22話:アーク
塔の入り口を守っていたモンスター、センチネル・センサーを倒した俺たちは塔の探索を始めた。
とは言っても登場するモンスターが変わっただけで、やることは変わらない。
アーシェが敵を誘導して、俺が食べて、時々宝箱になりすまして。
気づけば俺たちは塔の最奥部に辿り着いていた。
「楽勝だったな」
「そうですね。宝箱どころかアイテム一つすら手に入らないのは想定外でしたが……ここを突破できれば流石に何かいいものがもらえるでしょう」
目の前に聳え立つボス扉を見上げ、アーシェがそう言う。
そう、なんとここまでの成果は全くのゼロ。
確定ドロップだと思っていた魔石すらドロップしない。
もちろん苦労して倒したセンチネル・センサーもドロップなし。
「……だな。流石にクリア報酬でドカンと貰えるさ」
返事というよりは、暗示。
まともな戦闘はほとんどしていないとはいえ頑張ったことには変わりない。
こんな如何にも隠しダンジョンですみたいな雰囲気の癖して収穫無しは、さすがにきつい。
「さて、美味しい報酬をもらいに行きましょうか」
「よし、行こう!」
俺の返事を聞いてアーシェが扉に手を伸ばす。
それに反応して扉に光が走り、ゆっくりとスライドして開いていく。
扉の先に広がる空間には、一つの赤いコアが浮かんでいた。
「あれがボス……なのか?」
「見ます。少しお待ちを……」
アーシェがそう言って部屋に踏み入った瞬間、声が響いた。
『ふむ、人間とミミックか。珍しい組み合わせだ』
この遺跡で何度も聞いた機械音声。
しかしその声は今までとは違い、感情が込められているように感じた。
『私はこの都市の管理AI、アーク。ここに生物が来るのは本当に久しぶりだ。本来ならば侵入者は排除するべきだが……既に私を作った種族は滅んで久しく、もはや私にはここを守る意味もわからない。だからどうだ、話をしようじゃないか』
アークは俺たちの返事も聞かずに言葉を続ける。
『君たちは何を求めてここに来た?どんなものも切り裂く剣か?世界の果てを撃ち貫く銃か?それとも溢れんばかりの黄金か?』
何やらラスボスのような雰囲気を醸し出すアーク。
ここ、そんなすごいものが眠ってるのか?
初めて知ったんだが。
「俺はただついてきただけだからなぁ……アーシェは?」
「面白そうだったから、ですかね。もちろんお宝は欲しいですが、特に何かを求めてきたというわけでは」
おそらく望んだ答えではなかったのだろう。
アークが次に言葉を発したのはしばらくの沈黙の後だった。
『……そうか。まあいい、今から君たちに試練を与える。それを乗り越えたなら、君たちの望みをできる限り叶えよう。どうだ、悪い話ではないだろう?』
確かに悪い話じゃないな。
具体的に望みがあるかって言われると困るけど。
進化したばかりだし、今のところ特に困ってないんだよなぁ……
「断る理由はありませんね」
「ま、それもそうか」
望みなんて試練を達成してから考えてもいいし、ここまできて試練を受けずに帰るんじゃ何をしにきたのかもわからないしな。
『では試練を始めよう。我が最高傑作、打ち倒して見せよ!』
アークがそう言うと部屋の中央に浮かんでいたコアが光を放ち、部屋の壁から遺跡を徘徊していたモンスターたちが姿を表す。
モンスターラッシュかと思ったのも束の間、モンスターたちはコアへと近づくと、変形を始めた。
パトロール・アイは脚をしまってただの眼球となり、ガーディアン・フレームはより集まって一本の巨大な脚を形作る。
「合体ロボ……?」
『その通りだ。これが私の最高傑作!どうだ、素晴らしいだろう!』
何やら興奮しているアークを他所に、呼び出されたロボットたちは形を変え、一つの大きなロボットへと変化していく。
合体ロボって夢があるよなぁ……
次々と組み上がっていくパーツを見ながらそんなことを考えていると、横にいるアーシェから声がかけられる。
「ミミックさん、あのモンスターに盲目のデバフがかかりました。今なら、影呑が使えるかと」
「え、まじで?」
今の合体の進行状況はコアの周りをそれぞれのパーツが取り囲んだような状況。
コア本体の視界はパーツで遮られ、パーツとの結合もできていないため周りが完全に見えていないと言うことだろう。
おそらくは千載一遇のチャンス。
「よし……やるか」
『君たちはお約束ってものを知らないのか!?』
俺たちの会話を聞いたアークが声を荒げる。
確かに変身シーンは待つのがお約束。
だけどこの世界はアニメじゃないし、俺も正義の味方でも悪の軍団でもない。
後、人間やるなと言われたらやりたくなるものだってな。
俺はそう考えて、合体途中のコアへと走り出す。
『私がこれを起動する日をどれだけ楽しみにしていたと思っているんだ!数百年待ったんだぞ!?』
アークが声を荒げるが、知ったことじゃない。
完成したら俺たちじゃ勝てない可能性が高いしな。
悪く思うな。
━━《影呑》
闇が俺の内側から迸り、合体途中のロボットを包み込んでいく。
脚も腕も武装も、コアも。
アークの最高傑作は合体を終えることすらできず、跡形もなく消え去った。
『ああ……私のアーク・ユナイトが……』
部屋に響き渡るアークの悲痛な声。
いや、すまん。
「で、これは試練クリアでいいんだよな?」
『…………納得はいかないが、アーク・ユナイトを倒したことは確かだ。試練を乗り越えたと認めよう。さあ、君たちの望みを言うがいい』
アークは渋々といった雰囲気でそう告げる。
まあ、俺でもやられたらそうなる。
認められるだけお前は偉いよ。
「そうですね。まずはアークさんから貰えるアイテムの一覧をくれませんか?それを見て考えます」
「あ、じゃあ俺も」
アーシェに便乗して俺もそう言う。
望みなんて思いつかないが、選択肢があれば選べるだろ。
『いいだろう。これがリストだ』
アークの言葉と共に、俺の視界に画面が映し出される。
そこに並ぶのはエクスカリバーだのアイギスだのどこかで聞いたことがあるアイテムたち。
全ての闇を切り裂くとか、この世の理を貫くとか、よくわからないけどやばい効果が揃い踏みだ。
だが……
「使用制限がついているんですね」
アーシェが言う通りほとんどのアイテムは使用制限、というか一回使ったら壊れる仕様だった。
無制限に使えたらゲームバランスが壊れるし、仕方ないところではあるんだけど。
『流石に私の創造主たちも無尽蔵に神話の力を操ることはできなくてな。使い切りでないものだけをまとめたリストも送っておこう』
視界に二つ目の画面が表示される。
こちらには聞いたことのある名前のアイテムはなく、クールタイムもかなり長いものの、効果は十分過ぎるほど強かった。
例えばダメージ2倍。
例えば移動速度2倍。
例えばスキルクールタイム半減。
移動速度も捨てがたいが、ステータスを上げればそのうち補える。
今の所移動速度負けしてることもそうないしな。
となると何か特殊効果があるものか……
しばらく悩んだ末に俺が選んだのは、ダメージを一度だけ無効化するシールドを展開できるアクセサリーだった。
流れ弾とか、ポージングゴーレムの大爆発とか、嫌な死因を減らせるのは多分これだけだ。
それにこれがあれば、面白いことができる気がする。
超高高度からの落下とかな。
アイテムを選び終わってアーシェの方を見ると既に選び終わっていたようで、何やらレンズのようなアイテムを眺めてニヤニヤしている姿が目に映る。
効果はわからないが、アーシェらしい選択だ。
『二人とも報酬は受け取ったようだな。では、地上へのゲートを開いてやろう』
俺とアーシェがアイテムを受け取ったのを確認したアークがそう言うと、部屋の中央に渦が生まれる。
『……次は、ちゃんと戦ってくれ。アーク・ユナイトが戦っているところが見たいからな』
そんな拗ねたようなアークの声に見送られ、俺たちは遺跡を後にした。
次、あるかなぁ……




