3話:ゴブリンにリベンジ
「それじゃ早速ゴブリンのとこに行く……前に準備だな」
はやる気持ちを抑え、冷静に準備をする。
加護を切った状態で挑むような愚行は、もうしない。
「よし、加護はオッケー。後はステータス、っと」
このゲームにはSTR,INT,VIT,MID,SPD,DEX,LUCという7つのステータスがあって、レベルアップで得たポイントを自由に割り振れる。
効果はまあ、名前の通りだ。
今の俺に足りていないのは、"速さ"。
もう少し速ければ、前回も一撃ぐらいは入れられたかもしれない。
そう考えて、手持ちのポイント全てをSPDにぶち込む。
「お、速い!」
体が軽い。
今まではガタガタだったのが、ガタッガタッになったぐらい違う。
え、わかりにくい?
じゃあ、体感1.5倍ぐらい速い。
そういうことにしておこう。
準備を終えて振り返ると、そこにはいつの間にかゴブリンがいた。
「待たせたな。さあ……戦闘開始だ!」
俺はゴブリンへと飛びかかり、頭部に噛み付く。
鈍い手応えを感じると共に、ゴブリンが悲鳴を上げた。
「っしゃ、まずは一撃!」
長居はせずにすぐ離脱する。
ミミックの貧弱ボディは、反撃一発でも致命傷。
できる限り動きは止めない。
そしてここで秘策その1━━《貪納》!
ゴブリンの周囲に黒いもやを生み出し視界を奪う。
もやはすぐに振り払われるが、その一瞬で十分だ。
ゴブリンが視界を取り戻した時、俺はゴブリンの死角に移動している。
「二発目ぇ!」
背後からゴブリンの足元へとタックルをかます。
これで倒れてくれれば最高だったが、ゴブリンは体勢を崩しこそしたものの倒れずに踏みとどまる。
ここまでの攻撃でゴブリンのHPは残り50%ほど。
だが、俺はミミック。
まともに棍棒を受けてしまえば2,3発でお陀仏だ。
まだまだ、油断はできない。
「よし……ここからは、殴り合いだ」
ゴブリンは怒りの声をあげ、棍棒を振り上げる。
ミミックは背が低い。
だからゴブリンの攻撃は、"振り下ろし"になる。
つまり……避けやすい。
棍棒が地面を打ちつけ、砂埃が舞う。
「隙あり、だッ!」
振り下ろしを外し、硬直したゴブリンの足に噛みつく。
これで3発目、HPは残り40%。
ゴブリンは痛みに耐えつつ、棍棒で足元を打ちつける。
なんとか後ろに飛び退いて避けるも、再び距離が開いてしまった。
「それじゃ、秘策その2といきますか!」
再び《貪納》を発動。
今度は、"上"。
ゴブリンの真上にもやを生み出し、そこから石を落とす。
そう、遠隔でも中身を出すことができるのだ。
貪納は戦闘に使えないといったな。
あれは嘘だ。
「頭上に注意ってなぁ!」
石が雨のように降り注ぎ、ゴブリンは思わず顔を覆った。
その隙に地面を蹴って距離を詰め、再び足に噛み付く。
残り25%。
そこでゴブリンが振り向きざまに、横薙ぎを放った。
直感で、避けられないことがわかる。
襲いくる衝撃に備え、体をこわばらせた。
直後、鈍い衝撃が体を揺らし、HPが一気に削れる。
棍棒が当たった縁がミシミシと嫌な音を立て、歪む。
「ぐっ……」
思わず叫びが漏れる。
だが……受け切った。
棍棒を無理に振ったせいで、ゴブリンは体勢を崩している。
今しかない。
「オラァァァ!!!」
体当たりでゴブリンを地面へと押し倒す。
「これで……トドメだッ!」
地面へと倒れ伏したゴブリンの顔に噛みつき、噛みつき、噛みつく。
絶叫と共に、ゴブリンのHPが0になった。
「……っはぁ……っしゃぁあああ!!!!」
勝った。
おそらくは最弱のモンスター相手に、ギリギリの戦いだったが、それでも。
勝ちは勝ちだ。
「いや俺、天才じゃね?」
俺のリベンジは、こうして幕を閉じた。




