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男子は根性 〜 根性があればなんでもできてしまう男の恋物語 〜  作者: しいな ここみ
もつれ合う恋! の巻

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14/23

根性で好きになれ!

「無理無理無理無理」

 梓ちゃんが胸の前で手をパタパタ振りながら、横目で柏木くんを見る。

「コレを好きになるなんて無理。それに仲良くなることと根性って関係なくない?」


「いや! 根性で誰かと仲良くなることはできるものだぞっ!」

 コンジョーくんが教えてくれた。

「俺など根性で朝日奈笑の彼氏となったのだからな!」


 あたしとコンジョーくんは腰に手を当て、並んであっはっはっは! と笑った。

 でもそれ根性とは関係ない。確かに告白するのは根性でだったけど、あたしがOKしたのは根性関係ない。まぁ、言わないけど。


「無理! 無理っ!」

 

 ゴキブリから逃げるような動きで拒否し続ける梓ちゃんに、あたしは言った。


「梓ちゃん……。あたし、部員のみんなに仲良くなってほしいの。……今のところ、仲が良くないのって、梓ちゃんと柏木くんだけだよ?」


「う……」


「恋人同士になれって言ってるんじゃないの。ただ仲良くしてほしいだけなの。それがあたしの願い」


「わ……」

 顔じゅうに汗をダラダラ流しながら、梓ちゃんが約束してくれた。

「わかったわ。えみのために……コレと仲良くなってみせるわ」


 柏木くんが嬉しそうに笑った。

 あたしも梓ちゃんの手を握りしめて、笑った。

 その向こうで、宇佐美先生が般若みたいな顔になって、黒いオーラを立ち昇らせてた。


「じゃ、次はハルトの番だ」

 コンジョーくんが言った。

「ハルト! おまえの苦手なものはなんだ?」


「うーん……」

 柏木くんが考え込む。

「苦手なもの……か。なんかあったかな? コンジョー、おまえなら知ってるだろ? 教えてくれ」


「知ってるぞ」

 コンジョーくんは胸をどん! と叩き、言った。

「ハルトはギターがうまい! ベースも弾ける! ドラムも叩ける! 歌もうまい! しかし……鍵盤楽器が苦手だよな?」


「あぁ……確かに!」


「親友の俺に聴かせるため、ピアノをうまくなってくれ! シューベルトの『月光』を弾けるようになってほしい!」


「『月光』はベートーヴェンな」


「どうだ? できるか?」


「わかった。やるよ」

 柏木くんが宇佐美先生を振り向いた。

「……と、いうことになりました。るん先生、指導をお願いできますか?」


「きゃうん!」

 宇佐美先生がうさぎみたいに跳ねた。

「頼ってくれるのねぇっ! ボクの力が必要なのねぇっ! ハルトくんのためならいくらでも!」


「よし! 決まり!」

 あたしは言った。

「じゃ、最後! コンジョーくんの苦手なことは?」


「コンジョーに苦手はないよ」

 柏木くんが笑った。

「正確に言えばコイツはすべてのことが苦手だけど、根性でなんでもできるから、苦手はないと言えるんだ」


「いや……」

 コンジョーくんがもじもじしながら、言った。

「苦手なこと……、あるよ」


「何?」

 あたしは聞いた。

「言ってみて?」


「さ……、さいほう……」


「え?」

 よく聞き取れなかった。

「細胞?」


 するとコンジョーくんが見せびらかすように、チラッチラッと、制服の前を見せてくる。

 ボタンが三つ、取れてた。

 そうか……。あの、猫探しのとき、「根性!」と叫んだ時に、ボタンが三つ吹っ飛んでたんだった。


「朝日奈笑!」

 顔を真っ赤にしてコンジョーくんが言った。

「俺に裁縫を教えてくれっ!」


「あはは。そんなこと、頑張らなくてもあたしがつけてあげるよ」


 あたしはポーチからお裁縫道具を取り出した。


 椅子に座るコンジョーくんと向き合って、服を着たままの彼の胸にボタンをつけてあげた。


 口で糸を濡らして、彼の胸に手を触れて──

 

 なんかいいな、こういうの……。


 彼のために、取れたボタンをつけてあげてるだけなのに、なんか幸せ。


 コンジョーくんも幸せの陶酔みたいな表情を浮かべてる。


「いいね。おしどり夫婦みたひだねっ!」

 瓢箪丸ひょうたんまる先生がほっこりしてる。


「ふひ! ふひ! ふひ!」

 宇佐美先生がなんだか興奮してる。


「ほんとうはコンジョーは裁縫ぐらい根性を出せば自分でできるんだ」

 柏木くんが、梓ちゃんに解説してる。

「基本的に他人には頼らないが、いざという時には力を借りる。ありがたく彼女にやってもらうことで、彼女を立てることができるんだ。そんなヤツなんだ、コンジョーは」


 梓ちゃんがツッコんだ。

「いや、単にイチャイチャできて喜んでるだけに見えるけど?」


「ところで神崎……。オレと仲良くしてくれるんだよね?」


「あー……はいはい。お友達、お友達、ね」


 柏木くんがなんだかすごく優しい目をして梓ちゃんを見てる。


 梓ちゃんはテキトーにあしらってる感じだけど、やっぱり容姿のいい同士、絵になるな。


「はい! できたよっ」


 あたしは1分もかからずボタンを三つつけ終えた。


「は、早いな!」

 コンジョーくんが残念そうに言った。

「も、もう少しこの時間を楽しみたかった!」





ストックが切れました。


次回から不定期連載になりますm(_ _)m



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― 新着の感想 ―
さらっと裁縫道具を持ち歩いている笑ちゃん、めっちゃ家庭的です!
ここみしゃま……いよいよ混迷を極めていくのですね……(´ω`)
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