●第十話 『白丸ダンジョン』
それから一週間、僕らはひたすらストイックな基礎トレーニングを行った。自主トレのメニューはすべて自分達で考えたものだ。朝のランニング、腕立て、腹筋、背筋、スクワット。午前中は剣の素振り。午後は風齋先生の道場で瞑想。柑奈は高校の授業が終わった放課後に合流。予想はしていたが、一度も剣は握らず、ひたすら瞑想だ。
「さて、二人とも覚えが良いのぉ、結構、結構。では、今日はちょっと剣術をサボって、鉱石を取ってきてくれんか」
「鉱石ですか?」
「さよう。一条よ、『白丸ダンジョン』の場所を二人に教えてやりなさい」
「はい。それで風齋先生、どのような鉱石をお望みでしょうか?」
「そうさな。ミスリルがええのぉ」
「ですが……白丸ダンジョンでミスリルは滅多に採れませんが」
「まぁ、鋼か玉鋼でも、それなりに上質ならば何でも構わんよ」
「承知しました。つるはしはお借りしても?」
「必要なものは一式、何でも持っていくが良い」
遥に道場の武器庫に案内してもらい、アダマンタイト製のつるはしと、ヒヒイロカネ製のつるはしがあったので、ライト付きヘルメットと一緒に、それらを借りることした。アダマンタイトはやや半透明の黒色、ヒヒイロカネは虹色の反射を持つ赤い金属で、どちらも不思議な質感だ。他にも、ありとあらゆる武具があり、ヌンチャクや斧、自動小銃や手榴弾さえあった。
「ナギさん、これ……許可は取ってあるんでしょうか?」
柑奈が顔を引きつらせながら聞いてくる。
「あるんじゃないか? 弟子に冒険者も多いだろうし」
「ああ、それもそうでしょうね。でも、このつるはし、不思議な金属ですね。虹色に光ってる」
「ヒヒイロカネだからな。ダンジョン産で間違いない。伝説上の金属だ」
「ヒヒイロカネ? 名前は聞いたことがあるんですけど、性質は?」
「少し熱を加えるだけで、メッチャ熱くなるらしいぞ」
【竜眼】の【鑑定】ではこう出ている。
『名称 ヒヒイロカネのつるはし
レア度 S
攻撃力 125
命中力 28
重さ 12
解説 ダイヤモンドよりも硬く、
アルミよりも軽い金属。
炎属性と氷属性を吸収。雷属性を遮断。
数枚の葉を燃やすだけで茶が沸く。
太陽を零したような朱く美しい光沢』
「なるほど。鉱石に押し当てて火であぶれば、上手くいきそうですね」
「ああ。火なら古手川さんだけど……リリの電撃でも行けるかな」
「じゃあ、リリさんにも手伝ってもらいましょうよ。別に、二人だけで取ってこいって言われたわけでもないですし」
「まぁなあ。今日はサボってとも言われたし、修行はいったん忘れるか」
晶も呼び、今日は鉱石集めをやることにした。
青梅線に乗り換え、奥多摩駅で降りる。
山、山、山。そこには山しかなかった。
「わぁ、大自然って感じねぇ。東京にこんな場所があったんだ」
駅を下りて周りを見回した晶が感嘆したように言う。
山頂が霧に覆われた高い山々に囲まれ、木々がびっしりと生い茂り、ハイキングにはぴったりだろう。
「ここは空気が良いですね。落ち着きます」
リリが深呼吸して微笑む。
「遥さん、ダンジョンの入り口はどっちですか?」
「向こうです」
遥を先頭に、僕らはハイキング気分で山道をのんびり歩く。『スタンピード』でも無い限り、ダンジョンの外は安全で、日常は何も変わらない。
木枠で補強された古い坑道をくぐると、ダンジョンのゲートがあった。
「じゃ、装備を調えよう」
ゲート前で装備を調える。【次元アイテムボックス】から装備一式を取り出し、ライト付きヘルメットを配る。遥のフルプレート鎧も取り出して、彼女の装備を手伝う。ゲームなら一瞬だが、フルプレート鎧は鎧下という布服も着なければならないので、結構大変だ。
「その【アイテムボックス】、本当に便利ですね。私の場合、今まではダンジョンで回収したアイテムを車で移動するか、誰かポーターさんに運んでもらわないと自分の鎧が持ち帰れなくて」
遥が言うが、それでナイト職はあんまり見かけないんだろうな。
ゲートチェックを通ると、そこは鉱山の採掘場になっており、人数は少ないが、つるはしをふるって鉱石を掘っている冒険者パーティーがちらほらといた。
「ここは鉱石がよく採れるんです。大半は鉄鉱石ですが」
「風齋先生は、ミスリルを欲しがってたなぁ」
「遥さんの鎧と同じ材質、少し青みがかった銀色を探せばいいわけね」
晶が遥の鎧を見ながら言う。
「そうですね。錬成前の鉱石だともっと鈍い色ですが」
「あっ、あれはどうですか?」
柑奈が指さしたので、僕は首を横に振る。
「あれは玉鋼だな」
「なんですぐ材質まで分かるんですか、ナギさんは」
「【竜眼】で【鑑定】が使えるからね」
「なんか、無茶苦茶ですね」
「そうか? 玉鋼が直に転がってるほうが僕には無茶苦茶だよ。やっぱりダンジョンだなぁ」
本来、玉鋼は叩いて練り上げるといったような金属であり、その辺で拾ってくるようなものではない。日本刀の材料として有名だが、キンキンカンカンと何度も叩いて鍛え上げるのが本当の造り方だ。
とはいえ、玉鋼でもいいと言われているので、拾って【次元アイテムボックス】へ放り込んでおく。
「さて、次は……あれ? 今、あそこの岩が動いたような……」
「気をつけてください。ここには少数ですが、モンスターもいます。ロックスネイルですね」
遥に言われて気づいたが、岩の下に動く軟体生物がいた。四十センチほどの岩のカタツムリだ。
背負った岩の部分は硬く、ハンマーでもない限り、破壊は無理だろう。
ちょうどアダマンタイト製のつるはしを持っているので、岩も試してみたくなるが、腕がしびれそうなので、軟体のほうを狙って攻撃。
「――蒼き天空を駆け巡る雷霆よ、我が指先に集え! されば閃光は我が敵を貫かん、ライトニング!」
リリが雷の呪文を唱えると、直線上の二匹がひっくり返って煙と化した。
攻略情報通り、雷が一番効くな。リリの魔法は常に一撃なので、威力が元から凄いのかもしれないが。
「クリア!」
そしてこいつのドロップは言わずと知れた鉱石だ。
黒色のロックスネイルは三匹とも鉄鉱石だったが、一匹だけ遥が倒したロックスネイルは岩の色が違っていた。ドロップも青みがかった銀色で、ひと目でレアだとわかる。
『名称 ミスリルの鉱石
レア度 A
攻撃力 25
命中力 3
重さ 3
解説 鋼よりも硬く、アルミ並に軽い金属。
敵対する魔法には耐性が高いが、
魔法付与にも親和性が高いという不思議な性質を持つ。
ドワーフの職人がこよなく愛し、
広く美術品や武具に加工される最良の金属の一種。
神秘的な蒼く美しいオーラが特徴。
聖銀とも呼ばれ、破邪の効果も兼ね備える』
「おお、ミスリルだ!」
「やりましたね! ふだんは滅多に見つからないのですが、運が良いです」
「よし、このくらいのトロいモンスターなら、歩き回って、レアだけ狩ろう」
「ううん……足場が悪いところも多いので、転倒や囲まれたときが心配です」
遥が心配した。
「大丈夫です。単独で行動したり、パーティーを分散したりはしませんよ。さあ、レア鉱石を集めまくろう!」
「おー!」
リリと僕だけテンションが上がっているが、ま、いいだろう。
あくまでフィクションです。




