部活対抗大食い大会
「おいっ! こんなの開催されるらしいぞ」
そう言いながら柏木くんが、チラシを見せながら部室に入ってきた。
チラシにはこう書いてある。
『部活対抗大食い大会
◯月◯日、第一体育館にて、毎年恒例の部活対抗大食い大会を開催します
各部から選手一人が出場し、大食いを競います
優勝した部には予算が大幅アップされます
今回のテーマは中華料理
珍珍亭のシェフ珍さんが来校して料理を作ってくださいます
参加を希望する部活は学校のホームページよりお申し込みください』
なんだこれ……。
こんなイベント、去年もあったっけ? 帰宅部だし興味なかったから覚えてない。
「いいな!」
コンジョーくんが飛びついた。
「部費増額などどうでもいいが、根性の素晴らしさを世に知らしめるいい機会だ! 参加するぞ!」
「根性部のいい宣伝になるね」
梓ちゃんが賛成した。
「コンジョーくんが出れば、根性で優勝間違いなしだよ」
あたしはちょっと戸惑った。
学校がこんな、生徒の健康に害があるかもしれないイベント、許していいの!?
何よりコンジョーくん、根性で食べすぎちゃったら……
根性で大食いはできるかもしれないけど、カラダはちっちゃいんだよ? 優勝しても、カラダ壊しちゃったら──
「よし、早速参加希望に登録するぞ?」
「待って!」
スマホで参加登録しようとする柏木くんを、あたしは手で制止した。
「どうしたの、朝日奈さん?」
不思議そうにあたしを見る柏木くんに、あたしは熱弁した。
「ちょっと考えようよ? コンジョーくんはもちろん根性で優勝するとは思うけど、そのあと病院送りとかになったらどーすんの? コンジョーくん、根性はあるけどカラダはチビなんだよ? 彼のカラダの心配もしようよ」
「朝日奈笑……」
コンジョーくんがあたしを安心させようと笑う。
「心配してくれるのはとても嬉しい。しかし、これは根性の素晴らしさを世に知らしめるチャンスなのだ。俺は大丈夫だから、根性で胃袋もなんとかするから──」
「だめだよっ! 胃袋は根性ではおおきくできないんだからっ」
「彼ならできちゃうんじゃない?」
梓ちゃんが呑気なことを言う。
「ハハハ。コンジョーの弁当箱、見たことあるかい? とんでもなくデカいんだよ?」
柏木くんの言葉にあたしは質問をぶつけた。
「とんでもなくって、バケツ何杯ぐらい?」
「いや……ふつうに弁当箱だけど、ふつうに大型サイズってだけの……」
「ほら! コンジョーくんだって人間なんだから──」
「心配するな、朝日奈笑」
コンジョーくんがあたしの肩をぽんと叩いた。
「やりたいんだ、俺は。きっと誰もが『根性部って何?』とか『そんなおかしな部活あったのかよw』とか、揶揄することと思う。そんなやつらにアピールしたいんだ。根性があればなんでもできるということをな」
「うん……」
あたしはうなずいてしまった。
コンジョーくんの夢だもんね。
夢は見るものじゃなくて、叶えるものだもんね。あたしが邪魔しちゃ……
「じゃ、参加登録するよ?」
柏木くんがスマホを操作した。
「これで部費大幅増額だね!」
梓ちゃんが無理やり仲良くするように柏木くんの肩に腕を乗せ、目を¥みたいにしてる。
「楽しくなりそうだ」
コンジョーくんの目が燃えてる。
「俺の根性を全校生徒に披露する時がやってきたようだぜ」
心配で、不安で、心細くなってるのはあたしだけのようだった。




