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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
幕間 ヒナ&シュルツ
25/103

幕間(シュルツパート) 死ぬ話

 

 危ないと思った。

 もう少しで情にほだされるような気がした。

 

 シュルツはヒナを眺めながらそんなことを思う。

 あんな、コウノトリが赤ちゃんを運んでくるのだと信じていそうな顔をして、いったいなにをのたまうのか。

 ひどいサギである。清純サギだ。

 完全にビッチじゃないか。

 コシのあるうどんをこねられるビッチだ。

 

 一体今まで、何人の男女がこのヒナの前に、

 ハートをボロボロにされてきたのかと思うと、シュルツの胸も痛くなる。

 こんなビッチに、心の扉をこじ開けられてゆくのがまた悔しい。

 

「あのさ、ヒナさん」

「はーい?」

 

 呼びかけると、顔をあげてしっかりとこちらを見るヒナ。

 ぴんと背筋が伸びていたり、いちいち所作が美しく礼儀正しかったりする。

 ビッチのくせに、だ。


「きょうはこのまま、休憩にしようよ」

「ふぇ?」

「ほら、お互いずっと一緒にいて、そろそろ疲れてきたでしょ?」

「いえぜんぜん。楽しいですよ?」

 

 そう言うと思っていた。

 シュルツはこめかみをひきつらせながら告げる。


「ボクが疲れてきたんで……

 ちょっと、部屋に戻っているね」

「それって……?」

「この体もいったん消すからさ。

 用があったら呼びかけてくれたら答えるから」

「はい、わかりました」

 

 余計なことも聞かずに、淑やかにうなずくヒナ。

 よっぽどシュルツを信頼しているのかなんなのか。

 

 基本的には、おとなしくて聞き上手なところがまたアレだ。

 癒し系の雰囲気を発するビッチだ。

 まあそれはいい。 


「じゃあ、えっと。一応、眠ったりする?

 言ってくれたら布団出したり、電気暗くしたりするよ」

「あ、それなら」

 

 ヒナは手のひらを合わせた。

 まるで拝むようにお腹に手首を当ててそうするのが、彼女の癖だ。

 

 シュルツは社会人になってから習ったことだが、

 両手を前で組むのはビジネスマナーの初歩であり、

『わたしはあなたに敵意はありません。あなたに尽くしています』という意思表示なのだという。

 

 ヒナがどこまで効果を狙っているかは疑問だ。

 すべて知っていて、相手の心理をコントロールするために行なっているような気もするし。

 ……いや、むしろ素でそんな態度を示しているほうが、天然ビッチ感がしてさらに怖いかもしれない。


 それはさておき。 


「その、ひとりで『乙女は辛いデス』をプレイしてても……いいですか?」

「え? さんざんやったのに?」

 

 さすがに聞き返す。

 544回死んで、まだやりたいっていうのか。

 臨死体験の喜びに目覚めたっていうのか。

 やばい。


 しかし、それでもヒナはうなずいた。

 照れたように頬を赤く染め、微笑する。


「楽しいですよ、このゲーム」


 うわあ、とシュルツは思った。

 ヒナに好意を持っていない人でも、落ちてしまいそうな笑顔だ。

 

 というか、開発部の人間が聞いたら涙を流して喜ぶんじゃないだろうか。

 精一杯作ったゲームをここまで評価してくれるヒナを、女神のように崇め出すかもしれない。

 本性はファッキンビッチのくせに。

 

「わ、わかったよ。

 ウィンドウは常に表示しておくから。

 でも勝手に二日目から先に進めちゃだめだよ。

 一応、キミを見守るのもボクの仕事なんだから」

「あ、だいじょぶです。

 初日からまたプレイしてます」

「そっか……」

 

 いよいよ意味がわからない。

 このビッチは、イカれちまったのかもしれない。

 あれほどまでに死んでおきながら、まだ死にたいというなんて。


「じゃ、じゃあ、またね」

「はぁーい」


 その場にひとり残されることへの恐怖もないようだ。

 にこやかに手を振ってくる。

 シュルツを疑う気持ちを微塵も持っていない。

 

 藤井ヒナは本当に変わっている。

 人類を超越した数値である恋愛力53万は、伊達ではない。

 

 

 

 ◆◆

 

  

 

「ふう」

 

 と、シュルツは息をついた。


 シュルツの本体がいるのは、ヒナのいるプレイルームの隣。

 すなわちここ。観測ルームだ。

 棒人間も黒猫のぬいぐるみも、この部屋から出力しているのだ。

 

 ヒナのいた時代の日本に換算すると、八畳ほどのシンプルなルームである。

 ベッドとクローゼット装置、それにモニターと演算機械が備えられていた。

 

 人間シュルツは、首を回しながらため息。


「まったく……

 あの子といたから耐えられるものの……

 通常だったら精神が崩壊しているところだよ……

 素数を数える暇もありゃしない」

 

 久々に聞く自分の肉声は、他人のもののようだった。

 

「いや、でも、あの子とじゃなかったら、

 ここまで閉じこめられるここともなかったんだよな……」

 

 一体なにが悪いのか。

 どちらが悪いのか。


 いや確実に言えることは、

 この状況を作り出した社内の人間たちが一番悪い。


「大体、このままあの子とふたりっきりで、

 一体いつまで過ごせばいいの……」

 

 ひとりになってベッドに飛び込んでみた。

 頬に当たるシーツのさわやかさが気持ちいい、けれど。

 

 部屋の中はどこまでも無音。

 しーん、と耳が痛くなる。

 

 そのとき、ヒナの笑い声が聞こえた。

 思わず顔をあげる。


「……え、幻聴?」

 

 自分とヒナはそれほどの時間一緒にいたのだ。

 仕方ない話だ。


 寝る前にプレイしたパズルゲームが、

 目をつむっても再生されるようなものだろう、と思ったけれど。


「……ん?」

 

 目を凝らす。モニターにヒナが映っている。

 ああそうか、彼女はゲームをプレイしたいと言っていたんだ。

 

「まさか、二日目のデータを消したりしないよね。

 ボクと一緒にここに閉じこもるために……とか」


 ハイライトのなくなった目のヒナが脳裏に浮かぶ。

 さすがにそこまでヒナのことを疑っているわけじゃないが。

 それでも半ば義務感で立ち上がり、モニターに近づいてゆく。

 

 画面の中のヒナは、校門前に立っていた。

 スタート地点だ。

 そこに優斗がやってくる。


 すると。


『優斗くーん!

 優斗くん、優斗くん、優斗きゅんー!』

 

 ヒナが奇声をあげながら優斗に抱きついていた。

 もちろん即死だ。

 耳から血をまき散らしながら、その場にぶっ倒れる。

 

 ……なんだこれ。

 

 一体なにがしたかったんだ。

 本当にただ死にたかっただけなのだろうか。

 

 冷めた目で観察を続けるシュルツ。

 

 

 すると、葬式シーンに切り替わって。

 もちろん優斗は責任を感じて、マリアナ海溝よりも深く落ち込んでいるのだけど。

 

 そこに幽霊ヒナが背中から抱きついていたりする。

 その顔は子狸のように緩みきっている。

 清純さのかけらもない。


『はぁ~~、優斗くん~~。

 わたしがんばったよぉ~~。がんばったんだからぁ~~。

 すっごくつらたんだったんだからねぇ~……

 だからぁ……

 ほめてぇ、なでてぇ、ぎゅ~っとしてよぉ……』

 

 あの押しつけがましいほどの清楚なヒナが、

 なんかもう、トロけるような笑顔で悶えている。

 

 時折、ビクビクとはねて、さらに気絶なんかしていたりする。

 白目を剥いているときだってあった。こわい。



 シュルツに見られているとも知らず。

 ヒナはしばらく優斗につきまとっていた。


 飽きてベッドに横になったシュルツが見ると、まだやっていた。

 もう三時間以上も経ったのに。


 場面は夜。優斗の部屋のようだ。

 眠っている優斗はうなされていた。

 そのベッドサイドで、優斗の寝顔をにへら~~……っと眺める幽霊ヒナ。

 優斗は完全に悪霊に取り憑かれてしまっていた。

 ヒナの感情は、とっくに切り離されているはずなのに……



 ……今まで色々とため込んでいたものが弾けたのだろう。

 彼女もきっと、限界寸前だったのだ。

 今の恋愛力を測定したら、とんでもない数値が出るのかもしれない。


 しかし。

 そうか、そうだよな、とシュルツはうなずく。


 ゴッデスオブビッチのように思っていたけれど。

 でもヒナだって、生身の高校二年生だ。

 辛いことだってあるし、悲しい思いだってする。

 決してクソビッチ界を司る神というわけではないのだ。

 

 仕方ない。

 だから、あまりプライベートは詮索しないでやろう。


 仏心を出して、そんなことを思ったものの。

 自分の役目はモニター役の管理だ。

 どうしても、目には入ってしまう。




 再び校門前。

 優斗に向かって満面の笑みで飛びつくヒナ。


『ナデナデシテー! ナデナデシテー!』


 なんかもう壊れているのか、片言で黄色い声をあげるヒナ。

 優斗は戸惑いながらもそれに応じて。


『お、おう? こう、か?』

『モルスァ!』


 ヒナは血液をまき散らしながら、

 まるでファービー人形のように吹き飛んでゆく。

 

 思わずシュルツの口から言葉が漏れ出た。


「……なんだこれ」

 

 

 ……自分は一体、

 今までなにものと過ごしてきたのだろうか。

 

 

 

 545回目。

 546回目。

 547回目。

 548回目。

 549回目。

 550回目。

 551回目。

 552回目。

 553回目。

 554回目。

 555回目。


 死因:自殺。詳しくはヒナの名誉のため割愛。


 シュルツより一言:なにこの子、おもしろい。




 次回、第三章。

『永遠より長い二日目』。過度な期待はご用心!

  

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