根性はやっぱり素晴らしい……けど!
美化委員会の仕事で遅くなった。
根性部の部室に顔を出すと、誰もいない。
梓ちゃんは先に行ってたはずだ。たぶん柏木くんもいただろう。
柏木くん、コンジョーくんにあのこと、言いに行ってくれたのかな。
──でも、余計なことまで言わないよね?
つい、梓ちゃんには話しちゃったけど、あんなことコンジョーくんに伝えたら……
コンジョーくんはテストの点数が悪かったらしく、居残りだ。
一人の部室は寂しい。
編みかけのマフラーを取り出し、続きをやりはじめた。
編み物をしながら、今日のお昼のことを思い出す。
屋上で、二人並んでお弁当を食べた。
初めてあたしが作ってきたサラダを、コンジョーくんは喜んで真っ先に食べてくれた。
嬉しかった。
けど……本当は……
ガラッ! と扉が開き、ちっちゃな彼が入ってきた。
「朝日奈笑っ!」
あたしはわたわたとマフラーをバッグの中へ隠した。
「ハルトから聞いたぞっ!」
あ。柏木くん、言ってくれたんだ。
無理しないでって。
身長を伸ばすにも、体に負担のかからないやり方でやってくれって。
あたしは笑顔で、でもできるだけすっとぼける感じで答えた。
「もしかして、身長の伸ばし方のこと? 無理はしちゃダメだぞって?」
するとズンズンと彼がまっすぐに近づいてきて、両手であたしの肩をがしっ! と掴んできた。
ま、まさか……
キス……される?
こ、心の準備が──
「朝日奈笑っ!」
「は……、はいっ!」
「俺……、身長伸ばすのやめたっ!」
「え……。ええっ!?」
はっと気づくと、少し開いた扉の隙間から、梓ちゃんと柏木くんが覗いてこっちを見てた。ニヤニヤしている。
まさか……梓ちゃん……
あのこと、話しちゃったのー!?
あたしはちっちゃいコンジョーくんのほうが、かわいいから好きだってこと!
でも彼が身長高くなりたいなら、あたしごときにそれを止める権利はないって言ったのに!
感動しているように涙を流しながら、彼が言う。
「おまえがちっちゃい男が好きなのなら、俺はむしろどこまでも低身長になりたいぐらいだ!」
やっぱりーーー!!!
そこは話しちゃダメって言ったのにーーー!!!
『身長伸ばすのはいいけど無理なやり方はしちゃダメ』って、あたしが言っても『心配するな』で返されちゃうから、柏木くんに厳しく言ってほしいってお願いしただけなのに……!
この、口軽女が! と視線で訴えるように梓ちゃんのほうを睨むと、口に手を当てて含み笑いしてる。ムカつく! 柏木くんまで同じポーズで笑ってる!
「朝日奈笑」
手を握られたので、視線をまたコンジョーくんのほうに戻した。
「早く言ってくれればよかったのに。そうすれば、俺は無駄に悩みはしなかったのに」
「だ……、だって……」
わたわたしながら、あたしは言った。
「男の子が高身長になりたいのって、自然な欲求でしょ? あたしがちっちゃいコンジョーくんが好きだからって、身長伸ばすのを邪魔したら、一生背が低いままになっちゃう。そんなこと──」
「結婚してくれ」
大真面目な顔で、彼が言った。
「ちっちゃい俺を、一生キミのものにしてくれれば、それで解決じゃないか」
「おめでとーう!」
扉がばしっ! と開いて、拍手をしながら柏木くんが入ってきた。
「きゃー! おめでとう!」
その後から梓ちゃんも拍手しながら入ってきて、すぐに柏木くんを後ろから小突いた。
「せっかく笑が返事する番だったのに潰すんじゃないわよ、この糞イケメン!」
部室を走って逃げ出そうとしたあたしの手を、後ろからコンジョーくんが掴んで止めた。
「おまえがちっちゃい男が好きなのなら、俺は一生ちっちゃいままでいいんだっ!」
「ご……、誤解しないで!」
あたしは言いたいことを言ってやった。
「あたしはちっちゃい男が好きなんじゃなくて、ちっちゃいコンジョーくんが好きなんだからっ!」
「根性オォォ!!!」
「きゃっ!?」
コンジョーくんがいきなりあたしをお姫様抱っこして、窓から飛び降りた。ここ三階なんだけど──
すたっと地面に着地すると、あたしに聞いてくる。
「俺のどこが好きだっ? ちっちゃいところか?」
『面白くてかわいいところ』と答えようとして、それじゃあんまり褒め言葉にならないかな──と思って、あたしは答えた。
「もちろん、根性があるところだよ」
上の窓から柏木くんが、どこに持ってたのか紙吹雪を振り撒いてきた。
隣から梓ちゃんも顔を出して、柏木くんの手から紙吹雪をかっさらって振り撒いてくる。
「そうだっ! 根性は素晴らしい……が!」
コンジョーくんがあたしをお姫様抱っこしたまま、走り出した。
「おまえの言う通りだ、朝日奈笑! 根性で何でもできるといって、体に負担のかかるようなことはしちゃダメなんだ!」
「うん」
抱っこされながら、あたしはうなずいた。
「ちっちゃいなら、ちっちゃいままでいいんだよ。それがコンジョーくんなんだからっ」
「俺を肯定してくれる朝日奈笑が好きだっ!」
コンジョーくんの走るスピードがどんどん速くなった。
「天使のようなおまえが好きだ! 根性オォォォォーーーッ!!!」
「と……、ところでどこまで行くの?」
「世界の果てまでだ! 二人の世界へ行こう!」
ビルの屋上へ飛び上がり、コンジョーくんは空を飛んだ。
まるでスーパーマンとランデヴーしてるみたいだった。




