根性部の初仕事
よくよく考えたら許せない。
問題文を読まなくてもテストでいい点が取れるプログラムだなんて──そんなものを英愛学園が独り占めするのは許せなくなってきた……。
そんな面白いものは日本の全高校生に公開するべきだ!
一人でそんなことを考えて、わなわなしていると、コンジョーくんがあたしを見つめているのに気がついた。
「なんか……燃えてるな? 朝日奈笑!」
「うん。なんか義憤に駆られちゃって……」
「……で、どうする? コンジョー」
柏木くんが聞いた。
「そんな凄いプログラムをおまえ、根性で考えつけるのか?」
「まず無理だな」
コンジョーくんは即答した。
「そんなの根性でなんとかなるもんじゃない」
やっぱりコンジョーくんにも根性でどうにもできないことはあるんだな。そう思ったけど、べつにガッカリはしなかった。
そんなことまでできちゃったらむしろ怖い。
「じゃあ、どうするんだ?」
「決まっているさ」
コンジョーくんが拳に根性をこめた。
「盗むぞ、ハルト!」
「ど、泥棒……」
梓ちゃんが身を震わせた。
「いいわね! ワクワクしてきた!」
柏木くんがツッコむ。
「しかし……盗むことができるものなら、忍者部のひとがとっくにやってないか?」
「情報を集めようよ」
梓ちゃんがノリノリで発言した。
「忍者部のひとに話を聞いてみよう!」
柏木くんもノリノリになった。
「よし、オレたち根性部の初仕事だな!」
「仕事というよりは自発的行動よ! あんな生徒会長のために働くわけじゃないんだから」
「そうだな、神崎」
柏木くんの目が優しくなった。
「一緒に頑張ろう」
「あんたのためでもないんだからね。……あ、そうだ! 忍者部の部室に行ったら没収されたドーナツ置いてあるかもしれないわ。あれ、取り戻そうよ!」
「ドーナツぐらい、また買ってあげるよ」
柏木くんの目がさらに優しくなった。
「好きなだけ買ってあげる。だから悲しまないでよ、神崎」
「好き!」
梓ちゃんの目が輝いた。
「柏木、好き好き! 大好き!」
柏木くんの顔がピンク色に染まった。嬉しそうだ。
その腕に抱きついて、梓ちゃんが甘えてる。なついてる。イチャイチャしてるように見える。
まるでおいしいおやつをくれる人間になつく野生のキツネを見ているようだった。
もちろん梓ちゃんが好きなのは、柏木くんじゃなくて、柏木くんのお金だ。
「じゃあ、忍者部の部室に行ってみるか」
コンジョーくんが言った。
「忍者部の部室って、どこだ?」
柏木くんがスマホを取り出し、しばらく操作してから、言った。
「学校のホームページを見たが、部活一覧に忍者部ってないぞ?」
「なるほど。どうやら隠密活動をしているようだな。よし、足で探すぞ!」
そう言ってガララッ! と扉を開けたコンジョーくんに続いて、あたしたちは廊下へ出た。
廊下を歩きながら、柏木くんがコンジョーくんにツッコむ。
「足で探すって……、あてもなく探し当てられるもん?」
「根性で突き止める!」
「あっ?」
梓ちゃんが足を止めた。
「なんか……ドーナツの匂いしない? 甘ぁ〜い、いい匂い──」
あたしは鼻をクンクンさせてみたけど、わからなかった。
梓ちゃんが叫ぶ。
「天井裏だ!」
ガサガサ、ゴソゴソと、あからさまに天井裏で何かが動く音がした。曲者だ!
「根性ーーーっ!!!」
コンジョーくんが叫ぶと天井がピシリと割れ、忍者がドサドサと廊下に落ちてきた。
「なかなか良い鼻をしてるでござるな」
頭目っぽい、一番立派な忍者装束の、たぶん服部部長が梓ちゃんを褒めた、明らかに落下したダメージを見せながら、言う。
「お主、忍者にならぬか?」
部長が手に持ってるフレンチクルーラーを奪い取ると、梓ちゃんは部長の顔面を蹴った。
壊した天井をコンジョーくんが根性で修復し、四人で忍者部の部室にお邪魔した。
昆布茶をいただきながら、辺りを見回し、感嘆の息を漏らしながら、あたしは言った。
「こんなところに部屋があったんですね」
「フフフ……。代々忍者部に伝わる隠し部屋でござるよ」
ダメージを回復しながら服部部長が言う。
天井裏だけどちっとも暗くなく、埃っぽくもない。びっくりするぐらい広くて清潔な、ふつうのフローリングの部屋だった。忍者らしくないとはいえた。
柏木くんが単刀直入に聞いた。
「ところで英愛学園が開発したという例のプログラムのことなんですが、忍者らしく盗み出すこととかできなかったんですか?」
「パソコンの中にあるのでそれがしには盗めなかったのでござるよ。我々、忍術には長けていても、IT方面はからっきしでござる」
四人の忍術が揃って恥ずかしそうに頭を掻いた。
全員パソコン音痴のようだ。
「それがしからもお願いするでござる」
服部部長が床に手をつき、土下座した。
「我々に代わり、英愛学園へ赴いて、あれを盗み出してくださらんか、くノ一殿!」
「くノ一じゃねーわ」
梓ちゃんが白けた声をだした。
「俺ら四人の中で、一番パソコンに詳しいといえば……ハルトだな」
コンジョーくんが柏木くんを見つめた。
「よし! ハルトとカワイコちゃんとで英愛学園に潜入してくれ! プログラムを盗み出すんだ!」
「ハァ? なんで私が?」とか言い出すかと思ったけど、梓ちゃんは即答した。
「面白そう!」
梓ちゃんのノリに引っ張られたのか、常識人だと思ってた柏木くんも、楽しそうな笑顔になって、言う。
「よーし、やってみるか」
「すまんな、俺は行けない」
コンジョーくんがぺこりと二人に頭を下げた。
「その……。知らないやつばっかりいる他校になんて……俺、人怖くってさ……」
「もうっ、根性くんの人見知り!」
あたしはアホ毛のしょぼんとなった頭を撫でてあげた。かわいい。




