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●第九話 黒い箱

(注意)今回は残酷な描写、グロ回です。

読み飛ばしても話の流れはつかめると思います。

「うわ、なんか呪われてるっぽい。アレはアンタ達にあげるわ。ハルト、帰るよー」

「待て待て、あっちのほうが良くないか? こっちは薬だぞ。その黒い箱は何が入ってる?」

「ダメ、触れない。見えるけど、これなんなのかしら」


 晶は怖い物しらずなのか、呪われた黒い箱を指でつついている。


「触れないとなると、幻覚か、精神体みたいなものか……」


 僕はそう推測した。ギルドの攻略サイトに登録された過去のアイテムに似たようなものがあったからだ。『導きの灯火』触っても熱さは感じないそうで、懐中電灯のように手に持つ必要がない、便利アイテムだ。


「精神体? それって、お化けみたいな物ってこと?」

「いや、そういう感じじゃなくて、ほら、こっちに来いって念じると。うわ、消えた」

「はは、消えるなんて、幻かよ。こりゃたぶん罠かハズレだな。これだけが正解ってヤツだ。ま、この宝箱だけでも金になるから持って帰るか。しっかし、Fランクのダンジョンで最高ランクの宝箱が二つも手に入るなんてなぁ」

「今までで一番いい宝箱だよね。銅しかアタシ、見たことないもん」

「ああ、人生で最高のラッキーだぜ。イエーイ!」

「イエーイ!」

 ハイタッチで喜ぶ二人。


「お前らにはその外箱をやるよ」

「何言ってるの、やるとかじゃなくて、これは最初から私の物よ」

 晶がしっかりと黄金の宝箱を抱え込む。


「じゃ、ハルト、うちらの宝箱と薬を鑑定してもらわないとね」

「鑑定か。いや待て、レアアイテムの鑑定は鑑定料がべらぼーに高かったよな?」


「「「ああ……」」」

 忘れてた。


 鑑定には鑑定士に報酬として支払わなくてはならない手数料があり、それは宝箱のレア度が上がるたびにケタが跳ね上がるという。

 だから、未開封、未鑑定のままでオークションに出てくる宝箱すらあった。鑑定しても、その鑑定代の元が取れるとは限らないのだ。


「ま、私たちには関係ないわ。帰りましょう。この黄金の宝箱だけでも結構な値段になるわ。無理に鑑定しなくたっていいんだし」

 晶が言う。


「そうだね。ギルドに報告しないと。ああ、それとハルトさん、その赤い薬は『竜の血』だそうです。飲まない方がいいですよ」

「竜の血? それ、なんでわかるんだ?」

「それは、さっき、槍に刺されてる彼女が……」

「そんなの当てにならないだろ。これ、どのくらいの鑑定料になるかな」

「さあ?」


「ああ、そういえば、マニュアルに鑑定料の目安が書いてあったかも」

 僕はそれを思い出した。


「本当か!」


 スマホでダウンロード済みの初心者向けギルドマニュアルを開いてみる。


「あった、ここだ。ええと、黄金の宝箱はうえ、百万円だそうです……たっか」

「たっか」

 エミも顔をゆがめて驚く。


「おいおい、鑑定一回だけで百万って、それ詐欺だろ」

「銀色が十万円ね。覚えておきましょう」


 一方、晶は淡々としていた。銅色は千円とかなり価格が安くなる。


「この黄金の宝箱の売値は、百万……はどうやっても行かねえな」

「エー、そう? 行く気がするけど。宝石も付いてるし」

「どうだろうな……よし、こうしよう。ちょっとだけ薬を飲んで、効果を確かめる。タダの傷薬なら、そのまま封を戻して売りだ」

「うわ、ハルト、マジ天才」

「そうかしら。使ったら全部なくなるんじゃないの?」

「それはゲームの中だろ! これは現実だっての。だから、この液体をちょっとだけ……」

「そっとよ、そっと飲んでね」

「おう」


 やめたほうが良いと思うが、ちょっとだけなら、問題ないかも。

 それに、槍に刺された少女、リリの話では、力を得るかもしれないとのことだった。

 あの巨大な剛槍を抜けるほどの。

 僕らが見守る中、慎重に深紅の液体を口の中に垂らすハルト。一口分が垂れた。口を閉じる。


「どう?」

「いや、どうって何も……味もしないぞ」


 ハルトはもっと分量を飲もうと思ったか、再び口を開け、瓶を傾けようとするが、口の方からだらりとポーションの液体?が漏れた。


「ちょっと、ハルト、何、それ」

「ああ? 何って、ぐっ!? ぐぼっ」

「えっ、きゃあっ、は、ハルト」


「い、いけない、早く吐き出して!」


 竜の血は毒だったようだ。ハルトは尋常でない量の血を吐いた。それが目の前にいたエミに勢いよくかかる。


「いやああああ、あ、熱い、何これ焼けるぅううう」

 エミの顔から白い煙が上がっている。


「酸?! しかもあんな強力だなんて、久々津、タオルを!」

「あ、ああ」


 地面に倒れ、のたうち回る二人を呆然として見ていた僕は慌てて背負い袋を下ろし、タオルを取り出す。


「エミさん、ちょっと落ち着いて」

「痛いいいい! た、助けて」


 暴れるエミを拭いてやりたいが、凄い力で暴れるので、顔にタオルを押し当てるのもやっとだ。

「つっ」


 彼女が暴れていたので、そのしずくがこちらにも飛んできた。僕の左目の中に散ったのがわかる。

 目が焼けるように痛い。


「ぐっ、晶、すぐに二人から離れろ。これは危険だ」

「久々津、目を開いて。水で洗い流すから」

「じ、自分でやる。離れた方が良い」

「いいから」

 激痛が走るのを耐えつつ、寝転がり、水筒の水を掛けてもらう。


「目をもっと開いて」

「痛すぎて無理だ!」


 その間にもシュウシュウと音を立てて煙が上がっており、これは失明だけでは済まないかもしれない。


「晶もういい、僕から離れて」

「大丈夫、あなたは助かるわ。煙も収まってきてる」


 それはいいが、頭半分が割れそうに痛い。酸は目の奥まで侵入したらしく、眼球全体が焼けるように痛い。酸だかアルカリだかわからないが、浸食して広がっている気がする。


「晶、僕の左目をナイフでえぐって捨ててくれ」

「ええ? そ、それは」


 さすがに彼女も厳しいか。僕は自分でナイフを取り出すと迷わず左目に刺した。

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