●第一話 困惑
三日後、ようやく左目の腫れがほとんど気にならない状態になってきた。
だが、鏡で見ると、瞳の部分が金色になっていて不気味だ。は虫類や猫みたいな瞳になってしまった。
幻覚も時々見える。頭痛も時々。
医者の話では目の構造が変わっていて、しかし、傷ややけどは癒えているという。遺伝子検査をさせて欲しいというので、同意したが、まだ結果は聞いていない。多少不便だが、右目がまともなので生活はそれほど困らないはずだ。
左目も幻覚が見える以外は、むしろ視力が良くなっていた。2.0は余裕で見える。
「どうしよう。困ったことになっちゃった」
晶が見舞いに病室までやってきてくれたが、難題を抱えてしまっているようだ。
「聞こう」
「エミさんの死体はほとんど溶けてしまっていて、DNA検査も歯の検査もできなかったって」
「そうか……ハルトさんは?」
「彼は腕と頭が残っていて、本人と断定されたわ。でもどうして二人がそんなに違うのか……」
「エミさんは正面から顔に吐き出した毒物をそのまま浴びてしまったから、その差だろう」
「そうかしら? それにしたって……」
「それが、困ったことなのか?」
「違う。気にはなるけど、それはハッキリ言ってどうでもいい。それより、あの槍が刺さってた子のほうよ」
「ああ。まだ意識が戻らないんだってな」
せっかく助けたのに、残念だ。リリとも少しだけだが話をしているので、助かって欲しいと思う。
「生き延びてるだけで私には怖いわよ。しかも、彼女がエミさんだとギルド側には思われてる」
何だって?
「は? 事情は全部話したんだろう?」
「話したわよ。でも、私たちが錯乱してると思われているみたい。誰かさんが、幻覚まで見えている状態だし」
「あー」
この状況だと、僕の証言は無意味だな。
「しかし、いくら同じ金髪だって言っても、髪型はリリのほうがずっと長いのに」
「そうね、それより久々津、左目は酷くなってない?」
「大丈夫だよ。幻覚は相変わらずだけど、ほら、腫れも大分引いて、視力は前より良くなってる」
「なにそれ気持ち悪い。それに、人間の目とは思えないんだけど……。竜に変身したりしないでよね」
「しないよ。もう変化は収まってる。しかし、リリの意識が戻らないと、僕らの話じゃ信用してもらえないかもな」
「……このまま一生、意識が戻らない方が良いのかもしれない」
晶は目を伏せて、握り拳を作ったまま言った。きっと彼女の本心ではないはずだ。
「そう酷いことを言わないでくれよ」
せっかく助けたのに、それでは報われない。誰も。
「どうしてあなたがあんな不気味な存在にそこまで親身なのか、不思議なんだけど。……やっぱり可愛くて美人だからかしらねー」
「いやいや。それは関係ない」
君だって可愛くて美人だと思ったが、言わないでおく。というか言えない。
「ふーん。ああ、それと、あの宝箱だけど、四千万円で売れたわ」
「よ、四千万?」
マジですか。
「ええ。分配した二千万円はあなたのウォレットに送ってあるから。ギルドの領収証も付いてる。あとで確かめて」
「それはありがとう」
きちんと分配してくれた晶は良いヤツだ。
「それと、例の隠し通路は、ダンジョンごと一時封鎖されているわ。今は調査隊が入っているって」
「なるほど。まぁそうなるだろうな」
「またあとで私たちに事情を聞くかも、だそうよ」
「もう散々聞かれて、話し尽くした気がするんだが」
「私も。なんだか他の事でも疑われているっぽいのよね。ハルトさんとエミさんを私たちがアイテムの所有権争いで殺そうとしたと。監視が今も付いてる」
「ええっ? やれやれ、そういうことか。なら、容疑が晴れるまでは大人しくしていよう。問題ないよ。白なんだから、僕らは堂々としてりゃいい」
「そうね。ありがとう。あなたと話せて良かったわ。少し肩の荷が下りた」
そう言って晶がほっとしたように僕を見たあとで、目をそらす。彼女の視線が僕の左目に向いたとき、少し動揺していたのがわかった。
「僕の目のことは運が悪かっただけだから気にしなくていい。ハルトさんとエミさんの二人のことは、君の責任ってわけでもない。あの場のパーティー全員の責任だ」
「うん……。じゃ、私はあなたの目が治せないか、調べてくるわ。ダンジョン産の万能薬が近々オークションに出るって話があるの」
「そう。まぁ、ダメ元で参加してみるかな」
二千万円という大金も手に入ったことだ。
「きっと治るわ。いえ、治してみせる」
「心強いね。ありがとう」
彼女にとってはハルトとエミの死が重い荷物となって、そのせいで必死に僕の目の治療に意識が行くのだろうが、ま、今はそうさせておこう。僕の目の方は治る可能性があるが、もう二人のダンジョンの死はどうにもならないからだ。




