面白そうなことはやらなくちゃ!
「あたしたち、隣のクラス同士だけどさ。根性部を設立したら、放課後はずっと一緒にいられるよ?」
「やろうっ!」
コンジョーくんがものすごい笑顔で賛成してくれた。
「根性でつくろうっ! 新しい部活!」
「よーしっ、やろうよ!」
「面白そうなことはやらなくちゃだからなっ! それに……」
コンジョーくんの顔がちょっと赤くなった。
「これから放課後ずっと朝日奈笑と二人きりになれるなんて夢みたいだぜっ」
そこへ柏木くんが横から言った。
「いや、新しい部活を設立する条件って、確か最低四人の部員が必要なはずだよ?」
「何っ!? そうなのか!?」
「あ。じゃあ……」
あたしはその場のみんなを眺め回して、言った。
「ちょうどここに四人いるじゃん」
「は!?」
梓ちゃんが声をあげた。
「何? 私はやらないからね?」
「オレは入ってもいいよ」
柏木くんは快く言ってくれた。
「神崎さんも入ってあげなよ。帰宅部なんでしょ? 何より朝日奈さんの親友じゃん?」
「笑は今まで通り、『私と帰宅する部』でいいのっ」
梓ちゃんが私を猫のように抱きしめる。
「何より──段田くんはいいけど、あんたと同じ部だなんて、まっぴらごめんだわ」
しばらく無言で歩いた。
背の高い二人には聞こえないように、水面より下で会話をするように、あたしはコンジョーくんに話しかけた。
「ねぇ……。あの二人に仲良くなってもらわないと、根性部設立できそうにないよね?」
「お……俺はべつに、設立できなくてもいいぞ? 朝日奈笑と一緒に帰宅部できるなら」
「お願い。あたし、設立したいの。設立したくなったの、根性部。設立したくなったらたまらなくなったの。世界中のひとを幸せにできる部活だと思うの、これって」
ほんとうは自分の好奇心が止まらないだけだったけど、あたしがそう言うと──
「て……、天使猫……」
あたしを見るコンジョーくんの目が、キラキラと輝いた。
「よし! 根性であの二人の親睦を深めるぞっ!」
あたしは梓ちゃんと柏木くんに持ちかけた。
「ね、ちょっと寄り道していこうよ」
学校帰りの途中、おおきな公園がある。
あたしとコンジョーくんが子どもみたいにはしゃぎながらそこへ入っていくと、梓ちゃんたちも仕方なさそうについてきた。
「見ろっ、朝日奈笑!」
コンジョーくんが前方を指さした。
「ボートがあるぞっ! 乗ろう!」
緑の丘を下ったところに平和な湖があった。
そこに白鳥やパンダやコアラの形をしたボートが浮かんでて、家族やカップルが笑顔で乗っている。
なんだか白鳥ボートにカップルで乗ると別れるみたいな都市伝説を後になって知ったけど、この時は四人ともそんなことは知らなかった。
「賑わってるわね、今日、平日なのに……」
梓ちゃんがあんまり面白くなさそうに言う。
「楽しんできなよ。オレらここで待ってる」
柏木くんが爽やかにそんなことを言いだした。
あたしはすねてみせた。
「えー? 梓ちゃんと柏木くんも二人で乗りなよ。広い湖の上ですれ違うたび手を振り合おうよ」
「いや、いい……。笑と乗るんならいいけど、なんでコイツと──」
拒否する梓ちゃんを見て、柏木くんがなんだか笑顔でムッとした。そして言う。
「じゃあオレ、一人で乗るよ。神崎さんはここで一人で遠くを眺めててよ」
「ハァ!?」
梓ちゃんが激昂した。
「こんないい女を一人にするわけ!? 信じらんない! あんた私のボディーガード役でしょうが!?」
「そんなの務めた覚えはない。ガラの悪い男に見つかって、ナンパでもされてなよ」
爽やかに手を振り、柏木くんが歩きだす。
「待てや!」
梓ちゃんが柏木くんを追いかけて走りだした。
「仕方がないから一緒に乗ってやんよ! 一人にすんな!」
あたしとコンジョーくんは顔を見合わせて、ひひひと笑った。
「は……800円か……。結構するんだな」
「300円ぐらいで乗れると思ってた……」
看板に書かれた値段を見てビビるコンジョーくんとあたしに、柏木くんが爽やかに言う。
「いいよ。オレがみんなのぶん出すから。気にせず乗ろうよ」
「ハルト! さすがはブルジョワだな! よし、奢られた!」
親友を頼もしく見つめるコンジョーくんに、あたしは聞いた。
「柏木くんって、お金持ちなの?」
「ああ! お父さんが大企業の社長だからなっ!」
「わ! そうなんだって、梓ちゃん」
あたしは梓ちゃんの耳元で囁いた。
「お金持ちのお坊ちゃまなんだって柏木くん! 付き合っちゃえば?」
「フフフ……、そうね」
梓ちゃんが悪い笑みを浮かべた。
「バンドやってる人気者のイケメンなんて興味ないけど、経済力は魅力的ね」
保険金殺人でも企んでそうな顔だった。
「二人乗り、二枚お願いします」
券売所のおじさんにそう言って、柏木くんがチケットを買ってくれた。
「よーし乗るぞっ!」
「あ……。待てっ、朝日奈笑」
ボートに飛び乗りかけたあたしをコンジョーくんが止めた。
「なんだか悪い予感がする……」




