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●第十話 黄金の瞳

 カキンッと変な音がして、ナイフがはじき返される。


「な、なんだ、今のは」

 まるで鉄かガラスのように……


「久々津、落ち着いて聞いて。あなたの目、傷ついてはいないけど、金色になってる」

「ええ? それより、二人は?」

「……死んだわ。こんなもののせいで!」


 晶がやり場のない怒りをあらわにする。僕ら二人にとって、ハルトとエミは嫌いな人間ではあったが、何もここまでの仕打ちを受けるようなことをしてきたわけではなかったはずだ。


 ――ダンジョンは理不尽だ。

 薬の瓶の中身を捨てなければ、と思ってそちらを見ると、すべて床に流れ落ちたようで、瓶は空に、床は赤黒い染みになっていた。

 黄金色の宝箱に浮かれていた結果がこれだ。

 それに、リリの言うことを、きちんと信じてやれば、こんなことには。


「はっ! 晶の持っている宝も、あれは」

 あの揺らめく呪われた箱を思い出した。


「あれは……あれ? 黄金の宝箱がなくなってる」


 見回すが、ハルトの足下に落ちている分、一つしか無い。もう一つあったはずだった。大きさは晶の見つけたほうが少しだけ大きかった。確か、このくらい。んん?

 急に左手に重みが増した。


「久々津、今、あなた、何をしたの? まるで今、手品みたいに宝箱をパッと出したけど」

「いや、宝箱を思い出そうとしただけなんだが……」


 今、それが手の中にある。


「ひょっとして……」


 今度は背負い袋から薬草を取り出し、呪いの箱を思い浮かべる。

 消えた。

 もう一度、薬草を思い出そうとすると、手に戻る。


「なるほど、これはアイテムボックスだな」

「アイテムボックス? ああ、ゲームの。あの黒い箱がそうだというの?」

「そうみたいだ。次元を念じるだけで超える箱か……」


 ゲームの世界ではありふれているが、現実ではまさに魔法。科学の領域を軽々と超えてしまっている。

いったい、誰がこんなものを作り出したというのか。


「私が手に入れたと思ったけど、なんで久々津が」

「さぁ。最初に、見て、念じたからかもね。君が触っているのを見て、危なそうだから早くどけなきゃって」

「そう。まぁいいわ。それはあなたに預けておく。それより、この二人の死亡をギルドに報告しないと。遺品を……」

「いや、遺品は危険だからそのままにしておいてギルドの人に任せた方が良い。初心者の僕らよりも、よほど扱いになれている専門家がいるはずだから」

「それもそうね。じゃあ、帰りましょう。左目はもう大丈夫なの? 痛みが止まっているみたいだけど」

「いや、まだじんじんして熱いけど、不思議と見えてるな。ちょっと色が変で二重に見えたりしてるけど、まぁ、右目が残ってるから」

「……そう」


 唇を噛んで、晶は僕から目をそらした。責任を感じたらしい。


「君のせいじゃないさ。僕だって、君に何も言われなくても、ここには来てた」

「……ごめんなさい。こんな、こんなことになるなんて、私思わなくて、ううっ」


 泣き出す彼女にどうしていいかわからず、じっと待つ。


「じゃ、帰ろう」

「うん」


 歩き出したとき、僕は思いついた。ここでまだやるべきことがあった。


「いや、その前に。竜の血を浴びた今なら、あの槍を抜けるかもしれない」


 リリはそう言っていた。力を得るかもしれないと。


「ええ?」


 助けられる可能性が少しでもあるなら試すべきだ。何もしないことで、あのときこうしていればと何度も後悔したくない。ぼうっとせずにエミにもっと速くタオルを当てていれば……彼女は助けられたかもしれない。それが、こんなに辛いとは思わなかった。

 これは損得とか、倫理とか、そんな世の中の理屈なんかの話じゃない、僕が、どうするかの問題だ。


「それは……もし、槍を抜いて襲ってくるようならすぐに逃げて」

「ああ。少なくとも重傷の状態だから、抜いて襲ってくる時点でモンスター確定だ。でも彼女は……」

 人間かもしれない。

 それを見捨てることになれば、必ず後悔するだろう。特に晶は。

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