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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第三章 ワックワク☆素敵な家族は恋の闇路♡
28/103

23限目 ついに来ましたあのポ死です

 前回のあらすじ:ヒナ死亡。

 

 ◆◆

  

 

  

 後悔の念に押し潰されてしまいそうだった。

 もっと他に何か、できることがあったのではないだろうか、と。

 

 余命いくばくもなかったのかもしれない。

 それでも彼女は幸せに、一日だけのこの学園生活を送ったのだろうか。

 

 姉の夢は叶ったのだろうか。

 たった一日だけでも、普通の女の子として生きられたのだろうか。


 ヒナの葬式の最中、翔太はずっと両手で顔を覆っていた。

 姉は微笑んでいた。今際の際まで。

 その残光がまぶたの裏から、離れない。


 きっと翔太を安心させようと思って。

 最期の最期の力を振り絞って、自分に会いに来てくれたのだ。

 

 父でもなく、母でもなく。

 自分に、自分だけに会いに来てくれたのだ。

 

 その想いに報いることは、できたのだろうか。

 自分はきっと、姉になにも与えることはできなかった。


 どんなにつらかったことだろう。

 どんなに苦しかったことだろう。

 

 彼女の気持ちをわかってやることができなかった。

 死んでから知ったところで、すべては後の祭りじゃないか。

  

 翔太の喉から細い声が漏れた。

 それは聞いたこともないような、自分の嗚咽だった。

 

 両親や親戚、友達に先輩もいるのに。

 翔太は人目もはばからず、泣いた。

 

「……翔太」

 

 その頭に大きな手を置くのは、優斗だ。

 翔太は小さく首を振る。


「ゆうとにいちゃん、おれ」

 

 その言葉は声にならなかった。

 なにも言わず、優斗は彼の頭に手を置き続けた。


 突然の姉の死。

 一番近くにいたはずなのに、気づいてやれなかった。


 翔太は、これからも一生、

 己を責めながら生き続けてゆかなければならないのだ。


 その場で微笑んでいたのは、

 ヒナの遺影、ただそれだけだった。

  

  

 

 ◆◆

 

 

 

「……なんか見たことあるな、この葬式シーン」

「あの場で死んだら、必然的にこのルートになるんでしょうかねえ」

「うーむ、攻略対象キャラじゃないだけあって、

 葬式シーンのバリエーションも少なめなのかな……」


 シュルツはゲームゲームしいところに気づいてしまう。

 

 臨場感だけは相変わらずのド迫力だ。

 翔太の悲痛な背中を見るのは、つらいけれども。 

 でも徐々に慣れてきてしまっている。

 

 この世界から脱出できたら、もしかしたら、

 両親が死んでも眉ひとつ動かさない人間になっているかもしれない。

 人の死に慣れて、心は砂漠のように乾いてしまうのだろうか。

 いやだなあ、と思うシュルツ。

 

 そんな葬式シーンを眺めながら。

「あのー」とヒナが手を挙げた。

 

「はい、なんでしょうヒナさん」

「無事セーブもできたことですし、

 そろそろ、ものすごい初歩的なことを聞いてみてもいいでしょうか」

「ボクに答えられることだったら」

「じゃあ、えっと」

 

 ヒナは問いかけてくる。


「このゲームって誰かを落とせばクリア、なんですよね」

「うん、そうだね」

「それってでも、初日にわたしが優斗くんや樹先生をメロメロにさせればいい、

 ってことではないんですよね。

 ちゃんとやっぱりシナリオや期間があるわけですよね」

「んーまあ」

「気が早いかもしれませんけれど、詳しく教えてもらっても良いですか?」

「……んー」

 

 少し渋い顔をしたけれど。

 まあいいか、と思うシュルツ。

 きっと彼女ならそれを聞いても、絶望はしないだろう。

 

 初日を突破して、希望が見えてきた。

 これから先のことを話してもいいかもしれない。


 と、その前にボケをひとつ入れてみようか。

 八つ当たりだ。深い意味はない。

 シュルツは口を開く。


「期間はね、なんと……

 今から六年。つまり大学卒業までだよ。

 日数に直すと、約2000日間だね」

「えっ」

 

 さすがのヒナも目を丸くした。

 小鳥のような声でつぶやく。


「に、にせんにち……」

「うん」

 

 肩を落とすヒナを見るのは、それなりに痛快だったけれど。

 すぐに彼女は顔をあげた。目が輝いている。


「そ、そんなに遊んでても……い、いいんですか……」

 

 あ、だめだこれ。

 ヒナは歓喜に震えながら、夏休み初日の小学生みたいな顔をしている。

 慌てて訂正する。


「あ、ごめんそれ違う乙女ゲームのことだった。

 えとね、期間は、一年だよ。

 5月始めに転校をしてきたから、3月までだね」

「えー、あと大体300日ぐらいじゃないですかー」

「そうだね。果てしないね」

「えー、楽しい時間はあっという間にすぎちゃうんですよー」

「じゃあやっぱり果てしないね」

 

 ちょっぴり不満そうに口をとがらせるヒナ。

 ただ、まあ、とシュルツは付言する。


「3月まで必ず続けなければならない、ってことではないみたい。

 最速でフラグを立てて惚れさせて、いくつかイベントをこなせば、

 それでエンディングを迎えられるとか」

「あ、そうなんですか」

「まあそれでも、最低でも三学期の中旬ぐらいまでは、やらないといけないんだろうけどね」

「なるほどー」

 

 ぼんやりと宙を見つめながら、何度かうなずくヒナ。

 一体なにを考えているのか。その顔に騙されてはいけない。

 

 一見、普通の穏やかな女子高生に見えるその表情だが、

 一皮めくれば、神算鬼謀渦巻く恋愛の諸葛亮ビッチが潜んでいるのだ。

 どうせロクでもないエゲつないことを考えているに違いない。


 ヒナはゆっくりと唇を動かす。


「じゃあ……先にあんまり好感度を上げすぎちゃうと、

 後々困ったことになりそうですねえ……」

「まあそうだね。いきなり手を繋ごうとしてきたり。

 なれなれしくなってきたら死んじゃうよね」

「間違いありませんね」

「これから先の学園生活は、イベントも目白押しだし……」

「ウキウキですね」

「この状況でもまだゲームを楽しんでいるキミに、

 ボクは敬意を表しようかどうか迷っている……」

 

 苦々しい顔でつぶやくシュルツ。

 

 とりあえず、ヒナは納得したようだ。

 自動音声のように繰り返されていたお経BGMも終わってくれた。


「じゃあええと、そろそろいいよね。

 スキップする、よ」

「はーい」

 

 再び、バトルの始まりだ。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 今度はどうしようか、と思ってヒナがベッドに寝転んでいると。

 コンコン、とドアがノックされた。


「ねーちゃーん」

 

 ……襲撃だ。

 ヒナは飛び上がって起きる。

 

 そういえば、と思い出す。

 元々、弟は自分を探していた。

 帰ってきたばかりの自分を追いかけてきたじゃないか。

 きっと“用事”があったのだ。


「な、なにー?」

 

 扉越しに声を返す。すると。


「いや……大した用事じゃないんだけどさ。

 どうせおまえのことだし、ヒマなんだろ」

 

 大した用事じゃないなら声をかけないでほしい。

 こっちは命の危機なのだ。

 そんなことはとても言えないヒナは、慎重にドアを開く。

 

 翔太は後頭部に手を当てながら、視線を逸らしていた。

 彼と交わすべき言葉を告げなければ。

 

「どうかした? あ、おねーちゃん、体調は万全だよ。

 全然元気元気。それにこれからもよろしくね。

 なにかあったら、絶対に翔太くんに言うから、ね」

「あ、ああ? んだよいきなり……」


 彼は戸惑ったような顔をしていたけれど。

 でも多分、これで済んだはずだ。

 

 他になにかあるだろうか。

 あるなら今はダメでも、次に活かすために聞いておかないと。

 

「ん……」


 翔太はしばらくその場を離れようとはしなかった。

 やはりなにかを言いたそうにしている。

 

 本丸を攻め込まれているこの状況で、心の余裕がなくなってゆく。

 ヒナは作り笑顔を浮かべながら、彼に問う。


「え、えと、他になにかある?」

「いや、まあな。

 べつにおまえのボケボケした顔を見に来たわけじゃねえんだけど……」

 

 歯切れ悪い。

 頬をかく翔太。

 なんとなく緊張しているように見えるけれど、ヒナだって緊張している。


 居座る、というのはヒナにとって効果的な作戦だ。

 なにをやってくるかわからないから、いつ死ぬのかもわからない。

 凄まじいプレッシャーを感じてしまう。

 

 なんだか、段々じれじれとしてきた。


「えっとぉ……用がないんだったら、

 おねーちゃん、そろそろ勉強するけど……」

「べつに、バカなんだから勉強したって変わんねえだろ」

「そ、そんなことないって」

「ふーん」

 

 翔太はちらちらとこちらを見下ろしながら、視線を落としてつぶやく。

 

「まあ、なら……

 その、邪魔してわりぃな」


 なんにもないのかっ、と思わず言い返しそうになる。

 まったくもう……と安堵しながら、ドアを閉めようとしたその時だ。

 

 翔太の手が、こちらにまっすぐ伸びてきて。


「……まあ、なんだ。

 これから、よろしくな。チビのねーちゃん」

 

 ぽんぽん、と。

 ヒナの頭を撫でた。

 

 まるで花を摘むように優しく。

 宝石を撫でるように柔らかく、だ。

 

 絶句した。

 その場にいたシュルツが思わず「何をするだァーッ!」と叫ぶ。

 

 よりにもよって。

 ヒナの頭を撫でるなんて。


「あ、あああ……」 

 

 ――まるで核爆弾の発射スイッチを押すようなものではないか。


 ヒナは頭を抑えながら後ずさりする。

 

「え、な、なんだよ?

 俺なんか悪いことしたか……?」

 

 その表情の変化にさすがに驚く翔太。

 ヒナの顔は見る見るうちに赤く染まってゆく。

 それはダイナマイトの導火線を火がのぼる光景にも似ていた。

 ビッチグリセリンに衝撃を与えるなんて、正気の沙汰ではない。


「はぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 ヒナは断末魔をあげ、その場で卒倒した。

 

「ね、ねーちゃん!?」

 

 慌ててその顔を覗き込んだ翔太は彼女に手を伸ばす、けれど。

 その顔を見て、唖然とする。

 

 ヒナは白目を剥いて、ひくひくと手足を痙攣させながら、

 耳から血を流して、誰がどう見ても明らかに絶命をしていたのだった。


「な、なんだよ、これ……!」

 

 翔太は己の行なってしまった過ちに気付かず、叫ぶ。

 軽薄な行動が、悲劇を生み出してしまったのだ。


「なんだよ、なんだよ……!!」

 

 翔太は髪をかきむしる。

 行き場のないその恐怖もまた、爆弾のように弾けた。

 

「なんなんだよぉおおおおおおおおおおおお――!」

 

 

 シュルツはその光景を眺めながら、うわぁ、と思う。

 思うけれどまあ、いつものことだ。


 さっきはついテンションがあがって叫んでしまったけど。

 でも別に、なんでもない。取るに足らないことである。

 

 すぐに生き返って、またやり直すのだ。

 トライ&エラー、その繰り返しだ。

 

 冷めた目でそんなことを思っていた、けれど。

 黒猫のぬいぐるみもまた、知らなかったのだ。

 絶望的なその事実を。

  

  

 初日の翔太の行動は、

 ――『ナデナデ』までが、強制イベントであることを。

 

 

 558回目。

 死因:ナデポ死。(Over Kill!!)

 

 シュルツより一言:なん……だと……

 

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