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まさか…結婚サギ?  作者: 桜 詩
3 乱の章
38/47

38,正式な求婚

亜弥の結婚式は、海の側の緑の芝が綺麗なロケーションのよい式場で行われた。

白い教会は、美しい細工のガラス窓に陽の光が差し込み、キラキラと輝かせるような造りで、慶次郎も亜弥も長い交際を経てこの場で誓いあった。


由梨は紫色の振り袖を着て、いつもより少し華やかさのあるスーツ姿の貴哉と共に参列していた。

「あら、由梨ちゃん。そちらの方は?」

と親戚のおばが聞くと、

「由梨の婚約者なの」

と母がすかさず言うと、

「紺野 貴哉です」

と、貴哉もにこやかに対応していて、

「あら、じゃあもうすぐ由梨ちゃんもお嫁さんね」

など、と言われて由梨は隣で笑みを無理矢理作った。

(実際にそうなりそう、なんだけど…)


亜弥の結婚式は、親戚だけの本当に少人数で、こじんまりとしているが、ゆったりほっこりとするような披露宴となった。

みんな近況を話したり、亜弥を褒めたり慶次郎を褒めたりと、幸せな空気に包まれている。また、長い交際であったから、和成も美香子もそして、慶次郎の家族もホッとして喜びに満ちた笑顔で、周囲もつられて笑顔になったのだ。


しかし、由梨はこれから貴哉に話さなければならないことがあるとあって、緊張が隠せない。

慶次郎の挨拶もほとんど耳に入らず、亜弥の幸せそうな笑顔を眺めていた。


あっという間に感じた結婚式が終わってしまうと、式場からは貴哉の車で家へとむかう。その帰る途中で、貴哉が話しかけてくる。


「優しくて、いい雰囲気だったね」

由梨はといえば、話さなればならないからその事で頭がいっぱいだった。


「そうですね…良かったです」

気もそぞろな由梨を見て

「由梨、また悩みごと?」

と聞いてきた。

(ここが…話すときなのかも)

いつかは、話さないといけない。

先月…早く貴哉に打ち明けるべきだったと、後悔したばかりだ。


「実は…私」


「うん」

貴哉はいつも通り穏やかだ。黒さは成りを潜めていてその事にも勢いを借りて、唇に言葉をのせた。

「出来たみたいで…赤ちゃんが」


「…ほんと?」

そうは聞いていても、疑っているわけではなくて単に返答としてそう発しただけという風だった。


「そう、なんです」

落ち着いている貴哉を由梨はおそるおそる見つめ返した。

「驚かないんですか?」

「どうして?出来るような事、しただろ?」

「…それは、そうなんですけど」

「俺はとても嬉しい」


そう言われて思わず、ホッとしてしまう。いざとなれば嫌な顔をされたりしたらどうしようかと少しは思っていた。


貴哉は端に車を停車させると

「由梨、すぐに結婚しよう」

両手を握って言われて、由梨は涙ぐんだ。


「私…本当に…私でいいんですか?」

「由梨がいいと、何度でも言うよ」


「はい、私と結婚してください」


貴哉は由梨の唇に、キスをすると

「今日、このままお邪魔して和成さんに結婚の許しをもらう」


(いよいよ、この時がきたんだ…)

「はい、お願いします」

「由梨は、何も心配しないでいい。俺に任せて」

「はい」


由梨の家で、亜弥の結婚式から帰って来たばかりの両親に由梨と貴哉が結婚すると報告をしたが、


「いつ言ってくるかと、待っていたくらいだ。由梨、貴哉くん二人で頑張りなさい」

「ありがとうございます。由梨さんをこれからは俺が守ります」

貴哉はそういうと、きっちり正座で頭を下げた。


美香子も和成も貴哉の事は気に入っていたからか、笑みを浮かべて頷いている。


「由梨は明日は休みにしてたよね?」

貴哉はそう聞いてきた。

「あ、はい。そうです」

「このまま、紺野の家に報告に行ってもいいかな?」

「…あ、そうですね…」

「急がせてしまいますけど、和成さんと美香子さんも一緒に行ってくださると…スムーズかと思うんですけど」

貴哉の言葉に

「そうね、こうなったら全て急がないといけないものね」

美香子が気合いをいれて立ち上がった。

「由梨はちょうどいいから、そのままいきなさい」

「え?」

「振り袖。結婚の挨拶ならちょうどいいわ。辛くなったらいけないから着替えも持っていきなさい」

「はい~」

「由梨、お父さんにはあの事自分から言っておきなさい。向こうで聞いたら驚くかもよ」

こそっと耳打ちされて由梨にはまた緊張が走る。


由梨は麻里絵に買って貰った服をカバンに入れて準備したところで、和成の前に立った。


「お父さん、あのね」

「うん、どうした」

由梨は父に話すのはどうも、照れくさい…。

(お母さんが言って欲しかったな…)

由梨は思いきって、言葉にする。


「私、妊娠してるの」

「…だろうな。貴哉くんとお母さんの急ぎかたを見て、何となくわかった。うん、めでたいこと続きでいいじゃないか」


そうは言っても、やはり複雑そうな表情な気もしてしまう。


しかし亜弥の事で免疫がついていたのか、和成はとても落ち着いていた。

「由梨は早く職場に言って、辞めなさい。これから大変なんだから。貴哉くんも由梨にずっと働いて欲しい訳じゃないだろう」

確かに、双子となればいつどうなるか解らないし、つわりだって酷くなるかもしれない。

由梨は和成にうなずいた。

こうしてバタバタと、家族揃って紺野家へと貴哉の車で向かったのである。



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