●第七話 宝
「グレイウルフ三頭! 早めに片付ける」
「「「了解」」」
僕と柑奈とリリと晶の四人で渋谷ダンジョンを進む。一足先に潜った遥とは別行動だ。ダンジョン内では通信が使えないため、広いダンジョンで待ち合わせ場所も決めていないと、合流するのはほぼ不可能だな。
だが、今の僕らは高性能な武器を手に入れているし、レベルも上がってきた。
『レベル 12 久々津凪
STR 18+6
AGI 13
VIT 10+2
MAG 3+2
DEX 7+2
LUC 10
残りボーナス 0』
ボーナス振り分けはひたすらSTRにつぎ込んでいる。それとは別に、レベルが上がるごとにランダムで能力値も上がっていくので、全体で見ればそんなに極振りにもなっていない。
「よし、クリティカル!」
グレイウルフの首の骨を切り落とし、一撃で倒せるようになった。
心臓も弱点だとは思うが、四足歩行のグレイウルフの下を取れることはあんまりないので、首のほうがやりやすい。
「こっちも倒せました。クリア!」
リリが電撃魔法で一頭、晶と柑奈が協力してもう一頭を仕留め、あっという間に全滅させた。
「凄いですね、ナギさん。強くなっていますよ」
「ああ、みんなもな」
「そうね。見て、銀色の宝箱がドロップした」
晶が二十センチほどの小さめの宝箱を拾い上げた。
「何が入ってるかな」
「薬なら売るわよ」
「まぁ、【鑑定】したあとでね」
「ええ」
全員が期待の籠もった目で見つめる中、そっと晶が開ける。
「え? これって」
赤黒い魔法陣が宝箱の上に現れた。
「いけない、罠だ! 離れろ!」
僕がとっさに気づいて指示したが、宝箱は罠だったようだ。
「う、動けない。麻痺か」
全員がその場に倒れてしまっており、全員が麻痺を食らってしまった。
ここでモンスターが出てきたら、大ピンチだな……
「ごめん、私が開けてしまったせいで……」
「そんなの晶のせいじゃないだろ。それより、少し静かにしていよう。モンスターに見つかると面倒だ」
「そうね」
静かにした途端、別の方向から物音がした。
くそっ、手遅れだったか?
複数の足音が聞こえ、近づいてきた。
「景山さん、冒険者が倒れています」
「おやおや、これはラッキーじゃあないですか。良いアイテムを持っていないか、確認してみますかね」
聞き覚えのある声。Aランクの魔術師クラン『ゴースト』の景山か。
ひとまずモンスターでなくて助かったが……。
「どうも、景山さん。すみませんが、助けてもらえませんか」
「んん? なんだ麻痺か……まぁ、周りには私たちしかいませんし、ここはサクッとやっちゃいましょうか。その【竜眼】、前から私も欲しいと思っていたんですよ、ククク」
景山のパーディーメンバーは表情一つ変えない。こりゃ、ただの冗談というわけでもなさそうだ。
「ちょっ、生きた人間から魔石みたいに取ろうっていうの?」
晶が信じられないというように問い詰めるが、景山はみじんも動揺していない。むしろ楽しそうだ。
「ええ、そうですとも。だいたい、モンスターと人間って、何か違うんですかね? 同じでしょう? さすがに魔石や宝箱はドロップしませんが、経験値は倒すと手に入りますしね」
つまり、景山は人間をすでに殺したことがあるってことか。最悪だな。
「くっ。なんなのこいつ。言っておくけど、このリリには国交省の監視が付いてるわよ」
「監視? 国交省のメンバーがそこにいるのですか?」
「いいえ。でも、監視対象にはしてるって、月見さんから聞いてるわ」
「そうですか。ま、国交省の監視対象であろうと、ククッ、ダンジョンの内部ではいかなる通信も不可能。使い魔などごく一部の魔術的な方法は使えますが、このウィザード景山の前ではそのような低レベル魔術など無力。それに、外でも上手くやればバレないんですよ」
「ダンジョンの外? ああ、渋谷のスクランブル交差点の殺人事件、もしかして犯人はお前らだったのか」
古手川が話していた、腹をかっさばかれたという死体。
「ええ。そうですよ」
否定すらしなかった。
「だが、電撃魔法は使えないだろうに」
「スタンガンですよ。ちょっとばかり改造して強力にしてありましてね」
そういって懐から出してバチバチと鳴らす景山。
「なるほど、道具だったか……」
古手川が「たぶん電撃魔法だ」なんて言うから、てっきりそうだと思い込んでしまった。
「では、スッキリご納得いただいたところで、あなたの【竜眼】を頂戴するとしましょうか」
「くっ」
交渉は不可能。
ならば――
動け! 動け動け動け動け!
起きろよ、竜!
「……久々津さん、今まで一緒に冒険できて、楽しかったです。約束を守れなくてごめんなさい」
「リリ? いや、待て、まだ方法があるはずだ!」
リリが僕とした約束は、人間を殺さないというものだった。
「いいえ、たぶん、これが最善です。相手はAランカーですよね? 他に方法はないでしょう。晶さんも私の服を買って頂いて、ありがとうございました」
「ああ……素晴らしい。覚悟を決めての最後の別れの挨拶ですか。ええ、ええ、それくらいは私も待って差し上げますよ。神に等しい無敵のAランクを前にすれば、それ以下は無力、ゴミ、虫けらでしかない。焦らずにどうか水入らずで心ゆくまで語り合ってください。メメント・モリ、人は最後の審判を前にしてこそ、本音で語り合えるのです」
麻痺状態は未だ回復せず。
ポーションも一本だけ、麻痺を回復させるというオトギリソウを調合したものがあるが、全員分を用意していなかった僕の痛恨のミスだ。
そうだな、ここは今後の一緒の冒険なんかよりも、リリの命を優先すべきだ。
なんとしても彼女にはここを乗り切って逃げてもらいたい。
正当防衛はもちろん僕らが主張するが、それで国交省がモンスターかもしれない容疑者をおとがめ無しにするとは思えない。
どんな理由であれ、リリが人を殺せば……あとはない。
だからこそ、僕は頭をフル回転させる。
余計な事は良い、リリがここで完璧に呪文を完成させるために。
そのためには景山がリリの呪文に気づくのを可能な限り遅らせる必要がある。
幸い、舐めているらしい景山はリリが強力な呪文を使えることを知らない様子。
だとすれば、これだな。




