●第九話 『ダークエルフ』
話し合いは長引いたが、リリは協力しただけで、とどめは僕が刺したことにした。
実際、景山にとどめを刺したのは僕だ。
ただ、【次元アイテムボックス】のことはこのまま国交省やギルドにも黙っておくつもりだ。
今回の一件で、レアアイテムの本当の恐ろしさにようやく気づいた。
これは文字通り、死を呼ぶアイテムだ。
もはや呪物と言ってもいい。
地上に戻ったら、カラーコンタクトも買っておこう。
「じゃ、戻ろう」
「ええ、そうね」
それきり、みんな黙り込み、静かに歩く。
これからどうするかは話し合って決定したが、結果がどう転ぶかは運次第だ。
リリがおとがめ無しでそのまま自由行動を許されるか、それとも何らかの理由で拘束されてしまうか。
このまま、ダンジョンで暮らすというのは……不可能だろうな。
まず、食料やその他の生活必需品がない。
僕らの誰かが搬入し続けるにしても、ずっとダンジョンの中では気が滅入ってしまうだろう。
せめてどこかセーフティエリアで……
「待って、うなり声が聞こえる」
晶が最初に気づいた。
「向こうの線路の先だな」
「鉢合わせしないように、迂回しましょう。こっちよ」
引き返そうとしたとき、今度は少女の悲鳴が聞こえた。
「誰か襲われてる!?」
「久々津、どうするの?」
「助けよう」
「「「了解!」」」
線路の先から横にトンネルが延びており、その向こうから、少女が呪文を唱える詠唱の声が聞こえた。
「初級の氷呪文です。まずいですね、あんなのでは複数のグレイウルフを相手にできません。急ぎましょう」
リリが言い、僕らも急ぐ。
「いた!」
すでに少女は一頭のグレイウルフにのしかかられ、今にも首に噛みつかれそうになっていた。
「リリ!」
「はい! ――蒼き天空を駆け巡る雷霆よ、我が指先に集え! されば閃光は我が敵を貫かん。ライトニング!」
リリの電撃魔法が、のしかかっていたグレイウルフを直撃して、吹っ飛ばした。
「GAU!」
残りのグレイウルフがこちらに気づき、一斉に向かってくる。
「【毒針!】」
「よし、クリティカル!」
晶と柑奈が左右に展開し、それぞれ上手く敵を引き付ける。戦闘経験を積んだせいだろうか。特に指示無しでも、僕らはそのあたりは自然と対応できるようになっていた。
「これでクリアだ!」
三頭のグレイウルフを一瞬で片付けた。
レベルが上がっているし、僕らも確実に強くなっている。
「うーん、久々津や柑奈に比べると、私の攻撃は弱くなってるわね」
「じゃあ晶も、剣術をやってみたら?」
「そうね、考えとく。それより、久々津、早く彼女の手当を」
「ああ」
上級ポーションを取り出し、少女の腕と足の出血している部分にかけてやる。幸い、急所はケガをしていないので、これで大丈夫のはずだ。
「あ……」
気がついたようだ。開いた赤い色の瞳に、ちょっと動揺する。髪の色も銀色で、肌は褐色、か……。
「大丈夫かい? 他の仲間は?」
彼女は一人だけ。それに随分と幼く見える。まぁ、水月も中学生くらいに見えたし、見た目とは裏腹にもっと年上なのかもしれないが。
「助けてくれてありがとう、お兄ちゃん。でも、私、一人でこの洞窟に入ったの」
「ええ? ダンジョンに一人で?」
「ううん、最初はダンジョンじゃなかったの。この洞窟には、水晶茸があるから。お父さんには危ないから入っちゃダメって言われてたけど、ひっく、お母さんが病気で、うわーん」
泣き出してしまった。
僕らがアワアワしていると、リリが少女を優しく抱きしめてやった。
「もう大丈夫ですよ。お姉さんたちが水晶茸を取ってきて、お家まで送ってあげるね」
「本当?」
「もちろん。光の巫女、ああ……光の巫女は嘘をつかないんだから」
リリは言いかけて、途中で何かを思い出したようで、自信のあふれた笑顔で言った。
「お姉ちゃん、光の巫女なの!?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、お母さんの病気も治して」
「ええ、みてあげるけど……」
リリも治せるかどうかもわからないので、困惑気味だ。
「じゃ、まずは水晶茸を集めよう」
「ちょっと、久々津、本気なの?」
「本気だよ。僕の推測が正しければ……彼女の故郷ではそれが薬になる。上手くいけば、リリの故郷も見つかるかもしれない」
僕には確信があった。
なぜなら、この子は
『レベル 5 メーニャ
種族:ダークエルフ
状態:憔悴
STR 5
AGI 10
VIT 9
MAG 10
DEX 6
LUC 9
残りボーナス 8』
種族が――僕らと異なっていたからだ。
ブクマや評価などよろしこ。




