根性で絶対に身長を伸ばす!
朝、あたしは三人ぶんのお弁当を作った。
ひとつは自分の、もうひとつはいつもの通りお母さんの──
もうひとつはコンジョーくんのだ。初めて作った。
本人にはまだ何も言ってないから、今日も彼は自分のお弁当を持ってくるだろう。お父さん手作りのやつだ。
コンジョーくんはおいしそうに食べるし、量はじゅうぶんに多いんだけど、はっきりいっておかずが偏りすぎてる。
魚肉ソーセージと肉だんご、大盛りの白ごはん、あとはせいぜい海苔かふりかけがかかってるぐらいだ。
たんぱく質はじゅうぶんだけど、野菜がない。
バランスよく栄養を摂らないと身長伸びないんだから!
ゆえにあたしが作ったのは主にサラダだ。しかもカルシウムをよく含んだひじきも小松菜も、チーズも入ってる。
彼のお父さんには悪いけど、これぐらい、いいよね?
コンジョーくん、喜んでくれるかな──
「それじゃ行ってきまーす! お母さんのお弁当、ここ置いとくからね」
お母さんは何も言わず、眠たそうな顔で歯磨きしながら手を振ってくれた。
「おはよ、笑!」
いつも通り、小さな神社の前で後ろから梓ちゃんが抱きついてきた。
「おはよー、梓ちゃん。今日も美人ですね」
「笑も朝から見事にねこってるよー。あぁ……頭にねこみみのカチューシャつけたい」
女子二人でイチャイチャしながら歩いて行くと、楽器屋さんの前でいつもならコンジョーくんと柏木くんが立ち話をしてる。
「あ、お二人さん、おはよう」
開店前の楽器屋さんの前で、スマホを見ていた柏木くんが顔を上げ、手を振った。
「おはよう。あれ? コンジョーくんは?」
あたしが聞くと──
「今日はなんだか遅くなるって。先に行っててくれって言われたんだ」
後ろから梓ちゃんがツッコむように言った。
「じゃあこんなところで待ってないで先に行ってればいいのに。コンジョーくんがいなかったらあんたと私たち、べつに仲良しってわけじゃないんだから」
「ひどいなぁ。同じ根性部の部員じゃないか」
柏木くんが傷ついたような笑顔で言う。
あたしは彼をフォローした。
「そうだよ梓ちゃん。それに『苦手克服の課題』、忘れたの? 梓ちゃんはコレと仲良くならないといけないんだよ?」
梓ちゃんはツンと横を向きながら、あたしに言った。
「フンッ! 言ったでしょ? この間、二人で買い物して、カフェ入って、30秒でパフェ食べたんだから。あれで課題クリアだわよ」
ハハハと笑いながらあたしたちのやりとりを見ていた柏木くんが、何かに気づいた。
それがやって来る方向を指さして、声をあげた。
「コンジョーだ!」
朝日を背にして、「うおおぉぉ!」というセリフを頭の上に派手にくっつけながら、コンジョーくんがやって来るのが見えた。
力強い歩き方で、でもゆっくりとやって来る。
後ろに何かを引きずってる。
何か、真っ赤な炎のようなものだ。彼の背中に隠れてよく見えない。
「おはよう! コンジョーくん」
あたしが手を振ると──
「おおぉっ! 朝日奈笑! おおぉぉおはようっ!」
何かを引きずりながら、大声であいさつしてくれた。
「何を引きずってるの?」
あたしが聞くと、教えてくれた。
「これは『重いコンダラ』というものだ。身長を伸ばしたいと言ったら、父が『これを使え』と、物置きから出してきてくれたんだ」
「重い……コンダラ?」
首をひねってそれをよく見ようとしたけど、なんだか謎の炎みたいなオーラがコンジョーくんの背中に漂ってて、それが邪魔でよく見えない。
彼が手で握っている錆びた鉄の棒の後ろに、何か巨大なローラーらしきものがあるというのはわかるんだけど……
梓ちゃんが声を震わせた。
「あ……、あれが伝説の『重いコンダラ』……」
柏木くんが横で反応した。
「知っているのか神崎」
「えぇ……。昭和を代表するスポーツ根性ものアニメの主題歌の歌い出しに登場する伝説のトレーニングマシーンの名前よ。さすがはコンジョーくんのお父さんね、まさか実在するなんて思いもしなかったのに、まさかそんなものを所有してただなんて……驚きだわ!」
柏木くんがうっとりした表情で梓ちゃんを見た。
「キミもすごいよ。そんなの知ってるなんて」
「──で?」
あたしはコンジョーくんに聞いた。
「それを引きずって登下校すれば、身長が伸びるんですか?」
「これは身長を伸ばすための道具ではないんだ。ただ、これを使ってトレーニングすれば、確実に根性はつく! その、ついた根性を使って、身長を伸ばすんだ!」
朝日にむかってガッツポーズをキメるコンジョーくんに、あたしは頭を抱えた。
間違ってる──
絶対、これ、間違ってる──。
令和のスポーツ科学に基づいてやんなきゃいけないんじゃないんだろうか……。そうじゃないと、体を壊してしまうだけのような気がする。
「いいな、コンジョー! きっと身長、伸びるよ! 頑張れ!」
「いいわぁー! カッコいい! 私にもあとで引かせてね、重いコンダラ」
柏木くんと梓ちゃんが、どうしてだかコンジョーくんを応援してる。
なんとかあたしが正しい道に導かないと!




