

 その茶目っ気あふれる表情を見て、

 サングラス装備のシュルツがなぜか「こわい」と一言つぶやいた。

 どうしてだろうか。

 ちょっとだけ傷ついたヒナであった。

 

 

 

 本日の行動は、

 お昼休みまでは凛子と過ごすのが大安定である。

  

 このゲームはNPCに自由意志のようなものが認められているので、

 非常に再現性が低いのだが、イベントのタイミングだけはきっちりと定められているのがありがたい。

 

 とりあえず今わかっていることは、ふたつだ。

 


・凛子を誘わないと優斗にお昼休み、食事に誘われる。

・凛子の元へ向かうと、虎次郎とのイベントが発生してしまう。


 

 ただ、ここで少し気がかりなのは、やはり凛子のことだ。

 虎次郎に突き飛ばされた彼女は、後頭部を打ってしまっていた。

 

 ヒナはどうしてもその未来を食い止めたいと思う。

 所詮はゲームだし、そんなのなんの影響もないんだろうけど、やっぱり気になる。

 だって虎次郎だってあれは、不本意なはずだから。

 ヒナは、みんなに仲良くしてもらいたいのだ。


 ただ、気をつけることがある。

 絶対に凛子の好感度をあげてはならない。 

 彼女には気づかれないようにさりげなく、凛子の身をかばうのだ。

 

 よし。

 お昼休みはやはり凛子の元に向かおう。

 

 そして、虎次郎から凛子を守ることにしよう。

 危険は大きい。失敗したら助けたはずの凛子に殺されてしまいかねない。

 

 だけどそれでも、やはりヒナは凛子の怪我を、

 どうしても見過ごせないのであった。

 

 彼女は自分のことをなんとも思っていなくても。

 やっぱりヒナは、凛子のために尽くしてあげたいと思うのだから。

 

 尽くすことが愛。

 すべての愛は、相手のために。

 

 それこそがヒナの、恋愛道なのだ。

 

  

 シュルツより一言。

 

 有能な乙女。これは妻に向いている。きっとあなたをそばで生涯に渡り、支え続けてくれるだろう。

 無能な乙女。これは恋人に向いている。あなたは優越感を抱き、自尊心を満たすことができるだろう。

 無能なビッチ。これは遊び相手に向いている。一晩のバカンスは、あなたに潤いと情熱を与えてくれるはずだ。

 

 有能なビッチ。これは処刑するしかない。

 

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