根性を世界に広めよう!
部室の窓から枯れ葉が落ちるのを眺めながら、コンジョーくんが呟いた。
「この部室で色々あったよなぁ……」
あたしはツッコんであげた。
「これから始まるんでしょ!」
空いていた生物室を部室として確保し、あたしたちは生徒会に『根性部』設立を正式に申請した。
玉国生徒会長は嫌そうな顔をしながらも、判子を押してくれた。
予算は最低限しか回してもらえなかったけど、根性さえあれば活動できる。
スポーツ部なんだか文化部なんだかよくわからないけど、一応文化部として登録した。
「よぉーし、まずは何をするんだひっ?」
瓢箪丸先生がワクワクしながら聞く。
「何すんの?」
梓ちゃんが柏木くんに聞いた。
「部長っ、指示をくれ」
柏木くんはコンジョーくんに聞いた。
「そうだな……」
コンジョーくんは少し考えてから、言い渡した。
「まずはそれを考えよう!」
「見せてくれよ、コンジョーくん」
瓢箪丸先生がリクエストする。
「キミの。あの。素晴らしい力をさ。今ここで見せてくれなひかひっ?」
「コンジョーはいざという時にしか根性を発揮できないんです」
柏木くんがフォローした。
「はい、考えました」
梓ちゃんが手を挙げて発言した。
「今のところ何をやる部活なのかよくわかんないから、とりあえず目標を立てるというのはどうでしょう?」
「おっ! いいね!」
柏木くんが梓ちゃんのほうを向いて同意する。
「まずはここにいる三人がみんな根性を身につけることを目標にしない? そのために『根性とは何か』、それを身につけるにはどうすればいいのか、それを部長に伺ってみようよ」
「そうね。あんたも白鳥ボートをあの時根性でどうにかできてたぐらいにはならないとね」
なんだか柏木くんと梓ちゃんが公園の湖で一緒にボートに乗ってデートしたのち喧嘩した関係みたいになってる。実際はパニックになってただけなのに。
ふと気がつくと、二人の後ろで宇佐美先生が、背中から黒いオーラを立ち昇らせて梓ちゃんを睨みつけてる。よくわからないけどあたしは怖くなって、コンジョーくんの背中に隠れた。
「目標か……」
コンジョーくんはまた少し考えると、顔をあげて言った。
「よし! 根性の素晴らしさを日本にとどまらず、世界中に知らしめ、広めよう!」
「おーっ!」
真っ先にノリノリで拳を振り上げたのは瓢箪丸先生だった。
「部のスローガンは『根性さえあればなんでもできる』!」
力強くそう言ってから、コンジョーくんの顔がヘラヘラし、語調が自信なさげになった。
「……で、いいかなぁ?」
「すさまじく時代錯誤だけど、いいんじゃないか?」
柏木くんが親友を褒めた。
「実際には今のところそんな言葉が当てはまるのはおまえだけだけど……、でも、根性部員なら誰でもそれが言えるように頑張ろうぜ」
「具体的じゃないわね」
梓ちゃんがケチをつけた。
「具体的に、どうすれば根性がつくのか? それを教えてよ」
「わからない? オレにはもうわかってるけどな?」
「何? 糞イケメンが上から目線? なんかムカつくんだけど……。言ってみてよ? どうすれば根性がつくの?」
「愛の力だよ」
真顔で柏木くんが言った。
「コンジョーが根性を発揮するのは朝日奈ちゃんのため──。誰かを守ろうとする気持ちが根性を……人間の潜在能力を、フルパワーで発揮させるんだよ」
そう発言しながら、柏木くんがあたしとコンジョーくんに向けた手のひらをヒラヒラさせる。
あたしたちは思わず見つめ合って、頬を赤くして、テレテレとうつむいた。
「つまりはそれって火事場のバカ力?」
梓ちゃんがツッコむように言った。
「そうとも言えるな」
柏木くんは素直にうなずいた。
「じゃ、愛の力とか関係ないじゃない? あの時、私がボートを手繰り寄せたのも火事場のバカ力なんじゃん?」
「いや、あれはキミの自己愛の力だよ」
「ハァ……?」
「神崎……。キミは人一倍自己愛が強いんだ。自分が大好きだからこそ、自分を守るため、あれだけの根性を発揮できたんだ」
「おいおい……。バカにしてんのか?」
「いや……。褒めてるんだ」
柏木くんが遠くを見つめるような目をして、うっとりと笑った。
「ほんとうにすごかったよ……。あの時の神崎は……さ。オレ、あのとんでもないパワーが脳裏から離れないんだ」
「……まぁ、あんたには逆立ちしたってあの時みたいなパワーは出せないだろうね」
挑発するみたいに梓ちゃんが言う。
「それともいるの? あんたから『愛のパワー』とやらを引き出せるようなひとが?」
「う……」
柏木くんが急に挙動不審になった。
「そ……、そうだな……。いるといえば……その……」
ものすごい殺気を感じて、あたしの全身に鳥肌が立った。
梓ちゃんと柏木くんのむこうに、バケモノみたいに真っ黒になって、目をギラギラと光らせている宇佐美先生の姿があった。




