●第三話 新ダンジョンの出現
グループチャットで話し合い、今日は代々木ダンジョンへ向かうことになった。
「じゃ、店を出よう」
「あ、私の分、払いますよ」
「いいよ、このくらいは奢ってやる」
「ありがとうございます、ナギさん」
駅に向かって二人で歩く。握ってくる手を一度振り払い、進んでいると、前に人だかりができて急に進めなくなった。
「何だろう?」
「さあ? テレビの撮影か、有名人のゲリラライブ?」
はた迷惑な。
「じゃ、迂回して別の道から行こう」
「はい」
横断歩道まで引き返しはじめたが、すぐに後ろで悲鳴が上がった。
「まずいな。何かあったみたいだ。柑奈、急いでここを離れるぞ」
「はい!」
モンスター相手ならともかく、ここはダンジョンの外だ。
冒険者であっても、ダンジョンの外では一般人とさして変わらないのだ。
街中での武装も厳しく制限されている。
だが――
上から飛んできた何かが、僕の目の前に着地した。
大型犬?
だが、そいつは血らだけで気を失った人間を咥えていた。
まずは【鑑定】しないと。
『名称 ??? LV ???』
不明……ということは、高レベルのモンスターか!
「柑奈、先に逃げろ」
「冗談、ここで私だけ逃げたら、真衣に平手打ちを食らいますって」
「だが、こいつは見たところ、僕らが敵う相手じゃなさそうだ」
「ダンジョンの外、ですしね……まさか外にモンスターが出てくるとは」
「でも、コイツはどこから……」
その謎はすぐに解けた。人だかりの向こうで叫ぶ声がした。
「新ダンジョンだ! ダンジョンが出現したぞ! 誰か早くギルドに通報しろ!」
新ダンジョンの発生は珍しくもないが、僕もその場に居合わせたのはこれが初めてだった。
ショートソード+2を【次元アイテムボックス】から取り出して身構える。
左手にはラウンドシールド。これはトロールの皮をギルドで加工してもらったものだ。下地がアルミなので、鋼より防御力は下がるが、軽さを重視した。
ダンジョンが近くにあるなら、冒険者の力も増幅されるはずだ。
多少は戦えるか?
だが、大型犬はこちらの剣を見た途端、咥えていた人間をアスファルトの上にそっと置き、人だかりの中に跳んでいった。
「助かった……ナギさん、今のうちに避難しましょう」
「そうもいかない」
ポーションを取り出し、倒れたままのケガ人に直接振りかける。調合済みの上級ポーションだ。
「もう、仕方ないですねぇ。警戒は私がやります」
「ああ、頼んだ」
血が止まったのを確認し、同じく駆け寄って手当してくれたサラリーマンの人にあとは任せる。
「すみません、ちょっとどいてください」
「おい、押すなって」
人だかりをかき分けて進むと、渋谷駅の改札口の脇に、不自然な脇道がつながっていた。
そこをのぞき込んだり、スマホで撮影したりしながら遠巻きに眺めている人たち。
すでに駅員らが通報しているはずだが、さっさと避難すればいいものを。
脇道から人を背負ったまま、出てきた男がいた。大声で叫ぶ。
「ヒーラーはいるか! 中でモンスターにやられた一般人の出血が酷い、手を貸してくれ! この際ランクはどうだっていいぞ! 誰かいないのか、ヒーラー!」
周りを見るが、手を上げる者はいない。ヒーラーは基本的に数が少ないのだ。
「あの、ポーションならあります」
僕は手を上げずに言う。
「頼む、使ってやってくれ。代金はあとでクラン『百花繚乱』あてに請求しろ、支払ってやる」
野武士のように髪を後ろで束ねた人物が言う。
「いりませんよ、こんな時に。曲利さんですよね、Aランクの」
ギルドサイトの顔写真で見たことがある。
「ああ、そうだ」
「気をつけてください。先ほど、白い大型犬のようなモンスターが近くにいました。最低でもレベル10以上、いえ、ランクBより上だと思います」
「ほう、その金色の瞳、【鑑定】が使えるのか」
「ええまぁ。よし、血が止まった」
「なに? ポーションのくせに効きがいいな」
「上級ポーションですからね」
「トマトジュース味の」
柑奈が付け加える。
「おお、調合か! 薬師がいたとはありがたい。まだ大勢、一般人が奥に閉じ込められているんだ。付いてきてくれ」
「わかりました」
未知のダンジョンは危険度も高いが、Aランクのこの人がいればなんとかなるだろう。
「外で待っていて、ケガ人だけ連れてきてもらえば良いのに」
柑奈が言うが。
「運ぶのに人手が足りない。担架もないから、下手に運ぶのは危険だ。一応、荷物の中にはあったんだがなぁ。ポーターが現地集合で今ここにいないんだよな。オレたちはこれから代々木ダンジョンに潜る予定だったんだ」
「代々木ダンジョンですか。僕らもです」
「パーティー名は?」
「『ハイドシーカー』です。僕は久々津、彼女は鵜飼」
「隠れ探索者……か、パーティーランクは?」
「まだ認定をもらっていません、駆け出しで、僕も彼女もDランクです」
「そうか、なら、オレから離れないでくれ。モンスターはオレらで全部片付けてやる。心! 装備は持ってきたか!」
「雄馬さーん、刀だけですけど、ふぅ、はぁ」
「ああ? 刀だけかよ。まぁ、お前のなりじゃ、仕方ないか」
小柄な少女が二振りの刀を担いでいる。どちらも長めだ。太いほうを曲利雄馬が受け取り、そのまま鞘はその場に投げ捨てた。
「腰巻きがないから、鞘も邪魔なだけだ。心、お前もここに置いていけ」
「ええ? 刃を剥き出しって、それはちょっと。それに私は居合いが使えますし」
「そうだったな。コイツ、こう見えてもAランクなんだぜ?」
「ええっ」
「あっ、水月心」
柑奈が彼女の名前を先に思い出して言う。
「ど、どうも」
照れたように、はにかんでお辞儀した水月は気が小さそうだ。
「時間が無い、急ぐぞ」
「「「はい!」」」
夏バテ……
5月の時点で痩せている人は体重を上げておいたほうが良いですね。




