【番外編】今日は何の日?
ツイッター見たら今日はそういう日だと聞いたので書いてみました。
絶対にイチャつきますよねこの二人なら。楽しんでいただければ幸いです。
「はい、陽信君に質問です。今日はいったい何の日でしょうかぁ~?」
僕の目の前には、やたらとテンションの高い七海がいた。僕の事をわざわざ陽信君なんて呼んで、ニコニコ顔だ。うん、可愛い。
「何の日って……えっと……なんかの記念日だっけ? 誰かの誕生日……じゃないよね……?」
僕が頭を捻っている間も、七海はとてもニコニコと笑顔でテンションが高いように見える。
今日は学校が終わってからどこか寄ろうかとか話してたら、今日は部屋で二人でまったりしたいなんて七海に言われて、茨戸家にお邪魔してるんだよね。
彼女に部屋で二人で過ごしたいって言われて断れる人っているんだろうか? いいやいない。反語だ。
僕が答えに困っていると、七海はそんな僕の事を楽しそうに見ている。楽しそうだなぁ、七海。
「わかんない? わかんない?」
小首を傾げながら七海は僕を覗き込む。薄いピンク色のキャミソールに、下は短いジーンズを身に着けているので、その露出度の高さにドキドキしてしまう。
なんて言うか、誘ってるのかとか思ってしまうけど……僕は鉄の意思でその誘惑に耐える。
屈むとピンク色のキャミソールの肩ひもがはだけて、七海はちょっと照れ臭そうにそれを直して。
おへそもチラチラ見えてるし、あちこち触れる肌が柔らかいし……。
……僕の意思よ、鉄から鋼に進化してくれ。どんな条件でもいいから。たぶん鉄なら七海に押しに押されたら壊れてしまいそうだよ。
「わかんない、降参」
とりあえず両手を上げて、僕は降参のポーズを取る。
「じゃあヒント、これです」
七海はどこに隠していたのか、とてもわざとらしく赤いパッケージのお菓子を僕に見せてくる。えっと……それって……。
「ポッキー? なんでポッキーを……」
「正解ー! 今日ってポッキーの日なんだよ!! 知ってた?」
僕の言葉を遮る様に、食い気味に七海は答えを明らかにしてくれた。いや、まだ僕なにも言ってなかったんだけど、そんなに正解を言いたかったの?
「へぇ、そんな日があるんだ。知らなかったよ……。えっと、今日はそれを一緒に食べたくて部屋に呼んだの?」
「うん、そうだよ?」
七海は首を傾げながらポッキーを二箱ほど机の上に置いている。そのためだけに家で過ごそうって誘われるのは何とも拍子抜けと言うか……。
もしかして、七海ってポッキー大好きだったりするのかな? それならなんか可愛いというか、ほのぼのしたお茶会を楽しむのも悪くないかもしれない。
そんなことを考えていたら、甘かった。僕は本当に甘かった。
「じゃあ陽信、ポッキーゲームしよっか」
「は?」
七海は唐突にそんなことを言い出した。いや、待って、いきなりすぎてついていけないんだけど。
僕はちょっとだけ考えるそぶりを見せて、七海を
「えっと……七海……。ポッキーゲームって……どんなものか知ってて言ってる……?」
「もちろん!!」
七海は大きく胸を反らしながら、得意気な表情を浮かべる。そして、七海はポッキーを一本取り出すと……。
クッキー部分を、自身の胸の間に挟みだした。
その光景に目が点になる僕を尻目に、七海は顔を真っ赤にしながらも僕に対してその胸に挟んだお菓子を突き付けるような姿勢を取る。
「さぁ!! 陽信!! 陽信は私の胸に触れずにポッキーを食べれる?!」
「七海!! それ違う!! それはポッキーゲームじゃない!!」
なんか色々と間違っているポッキーゲームに対して、僕は思わず全力で突っ込んでしまう。七海の顔……耳まで真っ赤で、恥ずかしいのを我慢してるのは明らかだ。
「えっ?! これ違うの?!」
「逆に聞きたいよ、なんでそれをポッキーゲームだって思っちゃったの……」
「いや、だって初美と歩がポッキーゲームはこういうのだって……」
あの二人……なんでそんな間違った情報を七海に? ちょっと今度問い詰めないといけないかもしれない。ハードルは高いけど。
「あー、やっぱり違ったかぁ……。いや、私も変だとは思ったんだよね。二人に陽信とちょっと刺激のある事がしたいなーって言ったら教えてくれたんだよ。あの二人は彼氏とやってるみたいなんだよね」
あの二人は彼氏さんと何をしてるんだろうか……。いや、それも本当か怪しいけど……。まぁ、まずは七海の誤解を解くことが先かな。
「あのね七海……正しいポッキーゲームって言うのはね?」
実は僕も詳しくは無いんだけどね。ポッキーゲームは漫画とかの知識でしか知らない。やったことも当然ない。
だけど、とりあえず僕の知る限りのポッキーゲームの情報を七海に教える。
「……へぇ、両端から食べ合って先に離した方が負けなゲームなんだ。なぁんだ、そんな程度なんだぁ」
七海は胸の間に挟んでいたポッキーをポリポリと食べると、拍子抜けしたような表情でそんな台詞を口にした。
「そんな程度って……結構ハードル高いと思うよ?」
「えー? だってさぁ、私等さんざんキスしちゃってるじゃない? 今更そんなキスしちゃうかもしれないゲームってドキドキはしないんじゃないかな? キスしたら幸せな気分にはなるけど」
まぁ、確かに言われてみればそうかもしれないなぁ。本当のポッキーゲームを知って、七海はちょっとだけつまらなそうにしていた。
……いや待てよ? 本当にそうだろうか?
なんとなくだけど僕は、この後の展開を予想しつつ……七海に提案してみることにした。
「じゃあ、試しにやってみようかポッキーゲーム」
「もー……陽信ったらキスしたいなら素直に言ってくれれば、ポッキーゲームなんかしなくてもしちゃうよ?」
七海は自分の唇に指先を軽く触れさせると、僕を誘惑するように少しだけなぞる。
こんなこと言ってるくせに、本当にキスしたらその後はしばらく真っ赤になって恥ずかしがるんだよね……。
「ほら、何事も経験だしさ。試しにやってみようよ。平気なんでしょ?」
僕はポッキーを一本つまむと、クッキーの部分を口にくわえて七海に逆の方を加えるように指さした。
七海は小さくため息をついて苦笑を浮かべると、僕とは逆の方に口を付ける。その直前にルールを確認した。
「先に口を離した方の負けね? 負けたら罰ゲーム……なんかやろっか? 私が勝ったら……添い寝の時間もうちょっと長くしてほしいかなぁ……」
僕は既にお菓子を咥えているので言葉を出さずに、黙って頷いた。満足そうに微笑んだ七海はそのままチョコの部分を口にくわえる。
それから僕等はほんの少しの距離でお互いを見つめ合う。
無言で口にしたお菓子をほんの少しずつ食べ進めるんだけど……七海は明らかに進んでいなかった。
それどころか目が泳いで顔が真っ赤になり、ちょっとソワソワと落ち着きが無くなっていた。
とりあえずゆっくりと三分の一ほど僕が食べ進めた段階で、彼女は本当にほんの少ししか進んでいなかった。
ようやく彼女も……このゲームの恥ずかしさに気が付いてしまったようだ。
うん、僕も実はそろそろ限界なんで……勝負を決めてしまおうか。
そう決意した僕は一気にポッキーを食べ進めた。その勢いに七海は目を見開いて驚き、そして……。
「よよよよよ陽信!? いきなり進むの反則だよっ?!」
彼女は口にしていたポッキーを噛み切って口を離してしまった。うん、勝負は僕の勝ちのようだ。
「はい、七海の負け」
「あ……。う~……陽信反則だよぉ……いきなり速度を上げるんだもん……」
「でもほら、キスはできなかったけど……かなりドキドキしたでしょ?」
「ドキドキしたよ!! すっごい恥ずかしかった……ゲームだから目もつぶれないし……陽信の顔がゆっくりゆっくり近づいてきて、ずっと見つめ合って……」
七海は両頬に手を当てると顔を茹蛸のように真っ赤にさせて、先ほどのゲームを思い出してるようだった。うん、僕も結構恥ずかしかった。
そのまま彼女は腰が抜けた様に床にへたり込んでしまった。
「陽信、ずいぶん慣れてるって言うか……もしかして前にもやったことあるとか?」
「まさか、これが初めてだよ。それじゃあ僕の勝ちってことで……罰ゲームはどうしよっか?」
「うー……えっちな命令する気でしょ?」
「しないって……今の自分の格好考えてよ七海……」
七海はちょっと恨めし気に僕の事を半眼で見上げるようにして睨んできた。言い出しっぺは七海でしょうに……。
「それじゃあ……七海さん。もう一回、僕とポッキーゲームをしてもらえませんかね? 今度はゆっくり、急いで食べるの無しで……罰ゲームも無しで」
「……やる」
七海は頬を染めながらも、改めてポッキーを咥える。今度は僕から食べて来いと言う事だろう。
そんな風に僕と七海は……その後も何回か、色々と趣向を変えながらポッキーゲームを楽しむのだった。
【幕間】とある二人のゲーム
「桃ちゃん、ポッキーゲームって知ってる?」
「あ、うん……。ネットで見たことあるよ。沙八ちゃんも知ってるの?」
「うん。それでさ、ちょっと二人でやってみない?」
「え……? 沙八ちゃん学校にお菓子持ってきてるの? ……ダメだよ、校則違反だよ?」
「そ……そっちで怒られるとは思わなかった。ほら、やってみたいけど彼氏いないからできないし……練習でやってみない?」
「れ……練習するの? そんなに彼氏とポッキーゲームをする人がいるとは……思えないんだけど?」
「いやー……若干二名ほど心当たりが……たぶん奴らはやっている……!!」
「そんな心当たりがあるんだ……」
「でさ、桃ちゃんやってみようよ。唇が触れなきゃキスにならないし、あくまで途中までの練習ってことで……」
「う……うん……。練習……そうだね、確かにちょっと興味あるかも……。じゃあ……放課後に二人でやってみる?」
「やったぁ!! じゃあ楽しみにしてるねぇ」




