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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡
40/103

32限目 改めて、もうわたしぜったい死にません

 前回のあらすじ:夢だけど、夢じゃなかった! 現実だった。

 

 

 二日目のイベントは、

 とりあえずお昼休みまで、とても平和なものだった。


 やはり友人であり死神、ヒナ撃墜ハーラートップをひた走る凛子を

『状態異常:行動不能』に追い込んだのは、非常に大きかったのだ。

 

 しかもノートを追加すればするだけ、その効果時間は延びてゆく。

 誰に対してでもできる技ではない――あくまでも波長の合った相手にのみ――だろうが、凛子に限れば実に効果的だった。

 

 自らの経験を本にすることにより、相手を縛りつける。

 それが彼女の生み出した、新たな能力。


 シュルツはこれを、ヒナ式ヘブンズ・ドアーと名づけることにした。

 凛子に開かれたのは、地獄の扉だったろうが。

 

 

 しかしその実、ヒナ式ヘブンズ・ドアーの精神攻撃によって、

 彼女の好感度メーターがぐんぐんと下がっていることにヒナは気づいているのだろうか。

 

 もし好感度が下がった対象が、攻略キャラクターだった場合、

 下がった本人だけではなく、周りの誰かにも影響が出てしまうようだ。


 一緒になって『ヒナの評判』が落ちる、という感じで、だ。

 まったくその影響を受けないのは優斗ぐらいなものだ。


 といってもその優しい幼馴染の彼だって、

 イベントを進めるためには好感度を高い状態で、安定させておかなければならないわけだし。

 

 なんでバーチャル世界でまでそんな気配りしなきゃならないんだろう面倒な、とシュルツは思うが。

 

 そこはそれ、さすがゲームの世界。

 好感度の下がる条件は現実と違って、非常に厳しいようだ。

 空気の読めない発言や、ちょっとしたワガママ程度では微減すらしないらしい。


 本当によっぽどのことをしなければ好感度は下がらないのだ。

 そう、“よっぽど”のことをしなければ……

 

 ちょっと怖くなってきたので、シュルツはこれ以上考えることをやめた。

 まさかあの拳法ビッチとて、攻略対象キャラに粗相はしまい。

 


 その後。 

 

「なんだそのピアスは。風紀違反だろう」

「ああン?」と、虎次郎と椋が風紀について衝突したり。


「椋、ちょっと言い方キツいだろー。

 ほら、虎次郎も先生に見つかる前にさ」と、ふたりの間を優斗が取り持ったり。

 

「虎次郎、きょうは来たんだね」

「……っせぇな」などなど、樹が虎次郎を軽く注意したり。

 

 とりあえずはそんな乙女ゲーらしい実に平和な(誰も死なないという意味で)イベントが消化されて、三時間目の休み時間だ。

 

 

 イベントを眺めて、

「目の保養、目の保養」とウキウキしていただけの観客であるビッチ――彼女はこちらに好意が向けられない限り、死なないのだ――は、

 シュルツを抱きかかえながら笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、シュルツさん。

 どうやらわたし、二日目に入ってから、

 まだ一度も死んでいないんですよ」


 なにを言い出すかと思えば。

 そんな、たまたま数回連続でロシアンルーレットを成功させたぐらいなくせに。

 

 まあいいか、とシュルツはうなずく。

 

「そうだね。命のありがたみを思い出したのかな」

「わたし、このまま一度も死なないで二日目を突破するつもりです」

「なん……だと……」


 えっへん、と得意げな顔をするビッチ。

 シュルツは動揺を隠し切れない。


 ついにビッチウィルスに脳を破壊されてしまったのだろうか。

 ここにいるのはもう、性欲と色欲の権化か。


 いや、このビッチはそんなタマじゃない。シュルツは自分に言い聞かせる。

 まだ二日目だ。まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。


「とりあえず……その、あんまり強い言葉を使わないほうがいいと思うよ。弱く見えるらしいから」

「えー、シュルツさん、まだわたしを信じてくれてないんですかー」

「信じるとか信じないとか、そういう次元の話じゃなくて……」

 

 それは「気合いがあればなんでもできる!」とか言いながら、

 生身でブラックホールに突っ込んでゆくようなものだとシュルツは思う。

 

 人にはできることとできないことがある。

 このビッチが二日目で一度も死なない。それはすなわち、不可能である。

 

「わかりました!」

 

 するとビッチが、ガッチャ! のような感じの声をあげた。

 周りの生徒たちの注目を集めてしまい、ハッとする。


 誰も友達がいない中、ぬいぐるみに話しかけているおかしな人物に見られてしまう。

 ビッチは少し恥ずかしそうに首をすくめて、シュルツにささやく。


「……わたし、今回死んだら、シュルツさんの言うこと何でも聞きますから」

「……ん?」

 

 今、なんでもって言ったような気がした。

 思わず聞き返す。するとビッチは……


「はい、なんでもです」


 にんまりとうなずく。

 無茶だ。一体どうしたというのだ。


 大体、初日で600回近く死んでおきながら、どの口が言うのか。

 ……と、シュルツは気づく。まさかこのビッチ。


「……ちなみにそれ、

 もしそのまま二日目を突破した場合ってさ」

「もちろんそれはごほーびです。

 シュルツさんがわたしにくれるべきです。

 しかもちょっぴり豪華なやつです」

「だよね」

 

 なるほど。

 どうやら彼女はシュルツに頭を撫でてもらって、味をしめたようだ。

 もう一度あの喜びを、という顔で瞳をうるうるさせながらこちらを見つめている。


 この場合も『チョロい』……と言うのだろうか。

 どちらかというと、人の肉の味を覚えた魔獣が目の前にいるように感じてしまう。

 

 清楚な羊の皮をかぶった狼ならぬ、破壊神だ。

 世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目を持つ羊だ。そんな羊がいてたまるか。


 だが……

 懇願するように両手を合わせるビッチに、シュルツは考える。

 

 いや、死ぬだろう、どう考えても。

 このビッチが一度も死なずに二日目を突破するなど、想像ができない。

 きっとジュール・ヴェルヌでも描けない未来絵図だ。ビッチの可能性を越えている。

 

「なんでもする、ねえ……」

 

 悪い条件ではない、というか。

 はっきり言って、99・9999999%勝てる勝負だ。

 

 ビッチになんでも言うことを聞かせることができる。

 これは……はっきり言って、むしろチャンスだ。


 シュルツはうなずく。

 なにをしてもらおうか。


「いいよ、わかった。

 その賭けに乗ろうじゃないか」

「ふふん、シュルツさん、後悔しないでくださいね」

「そっちこそ、本当に“なんでも”だからね。

 わかっているんだよね」

「わかっています。それだけの覚悟があります」


 念を押すと、

 この“黄金の覚悟”を持つビッチは、急に瞳から光を消す。


「しねと いわれたら

 シュルツさんのために しにます から

 えへへ へへ」

「こわい。唐突にこわい」 


 すると、顔をのぞき込まれた。

 頬を赤らめたビッチが、くすくすと笑う。


「冗談です。さすがにわたしもそんなことはできません」

「はは……」

 

 乾いた笑いしか出なかった。

 むしろ乾いた笑いが出せたことを褒めてほしいと思う。

 

 

 シュルツより一言:地の文が後半全部『ビッチ』なのに違和感を覚えなかった人は、ボクと握手。

 

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