根性で猫探し
四人で下校するのが毎日のことになった。
四人というのはもちろん、梓ちゃん、柏木くん、そしてコンジョーくんだ。
「コンジョーくんは笑の彼氏だからいいんだけど……」
歩きながら、梓ちゃんが隣を歩く柏木くんに言う。
「なんで私があんたと一緒に帰らないといけないの!?」
「あははっ。仕方がないだろ?」
睨まれても気にしてないみたいに柏木くんが笑う。
「だってオレとコンジョーは親友なんだからさ」
「いいじゃん。大勢のほうが楽しいよ」
笑顔であたしが言うと、
「お……、俺は……」
コンジョーくんがなんだか口の中でモゴモゴ言った。
「朝日奈笑と……その……二人で……」
「あのっ……! すいませんけど……」
突然、前から小学生の女の子が駆けてきて、あたしたちに聞いてきた。
「このへんで猫、見かけませんでしたか?」
「猫?」
「いなくなっちゃったの?」
「はい……。オレンジ色の猫で、顔のおおきな子なんですけど……」
「猫といえば、朝日奈笑だなっ!」
空気を読まないことを満面の笑顔で発言したコンジョーくんのことはみんなで無視してあげた。大体あたし、顔のおおきな子じゃないし──
「猫ちゃんのお名前は?」
あたしが聞くと──
「マオっていいます」
女の子が教えてくれたので、あたしはみんなに提案した。
「みんなで名前を呼んで探そうよ!」
住宅地を、あたしたちは猫の名前を呼びながら、歩きまわった。
「マオー」
「マオちゃーん」
あたしと柏木くんは真面目に名前を連呼した。
「ほら、梓ちゃんも名前を呼んで!」
あたしが言うと、仕方なさそうに梓ちゃんも小さな声をだす。
「はいはい……。ま、マオ〜」
「魔王か!」
コンジョーくんがまたよくわからないことを言い出した。
「そうか! 俺たち魔王を探して冒険しているのだな?」
「根性で探せる?」
あたしが縋るように聞くと、
「お安い御用だ、姫!」
コンジョーくんの瞳が燃え上がり、その中心にピンクのドレス姿のあたしが浮かび上がった。
「キミのために、俺は猫を探す!」
拳を握りしめたコンジョーくんの制服のボタンが三つ、弾け飛んだ。
「根性オォォォーーー!!!」
彼の張り上げた大声に、あっちこっちの家の窓が音を立てて開いた。
「やかましい!」
「声でかすぎ!」
「いい加減にしろ!」
「ギニャアアア!」
「あっ……!」
あたしと柏木くんが声を漏らした。
「猫の声だ!」
女の子が喜びの声をあげた。
「マオ!」
住宅地を揺るがす大声に木の上から落下してきた猫を、そこにいたことを知ってたかのように、コンジョーくんが抱っこで受け止めた。
ほんとうに顔のおおきな猫だった。パニック状態になって引っ掻く猫を、コンジョーくんは根性でなだめると──
「ほら、猫だ」
抱っこした猫を女の子に渡すコンジョーくん。小学生の女の子とあまり背が変わらなかった。
「ありがとう、おさるさん!」
「お……、おさる……」
女の子の元気なお礼の言葉に、コンジョーくんのアホ毛がくるんと下向きになり、グサッと頭に突き刺さった。
柏木くんとあたしとでアハハと笑ってあげた。梓ちゃんも後ろでクスクス笑ってる。
猫を抱いて、嬉しそうに手を振りながら帰っていく女の子を見送りながら、あたしは言った。
「それにしてもすごいねぇ……。ほんとに根性でなんでもできちゃうんだねぇ……」
あたしの言葉に照れて真っ赤になってるコンジョーくんの横から柏木くんが自慢する。
「そうさ! オレの親友はすごいだろ?」
「それって頑張って訓練とかしたら誰でも会得できるスキルなのかな?」
「ハハハ無理だよ。こんなのコンジョーにしか……」
「できるっ!」
柏木くんを押しのけて、コンジョーくんが熱烈にあたしを見つめた。
「朝日奈笑ならできるっ! 俺が保証する!」
「おお……。じゃあさ」
あたしはたった今思いついたばかりのことを提案した。
「『根性部』、設立しない?」
三人が声を揃え、首を傾げた。
「「「根性部?」」」
「うん! 超能力開発部みたいな感じで──」
思いついたら楽しくなって、あたしはニコニコが止まらなくなってしまった。
「根性でなんでもできるひとが増えたら、世の中よくなると思わない?」




