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男子は根性 〜 根性があればなんでもできてしまう男の恋物語 〜  作者: しいな ここみ
根性部設立! の巻

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10/23

根性ジャンプ!

「ああっ……!」

 下でコンジョーくんがオロオロしてる声が聞こえた。

「どうしよう……ハルトっ! 朝日奈あさひなえみが……! 木に登っていった……っ!」


「大丈夫? えみ!」

 梓ちゃんは心配そうに声をかけてくれてから、舌打ちしながら柏木くんに言った。

「あんたが登れや、糞イケメンが」


 柏木くんの声が聞こえた。

「止める暇もなく……朝日奈ちゃんが……」


 大丈夫、大丈夫!


 伊達に体重軽くないんだから。こういう時のためのチビ女子なんだから。


 猫みたいに指先を幹にひっかけて、タカタカと登っていくのは気持ちよかった。


 面白い、面白い!


 久しぶりだなぁ、木登りするの──


 いつ以来だっけ。


 小学校四年生の頃ぶり?


 ずるっと足がすべった。


 いつの間にかあたし、木登りができなくなるほど大きくなっちゃってたみたいだ。

 これが『猫も木から落ちる』ってやつか──

 背中から地面に向けて落ちていく。

 でも大丈夫。

 きっとコンジョーくんが──


「根性オォォォォォォ!!!」


 信じてた通り、下からコンジョーくんが飛び上がってくると、あたしを抱きとめ、ついでにもっと高くジャンプして、風船を回収すると、軽やかに着地した。


「ありがとう、コンジョーくん」

「キミのためなら、俺は飛べる」


 お姫様抱っこの姿勢で見つめ合うあたしたちの少し下から、幼稚園児の女の子が言った。


「しゅごい、おにいたん! スーパーヒーロー?」


 そして風船を受け取ると、コンジョーくんに握手をしてもらい、嬉しそうに帰っていった。


「10メートルはジャンプしたよな……」

 感動したように、柏木くんが言う。

「……やっぱりコンジョーのこの力、世間に知らしめるべきだ。やっぱり根性部は設立するべきだよ」


「この中で一番根性ないの、あんただもんね」

 梓ちゃんがツッコんだ。

「確かに根性部設立して、あんたの根性叩き直すべきかも」


 その時、後ろのほうから細長い声がした。

 細長い声ってどんなのかよくわからないけど、そんな表現が似合う声だった。


「すごひっ! キミは異能力の持ち主なのかひっ!?」


 振り返ると、三十歳代半ばぐらいのスーツ姿のひょろ長い男性が、とんでもないものを見た感激にぷるぷる震えながら立っていた。


 知ってるひとだった。

 梓ちゃんがその名前を口にした。


「あ、瓢箪丸ひょうたんまる先生だ」


 化学の瓢箪丸ひょうたんまる那須美なすび先生──女性みたいな名前だけど男性だ。


 先生は銀ぶちメガネの鼻のところを指でクイクイあげながら近づいてくると、コンジョーくんと握手した。


「見てたよ……。今の。すごひな……。うちの生徒だよね? キミは一体。何者なんだひっ?」


 コンジョーくんは答えた。

「た……、ただの人見知りです」


「瓢箪丸先生!」

 柏木くんが前へ出た。

「僕たち、新しい部活を設立しようと思ってるんです。その名も『根性部』──見たでしょう? 今、段田くんが人間とは思えない跳躍をしたところを?」


「見てた、見てたよ」

 先生はメガネをクイックイッと忙しなくあげながら、何度もうなずいた。

「あの力はなんなんだひっ? もひかして、超能力。みたひな? ──」


「根性です」

 柏木くんが自慢げに答えた。

「段田くんは根性でなんでも出来てしまうんです。今見た通り、人間には本来不可能なことでも」


「ふむ。ふむ」

 先生はメモ帳を取り出して、ボールペンで何かを書きはじめた。

「根性。根性力──。人間の限界を超える力。超能力──と」


「それで……お願いがあるんですが、今、顧問をやってくれる先生を探しているんです」


 梓ちゃんが横から口を挟む。

「あ……。でも瓢箪丸先生、確か、オカルト研究会の顧問やってるよ?」


「是非! やらせてもらおうっ!」

 先生がひょろ長い胸をぴょこん! と叩いて、承諾してくれた。

「オカルト研究会の顧問をやっているよ。確かに。でも。かけもちは可能だからねっ!」


「やった!」

「顧問が見つかった!」


 喜ぶみんなに、でも瓢箪丸先生は言った。


「ただ。部室の確保も必要だし。あと。もう一人、副顧問をやってくれる先生も見つけないとだよ?」


「えー?」

「そうなんだ?」


「せっかくこれで申請できると思ったのに……、これまでことごとく鼻で笑われてきたのに引き受けてくれる先生なんて……あっ」

 柏木くんがそこまで言って、何かを思いついたようにぽんと手を叩いた。

「なんで思いつかなかったんだろう……。宇佐美先生に頼んでみよう」


「宇佐美先生?」


 あたしはその音楽の先生の顔を思い浮かべた。

 なんていうか、とっても暗い感じの、若い女の先生だ。








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