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21話:暗闇に包まれて

「……無理じゃね?」


そんな言葉が口から漏れた。

あれからしばらく作戦を考えたが、全くもって勝ち目が見えない。


俺はため息を吐いて建物の影から顔を出し、改めて問題のモンスター『センチネル・センサー』を見る。

床から生えた四本の金属製の触手をゆらゆらと漂わせるそいつはすぐに俺の視線に気づき、一本の触手をこちらへと向けた。

俺たちの勝ち筋は、この距離からでも視線に反応してくる相手に気づかれず接近して影呑を決めることだけ。


いや、無理だろ。


「もういっそ俺が囮になってる間にアーシェが建物の中に入るとかじゃダメか?」


「うーん、あのモンスターを倒すまで入れなさそうな雰囲気ですし、私一人だと入れても先がないんですよね」


紙装甲低耐久だが、建物に入るぐらいの時間稼ぎならできる。

そんな提案はバッサリと切り捨てられた。

それならやはりなんとかしてあいつを倒すしかないが……


「ガラクタだけじゃ最後の一押しができないし、偽宝箱は視線がないから騙せない。触手が四本もあるから、貪納じゃ視界を奪いきれない……」


「煙幕か何かがあれば少しは楽だったんですけどね……」


煙幕、アーシェのその言葉がどこかに引っ掛かる。

貪納のもやが煙幕といえば煙幕だが、せいぜい触手一つの視界を潰すことしかできない。

いや、本当にそうだったか……?


「煙幕……俺、出せるかも」


思い出したのはゴブリンチーフとの戦闘の後、部屋に撒き散らかされたガラクタを回収した時のこと。

あの時貪納のもやは、部屋全体にまで広がっていた……はずだ。

時間は短かったと思うが、もしあれを再現できれば全ての触手の視界を奪うことができる。


そう伝えると、アーシェは頷いて微笑む。


「なるほど、それならいけるかもしれません。まずは本当にできるかの確認からですね」


「よし、うまくいってくれよ!」


そう言って俺は周囲にガラクタを撒き散らす。

……それにしても一番使ってるアイテムがガラクタって、なんかやだな。


◆ ◆ ◆


それからしばらくして貪納の確認と作戦会議が終わり、ついに戦いの時がやってきた。

作戦はシンプル。

ガラクタに隠れて、貪納で視界を塞いで、近づいて食べる。

視線感知を防ぐために、それを全部目を瞑りながらやるってだけだ。


「では、タイミングは伝えます」


「ああ、頼んだ。それじゃあ行ってくる!」


俺はそう言って、建物の影から飛び出しモンスターの元へと駆ける。

まずは目を瞑る必要のない、軽い下準備からだ。


モンスターの触手が届かない程度の場所まで近づいたところで貪納を発動。

そしてそのままモンスターの周りを走りつつ、周囲にガラクタの山を作り上げていく。

もちろんモンスターもただ見ているだけではなく、触手の先端からビームを飛ばして俺を狙うが……


「ストップ!」


その攻撃はアーシェが見切っている。

モンスターは機械らしく行動を先読みして攻撃してくるため、急に止まれば当たらない。

だから、俺は信じて、走ればいい。


それからアーシェの指示に従って攻撃を避けつつガラクタをばら撒き続け、モンスターを取り巻くガラクタの包囲網が完成した。


「よし、準備オーケーだ!」


「わかりました、こっちは任せてください」


俺はガラクタの影へと隠れ、入れ替わりでアーシェがモンスターに近づく。

アーシェとモンスターが戦う音が聞こえる中、俺は適当なガラクタに擬態して目を閉じ、合図を待つ。


「ヘイト移りました!12時の方向に移動を!」


聞こえてくる指示に合わせ、ガラクタを伝って目的地へと移動する。

目を瞑っているので仕方のないことではあるのだが、俺が移動経路をミスしてガラクタが低い部分を通り、モンスター見つかってしまえばやり直しだ。

完全にモンスターが俺のことを見失うまで移動を続ける。


「成功しました!そこで待機してください!」


暗闇の中を移動すること六回、ついにアーシェからオーケーが出る。

後は、待つだけだ。

瞼の裏の暗闇に包まれ、ただひたすらに合図を待つ。


目が見えないからかいつもよりも音が鮮明に聞こえてくる。

触手の駆動音、アーシェの足音、ビームが何かに当たる音、そして息切れ……

音だけでも厳しい戦闘が続いていることがわかる。

そしてついに、アーシェからの合図が届いた。


「今です!」


その言葉に合わせ、俺は貪納を発動した。

対象はもちろんばら撒いた全てのガラクタ。

うまく範囲を指定できたかはわからないが、スキルが発動したその直後、俺はモンスターがいる場所へと飛び出す。


「3秒後!」


アーシェが影呑の発動タイミングを教えてくれる。

どうやら貪納はうまく発動したようだ。


さて、後1びょ……「下がって!」


その声を聞いて反射的に下がれたのは奇跡に近い。

完全に油断していた。


俺の前を何かが通り過ぎ、風圧が顔を叩く。

アーシェの言葉を理解したのか、機械にあるまじき勘の持ち主だったのか。

完全に視界を奪われたはずのセンチネル・センサーが、その触手で辺りを薙ぎ払った。


だが、避けた。

貪納のもやが晴れるまで時間がない。

俺は再び前へと走り、距離を詰める。

そして……


「今!」

「《影呑》!!」


アーシェの声に被せるように吠える。

自分では動かしていない蓋が勝手に開き、中から何かが溢れ出る感覚。

発動した。

その感覚に安堵しつつ目を開けると、そこにはもう、何も残っていなかった。


「やりましたねミミックさん!」


振り返ると、白いローブの所々に焼け焦げたような跡を作ったアーシェの姿が目に入る。

絶対に、一人では勝てない相手だった。


「ああ、勝ったな!」


パーティープレイ特有の達成感を味わいつつ、アーシェに言葉を返す。

するとなぜか、アーシェはぴたりと動きを止めた。


「なんとなくフラグみたいなのでやめてください」


「ええ……もうモンスター消えたし……」


「倒したと思ったら実は分身だったなんてよくある話ですよ」


「……」


あまりにも身に覚えのあるシチュエーション。

もしかして光陣営でもトーナメント見れたりする?

光の方は探しても見つからなかったんだけどな……


一応確認したが、大丈夫だった。

ちゃんとモンスターは倒してたし、トーナメントも見れないらしい。

俺が分身使いに負けたのはバレて笑われたけど。

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