根性で苦手を克服しよう!
「よし! 目標は全国大会制覇だ!」
コンジョーくんが拳を振り上げ、野望に燃えてる。
あたしはツッコんだ。
「他の学校にも『根性部』ってあるのかな?」
「きっとある! 根性のあるヤツはきっとまだこの日本に少数ながらいるはずだから!」
「それにしても目標は1つに絞ったほうがいいよ。あと、あんまり大きな目標をいきなり立てても立ち消えになっちゃうもんだよ?」
「そ……、そうか……」
あたしはコンジョーくんが傷つかないよう、優しい言い方で、かわいいアホ毛を撫でながら、彼をてのひらの上に乗せてあげた。
「コンジョーくんの出した『根性を世界中に広める』、『全国大会制覇』……、柏木くんの出した『部員がみんな根性の力を身につける』の中だったら、柏木くんのが一番手近だよね?」
「そ……、そうだな」
コンジョーくんはダメ出しされてショボンとなったけど、うなずいてくれた。
「なるほど……。そうだな。夢は見るものではなく、叶えるものだからな。ならば、まずは手近なほうが……」
「でも柏木くんの案にしてもまだ難易度が高い……。他に誰かあるかな? とりあえずの部の目標──」
あたしは梓ちゃんと柏木くんに聞いたけど、二人ともなんだかほっこりした笑いを顔に浮かべてあたしたちを見つめてるだけだった。
梓ちゃんが言った。
「ふふ……。笑とコンジョーくん、夫婦みたいだね。なんていうか昭和の時代の『おしどり夫婦』みたい」
「えっ」
「な……、なっ……」
コンジョーくんの顔が猿のお尻ぐらい真っ赤になった。
「何を言い出すんだカワイコちゃん! 今は部の目標を決めてるところだぞっ!」
「宇宙人とコンタクトをとって、脳を改造してもらうというのはどうだひっ?」
瓢箪丸先生がアイデアを出してくれたけど、ちょっと手近じゃなさすぎた。
「じゃあマニュアル作りから始めようよ」
柏木くんが提案してくれた。
「どうすれば根性がつくのかを部長に考えてもらって、そのためのトレーニング方法も決めてもらうんだ」
「トレーニング方法だって!?」
コンジョーくんが今度はトルコ石みたいに青くなった。
「そんなものがあるのかっ!?」
「うん。どうやったら根性って、つくんだ? コンジョーはどうやってその力を身につけたんだ?」
「そ……、それは自然に……。何しろ物心ついた時から俺はこうだからわからない」
「根性とは愛の力なんでしょ?」
梓ちゃんがツッコミ気味に柏木くんに言う。
「それだったら愛する誰かがまず必要よね? あんたみたいにファンの子全員に愛を小分けにするんじゃなくて、誰か一人に対する愛が」
「チョーシ乗んな」
梓ちゃんの背後から宇佐美先生が怖い顔をして言った。
「容姿がいいからってチョーシに乗んなよ、このアバズレが」
「何この先生」
梓ちゃんも怖い目をして宇佐美先生を振り返る。
「いちいち私に突っかかってくるの、なんで!?」
「まぁまぁまぁまぁ!」
柏木くんが爽やかに二人をなだめた。
「とりあえず何をしたらいいのかを決めよう。どんなことを日々やれば根性はつくのか……」
「はい!」
あたしは手を挙げ、発言した。
「誰か好きなひとのために、自分の苦手なことを頑張るってのはどう?」
「さすが笑」
梓ちゃんが褒めてくれた。
「それ具体的でいいよね。それに『誰かのために苦手なことを頑張る』なんて、あんたらしくて素敵」
褒められてニコニコになりながら、あたしはみんなに聞いた。
「じゃ、それぞれ自分の苦手なことを発表してみよっか。まず言い出しっぺのあたしから! あたし……あたしの苦手なことは……」
考えた。
木登りは得意じゃなくなっちゃったけど昔は得意だったし──
そうだ!
「根性でピーマンが食べられるようになってみせます!」
「かわいい!」
コンジョーくんがあたしの決意を賞賛してくれた。
「マブいぜ、朝日奈笑!」
「うん! コンジョーくんのために頑張るね!」
あたしがそう言うと、コンジョーくんは嬉しそうに泣いてくれた。
「はい! それじゃ次、梓ちゃんは?」
「うーん……。私の……苦手なもの……?」
考え込む梓ちゃんに、あたしは教えてあげた。
親友だもん。親友の苦手なものぐらい、よく知ってる。
「梓ちゃんの苦手なものは、チャラいイケメンだよね?」
「あ。そうだね、確かに嫌い。大嫌い」
「よし」
あたしは拳に根性を握りしめて、提案した。
「それじゃ、梓ちゃんは親友のあたしのために、柏木くんのことを好きになってみようか」
「うえええぇえっ!?」
梓ちゃんがダニを見るみたいに柏木くんを見た。
「え……、ええっ!?」
柏木くんはなぜか嬉しそうに笑った。
「ギャアアアアッ!?」
宇佐美先生が怪獣みたいになって吠えた。




