【番外編】10000日後の僕等
本日、ブックマーク数が10000人を突破いたしました。皆様ありがとうございます。
記念として番外編を書いてみました。短いですが楽しんでいただければ幸いです。
日付で記念日回を考えたんですが、流石にお釈迦様の誕生日は恋愛話に絡めるのは無理でした。
「ねぇ、陽信。生まれてから10000日後が何歳かって知ってる?」
「10000日後……? いや、知らないけど……どうしたの突然?」
あれ? なんか前も似たようなやりとりしなかったっけ? 僕は少し既視感を覚えるが、七海さんはスマホをいじりながら僕に解説を始めてくる。
「なんかねー、生まれてから10000日で27歳と4ヶ月ちょっとなんだってさ。誕生日とは別で、その日にお祝いしたり、記念に何かプレゼントしたりするんだってさ」
「27歳って……だいぶ先だなぁ……」
僕等の年齢を考えると……約10年後くらいになるのかな?随分と途方もない未来の話で、僕は正直あまりピンとは来ていなかった。
「27歳かぁ……私はどんな大人になっているかなぁ? 夢は叶ってるかな?」
七海さんはその記念日について書かれたページを見ながら、頬に手を当てて未来に思いを馳せていた。
「七海さんの27歳かぁ……」
僕もその言葉を受けて、成長した七海さんの姿を想像してみる。今の七海さんが成長した姿……成長……。
「なんか……とんでもない美人になってそうだよね……七海さんの27歳って……」
あと、言わないけど色気とかも凄そう。
夢が叶って先生になってたら……生徒達からの人気とかも凄い高いんだろうな……。そう考えると……なんか急に心配になってくるな。
「あれぇ? 今の私は陽信にどう思われているのかなぁ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、七海さんは僕の顔を覗き込んでくる。
前ならそんなことを言われたら、顔を真っ赤にしてあたふたしていたけど……精神的に成長した今の僕には、その程度の揺さぶりは通じないことを見せておこう。
「今も七海さんは美人で可愛いよ。それがさらに増してるって意味……わざわざ言わせようとしてるでしょ?」
「ふふっ、ありがと」
平静を装った僕の言葉に、七海さんは短くお礼を言うと僕の頬を軽く指で突っついてきた。
「でも、私が27歳ってことは陽信も27歳ってことだよね。……きっと、素敵な男性になってるんだろうねぇ」
僕の頬を指でクリクリとつつきながら、七海さんは僕が27歳になった時のことを想像しているようだ。僕の27歳……? どんな27歳になっているんだろうか……
「素敵かなぁ……? 正直な話、まともな就職ができてるかも怪しいなあ……」
七海さんのおかげで徐々に成績が上がっている僕だけど、将来の明確な夢とかはまだ持てていないのだ。そんな状態で27歳と言われても、想像がつかないのが正直なところだ……。
「私の好きな陽信なら、きっと大丈夫だよ。今だって色々頑張っているんだし……私が保証するよ」
七海さんは僕から指を離すと笑顔を向けてくれる。サラッと好きと言われてしまい、僕は頬が赤くなるのを必死にこらえるのだが……次の言葉でもうダメだった。
「でもさー……27歳になってもさ……こんな風に二人で一緒に居られたら素敵だよねー」
その一言を皮切りに僕の頬が赤く染まる。七海さんから10年後も一緒に居たいなんて言われたら、そりゃ赤くなってしまうに決まっている。
僕だって……そうなったらいいなとは思っているけどあえて口にはしていなかったのに……。
「……27歳になっても一緒ってさぁ……七海さん……意味わかってて言ってる?」
「え? 意味って……」
「いや、だってさ……10年以上も一緒に居たら……流石に……彼氏と彼女ではなくなってるんじゃない?」
「え……」
僕の言葉に七海さんは顔を赤く……してなかった。なんだかちょっと悲しそうな顔で、何なら顔を青くしていた。今にも泣きそうに……声が震えてしまっている。
「さ……流石に別れちゃってるかな……? 10年以上一緒にって無理かな……? 私は……大丈夫だって思って……」
「違うよ?! なんでそっちの発想になるの!? 流石に結婚してるんじゃないのって意味だよ?!」
斜め上の解釈をされてしまい、僕は思わず大声を出して突っ込んでしまう。そっちの発想は無かっただけにビックリである。
そして僕も自分自身がはっきりと言葉にしたことにビックリである。うん、言っちゃったね、結婚って……。
先ほどまで青くしていた顔を、七海さんはみるみるうちに紅潮させて頬を薔薇色に染める。
「そ……そっちか……そっちの意味かぁ……あはは、焦っちゃったよ……うん……そうだよね……その可能性もあるよね……」
「いや、あの……僕も大きい声出してごめんね……。まさかそっちの可能性を言われるとは思ってなかったから……」
「私もごめん……ずーっと今の関係だって思ってたから……そうだよね……結婚……結婚かぁ……。それなら、陽信が就職失敗しても、専業主夫にしてあげられるね?」
「あはは……それは……とても安心だね……。じゃあ僕は、七海先生を支えるのが仕事になるわけだね……」
お互いに軽口もどこか弱々しくて、やがて僕等は沈黙してお互いを見つめ合う。そして笑顔を浮かべて……僕は七海さんの手を取った。
「10000日後もさ、20000日後も……ずっと仲良く、一緒に居られたら良いよね」
「……うん、そうだね。陽信……ずっと……お爺ちゃんお婆ちゃんになっても、一緒にいられたら良いよね」
そうやって僕等がお互いの思いを口にしたところで……横から別な声がかかった。
「あのさぁ……二人とも……」
僕等は不意にかけられた声の方へと視線を向けると……そこには呆れた表情の沙八ちゃんが座っていたのだ。
「……あれ? 沙八ちゃん……いつの間に」
「ただいまって言ったよ……。二人の世界に入ってて気づいて無かったでしょ? 部活終わって帰ってきたら、なーんかいい雰囲気出してるし……」
「あはは……ご飯食べる? 今日はお父さんとお母さんデートだから、私達で作ったんだよ」
「知ってるよー。メッセージ入ってたからね。あーもー……私の周囲はみんなラブラブ……まずはダンスに集中するって決めたからいいけど……それでも羨ましいよ」
沙八ちゃんはそのまま手をひらひらとさせて、お風呂に先に入ると言って移動していった。その間に、僕と七海さんは沙八ちゃんの夕食の準備をして……。
「陽信……」
「何? 七海さん……」
「私達の10000日後の日……楽しみだね」
「……そうだね、その日は楽しい日にしようね」
僕等ははるか先の将来に対して思いを馳せて、お互いに笑いあった。
幕間:夕食時の沙八ちゃん
「だいたいねぇ、今はラブラブだからいいだろうけど、高校から付き合ったカップルが結婚するなんて、可能性としてどんだけ低いと思ってるのさ?」
「随分と現実的で手厳しい事を言うねぇ、沙八ちゃん」
「私と陽信なら大丈夫なのー。沙八は好きな男の子とかいないの?」
「……残念ながら、同年代で良いと思う人いないんだよねー……だから今はダンスに集中するの」
夕食を食べながら、沙八ちゃんは僕等に対して羨ましそうな呆れてそうな視線を向けてきていた。
それから沙八ちゃんは夕食を食べ終わり、食べ終わった食器は七海さんが下げて洗い始める。
僕は沙八ちゃんに食後の熱いお茶を出してあげると……彼女はそれを飲んで一息つくと、僕にだけ聞こえるように呟いた。
「さっきはあぁ言ったけどさ……お義兄ちゃんとお姉ちゃんなら大丈夫だよ。私が保証するよ」
そして、七海さんそっくりな笑顔を残して……沙八ちゃんは自分の部屋へと入っていくのだった。




