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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第三章 ワックワク☆素敵な家族は恋の闇路♡
36/103

30限目(地獄パート) 死に続けますよ、勝てるまで

 前回のあらすじ。

 

 赤子は脆弱だ。

 ひとりでは生きることができない。

 彼らが育つためには、必ず『家族』という組織に組み込まれなければならない。

  

 そう、人間は皆、本能的に家族を持つ社会性を有しているのだ。

 対人行動を学び、集団行動を覚え、その人格を社会化してゆくために。


 それはたとえ親に捨てられた子であっても同様に。

 彼らにもまた孤児院という『家族』がある。

 

 この物語のキャラクターたちにも、様々な家族がいるだろう。

 だが、同じものはひとつとしてない。

 

 人の数だけ家族があり、人の数だけ営みがある。

 この地球上に住む72億の人間は、誰一人として例外なく――母親から生まれたのだから。

 

 だとすれば。

 そう、あるいはこんな家族も……どこかに、あるのかもしれない。 

 

 君は今、72億の中のひとつの物語。

 ――その、目撃者となるのだ。

 

 

 キラキラと瞳を輝かせて、両親を見つめているヒナ。

 外見だけは夢見る女子高生だ。外見だけは。

 

 そんな感極まっているヒナを前に、とりあえず尋ねてみるシュルツ。


「しかし、どうするのさ。

 弟さんだけじゃなくて、父も母も好みなんでしょ。

 そんなんで、この先生きのこることができるの?」

 

 すると。

 ヒナはだらしない笑顔を放り投げて。

 表情を取り繕った。

 

「あ、それは大丈夫です」

「いやまあ、そりゃ弟くんに比べたら、

 実際に顔を合わせることは少なくないだろうけど……

 でもたまに突発イベントもありそうだよ?」

「大丈夫です」

 

 キッパリと、ヒナは言い切った。

 それからシュルツの頭を撫でて、笑う。


「うまくやってみせますから、わたし」

「またヒナ式ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムを使うのか……」

「? なんですかそれ?」

「キミが翔太くんを地獄に叩き落とした技だよ。

 何度も何度も、永遠に終わらない悪夢を見せるんだ……」

「? 悪夢ってなんですか?

 わたしはただ真剣に“お願い”していただけですけど」

「そんな言い分が罷り通るの、ヤクザか魔王ぐらいだよ」

 

 そう告げるが、やはりヒナはよくわからないようだ。

 一体なにが原因かもわかっていない。業が深すぎる。


 人類はバーチャルな乙女ゲーを作るよりもまず、全国民で国を挙げてヒナ更生プログラムを生み出すべきだったのではないだろうか。

 この娘は人類を堕落させるために差し向けられた、宇宙の白血球なのではないだろうか。


 よし。

 シュルツは決意する。

 

 もしここを生きて脱出できたら、シュルツがその役目を担おう。

 決してこのデスビッチを再び人間界に戻すことがないように……

 そうだ、そうするべきだ。絶対それがいい。

 

 と、シュルツが無駄な使命感に突き動かされて、

 裸にひのきのぼうで竜を退治するような、途方もない誓いを立てている最中。


 ヒナは「それなら」と切り出した。


「じゃあ、オジ様方に“呪い”のことを話してみるのはどうですか?」

「ん」

「恋をすると死んじゃうから、だから近づかないでー、って」

「ムリムリ。そういうことはできないようになっているんだ」

「と言いますと?」

「具体的には、ボクが喋る言葉みたいに、

 NPCにはスルーされて、聞こえないんだ」

「そっかぁ……」

 

 白い部屋の天井を見上げて、ヒナはうなって。

 それから再び視点を戻してきた。


「じゃあとりあえず、一回だけやってみます」

「どぞどぞ」

 

 シュルツは内心で、いかにこのヒナを更生させようかと考えつつ……

 ぽちり、と再スタートのボタンを押すのだった。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 早速、リビングへと降りてきたヒナ。

 そこにはクールなダディが待ち構えている。

 

 ヒナは心の中に刃を隠しながら、彼に話しかける。


「ねえ、父さんー」

「おお、帰ってきていたのか、ヒナ。

 どうした? なにか話があるのか?」

「父さん、話があるの」

 

 改めて、告げる。

 ヒナの真剣な顔に、彼もまた表情を引き締める。


「……どうかしたか?」

「あのね、父さん。

 今からわたしが言うことを、しっかりと聞いてほしいの」

「ああ、聞くとも。大事な大事な娘の言葉だ」

「ありがと」

 

 にこりと微笑み、ふたりはダイニングテーブルに座り、向かい合う。

 妙な緊張感が、場を支配していた。


「わたしね、『あるトリガー』に支配されているの」

「……」

「それの引き金が引かれるとね、わたしに大変なことが起きるんだ。

 周りの人たちもそれで、すごく悲しいことになっちゃうの。

 どう、不思議でしょう」

「……」


 突拍子もない話だ。

 素直に受け入れる人など、普通ならいない。 


 けれど、この家族には絆がある。

 太いパイプで結ばれているのだ。

 

 父はなにも言わずに。

 間を置くように、あごひげを撫でてから。


「……ヒナは、昔から決して冗談を言うような子ではなかった。

 それが不幸に関わることなら、なおさらだ。私は信じよう」

「うん、ありがと」

 

 再び微笑むヒナ。

 彼女に、父は問う。


「……それを父さんに話したということは、

 父さんにも関係があることなんだな。『トリガー』に関わっているのか?」

「うん、そう」

「一体なんなんだ?」

「言えない」

「なぜ言えない?」

「それを言ったら、言えない内容を言ったも同然だから、

 だから言えないの。

 言わないんじゃなくて、言えない。

 わたしがギリギリ言えるのは、そこまで。

 今もかなり危ない橋を渡っているの」

「……ほう」 

 

 父の眉間のシワが濃くなった。

 より一層、表情が渋みがかる。


「どうやら、私の知らない間に、

 深刻なことが起きているようだな」

「うん」

「だが、それならば私に協力してほしいことがあるのだろう?

 そうでもなければ、わざわざこんな危険を犯す必要はない」

「うん、そうなの」

 

 ヒナはゆっくりとうなずいた。


 さすが父の理解力は凄まじい。

 翔太などとは、まるでスペックが違う。

 これが育ち切ったオトナのAIなのだ。


「……まるで雲を掴むような話だがな。

 父さんにできることなら、なんでもしよう」

 

 やはり良い、とヒナは思う。

 苦みばしった表情でうなる父。

 ゾクゾクする。これが男の色気だ。

 

「これからずっとわたしに話しかけないで……って言ったら、怒る?」

「……ふむ」

 

 胸を抑えながら、ヒナは彼の顔色を伺う。

 父親はしっかりとヒナを見据えて。


「それをヒナが本当に望んでいるのなら、私は怒らない」

「……そっか」

「いいかい、ヒナ」

 

 父は顔の前で両手を合わせて、

 絶交を要求されているのに、ヒナに優しく告げる。


「私はおまえが生きていてくれることが何よりも喜びなんだ。

 それ以外のものなんて、なにもいらない。

 親というのは、そういうものだ。

 目に入れても痛くない、という言葉があるだろう。

 もしどこかで火事に巻き込まれて、私とヒナが取り残されたとして。

 どこにも逃げ場がないのなら、私は迷わずヒナを目の中に入れるさ。

 火に襲われても、絶対に守ってみせる。

 それだって、痛くなどないね。おまえが助かるのなら。

 だからヒナと話ができないことなど、苦ではないよ。

 生きていてくれるなら、それで十分だ。少し、寂しいけれどね」

 

 その言葉は、親としての愛情にあふれていた。

 血の繋がっていないヒナは、一体その言葉をどう受け止めただろう。

 

 そう、

 彼女はそれを、愛の告白として受け取った。

 

「……ありがとう、お父さん」

 

 けれど彼女は精一杯微笑んで、『娘』としての役割を全うする。

 今だけは、精一杯自分を愛してくれた『キャラクター』のために。


 それがせめてものヒナの愛。

 これから不幸になってしまうであろう彼らのための、惜しみないアガペーだ。

 

「わたし、お父さんの娘で良かった」

 

 と言った直後、口から血を吐いてヒナは絶命した。

 後に残された父は呆然とするより他ない。

 

 ずっとずっと、我慢していたのだ。

 本当は向かい合って座った時点でヤバかった。

「あ、これ死ぬな」って思ってた。

 

 

 

 ◆◆


 


「だめでした」

「惜しかった」

「おとうさんの想い、強すぎます。

 理解がありすぎます……」

「わがまま」

「というわけで、事情を説明するのは無理です」

「途中までうまくいったと思ったんだけど……」

「でもどうしたって愛の言葉を囁かれちゃうわけでしょう?」

「人間力が高すぎるのも問題なんだな……」

 

 理解力と人間力は比例する。

 愛情もだ。

 

 母親に試したところで、同じことだろう。

 彼女はヒナの事情をおもんばかって、愛情を押し殺すはずだ。

 その押し殺した愛情こそがまさしくヒナを殺すのだと知らず。

 

 これが家族だ。愛のある家族なのだ。

 どっちにしても、ヒナは死ぬ。


 愛情もなく人間的にはとにかくクズだけど、

 理解力だけは山ほどあるような人はこの世界には存在しない。


 ならもう、つべこべ言わずにやるしかない。

 やるしかない。


「ヒナ式でいきます」

「ああ、うん……」


 結局それしかないのか。

 結局それしかないのだ。 

 

 ふたりにできることは、ただひとつ。

 ヒナはその目に意志を宿し、うなずく。

 

「――死に続けますよ、勝てるまで」

 

 つらたん、と。

 シュルツは小さく小さくつぶやいた。

 

 

 

 ◆◆


 

 

 ~Now Dying~

 

 

 

(中略)


「おとうさん……

 わたし、しぬよ?」

「グワーーーーー!」

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 ~Now Dying~




(中略)


「おかあさん……

 これ さんかいめ だから」

「イヤーーーーー!」

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 そして。

 長い時を越えて。

 



 ◆◆

 


 

 ついに、

 ヒナは二日目の朝を迎えた。

 

 時の扉を打ち破った。

 番人たちに、勝利して。

 

 


 カーテンを開いて目を細める。

 空から届く陽光は、ヒナに元気と活力を与えてくれる。


 背伸びをすると、思わず笑みがこぼれた。


「うーん、きょうもなんだか楽しいことがありそう」

 

 制服に着替えて、日記を軽やかにタッチ。

 きょうも空欄にセーブデータを記録する。

 こまめなセーブは乙女ゲー攻略の基本だ。たしなみだ。


 髪をとかして、ヒナは鏡台の前で軽く微笑む。

 お肌にも不調はない。いい感じだ。

 

 さらにウィンクをしてみるけれど、今度は少し恥ずかしくなった。

 テンションがあがっていたのだと自分に言い訳しながら、首を振る。


 ごまかすように鞄と黒猫のぬいぐるみをひっつかんで、ヒナは部屋を出た。

 外から差し込む光が木目を輝かせている。素敵なおうちだ。


 木琴を奏でるようにリズミカルに階段を下り、リビングに向かう。



 ドアを開くと、すでに三人がいた。

 

 父、母、弟。

 彼らはなぜかヒナが入ってきた途端に、びくっと震える。

 

 ヒナは彼らの存在を意識せず、台所に向かう。

 コップで一杯の水を飲むと、「うーん」と微笑んだ。

 

「つめたくてきもちいいー」

 

 ヒナは朝ごはんはあまり食べない。

 どうせこの世界ではものを口にする必要はないけれど。

 それでも、冷えた水は潤いを与えてくれるようだった。

 

 家族三人は顔を付き合わせて、なにやら相談をしているようだが……

 それから意を決したように、父親が立ち上がった。


 彼はこちらを恐ろしいものを見るように、見つめている。


「なあ、ヒナ……その、昨夜のことなんだが……」

「――あれー???」

 

 その言葉潰すように。

 ヒナは急に大声をあげた。

 

 わざとらしく額に手を当てて、

 ヒナは辺りをきょろきょろと見回す。

 

 愕然とした父親の前で、視線を止めることもなく。

 家中に聞こえるような声で独り言を吐く。


「おっかしいなあ、

 今誰かに話しかけられちゃったみたいな気がするー?」

 

 うーん、と腕組みをして、頬に手を当てて。

 それから思い出したように視線を斜め上にあげて。

 

「ま、そんなわけないっか。

 だって……」

 

 ……笑みを浮かべた。


「……はなし かけられたら、

 わたし しんじゃう もんねえ――?」

 

 ――シン、と。


 まるで世界から音が奪われたかのように、静まり返った。


 その言葉を最後に、このリビングで言葉を発するものはいなくなった。

 ヒナは「さ、いこいこ」と明るい声をあげて、玄関に向かう。

 

 

 扉を開くと、やはり良い天気だ。

 こんなに気持ちの良い朝は、いつぶりだろう。

 

 まるで初日に583回死んだ後で、

 ようやく迎えた2日目のようだ。

 

 幸せな一日の始まりに、ヒナは思いを馳せる。

 ああ、きょうは一体どんなことがあるんだろう。

 

 ヒナは天使のようににっこりと笑って、お天道様に手を振る。

 

「わたしの乙女ゲー生活はまだ、始まったばかりだもんね!」

 

 

 

 

 第三章 永遠より長い一日目 end

 

 

 576回目。

 577回目。

 578回目。

 579回目。

 580回目(父)。

 

 581回目。

 582回目。

 583回目(母)。

 

 死因:家庭崩壊槌(ミョルニルハンマー)の反動。

 

 シュルツより一言:一言などもうない。

 


 

 作者より一言。

 乙女つらたんはジャンル:恋愛です。

 お忘れなきよう、お願いします。

 

 次回、次々回は幕間です。

 なんとか21時に間に合って良かったです。

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