●第十二話 調合
ステータス調整を終えたので、今度は調合に取りかかる。
ギルドの初心者向け調合セットだ。
薬草の種類と定番の調合方法が記した冊子もある。
最初に本命の、『毒消し草』からの『毒消しポーション』生成。
『万能薬』の代わりに【竜眼】を治してくれればと思っているが、まぁそんなに当てにしていない。
治れば治ったで、晶を安心させてやれるんだけど。
「なになに? まず毒消し草を3枚すりつぶして、水を加えて、今度は攪拌か」
さすがに混ぜる機械などは持っていないので、割り箸でビーカーの中身を混ぜつつ、アルコールランプで過熱。
「うーん、時間かかるなぁ。よし、レンチンしちゃおう」
レンジでチンしたらあっという間にほかほか状態で、良い紫色になった。
「これを濾紙で濾過して……と。あっつ!」
やけど注意。
「毒消しポーションのできあがり~」
ギルドで三百円で店売りしている安物のポーションではあるのだが、自分で作ったという満足度がある。
「さて、試飲してみるか。んぐんぐ、うへぇ、味がない、まっず」
見た目は綺麗でほんのり芳香もあるのに、やや苦みのある液体で期待したのと全然違った。
「あとは、目か……ええい、まあやってみるか」
ビーカーから直接、目に垂らすのはなんだか怖かったので、ティッシュに染ませて、それを目の上で絞ってみる。
数滴ほど、左目に落ちた。
「んー、なんともないな。まぁ、そんなもんだろう」
あとはせっかくなので、回復薬草からポーションを作っておこう。
こちらはヨモギに似た薬草を五枚、乳鉢ですりつぶし、それに水を加えて煮込む。
上級ポーションは強い酒を入れて抽出するらしいのだが、ま、初心者だし、材料もそろっていないからこれでいい。
「それにしても、どれも同じに見えた葉っぱだけど、よくよく見ると元気さが違うな」
少しへなっとして元気がなくなった葉っぱも多い。味は最高に苦い。お守り代わりにポーションを一瓶だけ持っていたが、なんだか飲む気がしなくなった。あと、ハルトとエミとリリ、肝心なときに使ってやれなくてすまん。持っていること自体、すっかり忘れてた……。状況が状況で気が動転していたこともあるが、やっぱりヒーリングのほうが使い勝手が良さそう。
「……蜂蜜、入れてみるか」
自分用に、美味しいポーションを一つ、作っておいても罰は当たらないだろう。
何より、瀕死の状況でクソまずい液体を飲むのは余計に体力を消耗しそうだ。
「あと、リンゴ酢で爽やかさも欲しいな」
隠し味に塩も少々。経口補水液は、塩分もあるからな。
ついでに、スポーツ飲料の粉と、リンゴもすりつぶして入れてみた。
「こ、これは……!」
メッチャ美味しい。ゴキュゴキュ行ける。
それになんだか、飲むと元気が出てきた気がする。
「ふうむ。これはこれで有りだな。んん?」
『ポーション(中級)』
そんな黄色い文字がポーションの上に出た。
「まさか」
これって鑑定?
そういえば、レベルアップしたときに【竜眼】のカテゴリで【鑑定】を手に入れていたような気が。
『獲得済み:【夜目】【視力向上】【探知】【直感】【レア発見】【威圧】【赤外線】
新たにに獲得:【察知】【鑑定】【推測】New!』
意識を向けると再びこのメッセージを見ることができた。
「おお、いいぞ、鑑定が使えるのは便利だ。金色の宝箱でも鑑定料に百万円も払わなくて済む。でも、レベルの高いレアアイテムは無理かな?」
レアアイテムといえば、あの【次元アイテムボックス】だが、あれ自体は念じても外には出てこないので、鑑定は無理そう。もう一つ、その【次元アイテムボックス】に入れている赤い剛槍があるのだが……
「いや、ここで出したら、アパートを突き破って、大家さんにメッチャ怒られそう。やめとこう」
もっと小型のレアアイテムが宝箱から出てきたら試してみるとしよう。
それはそれとして、
「よーし、ミカン味とトマト味のポーションも作るぞぉー! あとアレとコレとソレも!」
隠し味にワサビと生姜も試してみよう。納豆も行けるか?
普通に楽しい。こんなワクワクする気持ちになったのは久しぶりだ。
別にそんな味のポーションを作ったからと言って、何かが変わるわけじゃない。冒険に役立つわけでもなければ、レベルが上がるわけでもない。
でも、そんなことはどうだっていいのだ。
いろいろと試してみたい。それだけだ。
いいじゃないか。自分の人生、たまには自分の気持ちに素直に生きたっていいだろう。
やりたいことをやる。
しかも――根拠は何もないのだが、この【竜眼】にはとてつもない可能性を感じる。
僕が今まで想像もできなかったような未来が目の前に開けるのではないか、そんな気さえしてしまう。
よせよせ、冗談だろう。久々津凪よ、お前は今までの負け組人生で嫌というほど思い知らされてるはずだろう?
世の中は最初から平等じゃないってことを。その無慈悲な理不尽さを。
でも――それでも。
試してみてもいいのかもしれない。
僕の何かが目覚め始めていた。




