19話:砂の底に眠る遺跡
『こっちはイベント終わったから、いつでも行ける』
『それなら明日の19時に黄金砂漠のオアシスに集合しましょう』
トーナメント二日目も無事終了し、以前砂漠で出会った鑑定士アーシェとそんなメッセージをやり取りした翌日。
俺はヤシの実に擬態してオアシスにやってくるモンスターを狩りつつ、アーシェを待っていた。
「それにしても、すごい人がいっぱいいたなぁ……」
狩りの合間に思い出すのは昨日のトーナメント。
見事四位に入り強化薬を手に入れた四人の他にも、強く、面白いプレイヤーが大勢いた。
トーナメントが終わった今、次に待ち受けているのは彼らと肩を並べ、光陣営と戦う戦争だ。
彼らの足を引っ張らないためにも、そして何より相手の強い奴らを食べるためにも、俺はもっと強くならないといけない。
そんなことを思っていると、遠くからサクサクとした人間の足音が近づいてきた。
アーシェがやってきたのだろう。
そう考えて振り向くと、予想通りそこには前見た時と同じく白いローブを羽織ったアーシェが立っていた。
「お待たせしました、ミミックさん。ずいぶん早いんですね」
フードの奥から淡く光る瞳でじっとこちらを見つめながらアーシェが言う。
やっぱりちょっと怖いんだよなぁ……
「今イベントのせいで金欠でさ、ちょっと狩っておこうと思って」
今俺はトーナメントのために買ったボウガンやら、追加の囮用アイテムやらで完全に金欠だ。
というか、ゲームを始めてからずっと金欠かもしれない。
世の中とは世知辛いものだ……
「なるほどそういうことでしたか。いくら恩を売った相手とはいえ、あまり待たせるのは申し訳ないですからね」
「あー早く行きすぎるのもダメってやつか。待ち合わせとは関係なくここ狩場として美味いから、気にしないでくれ」
「なら良かったです。それじゃあ行きましょうか」
そう言ってアーシェはどこかへと歩き始める。
確かこの前は遺跡に行くとか言ってたような気がするが……
遺跡なんてここにあったか?
数日砂漠を彷徨って狩りをしていたが、遺跡を見たことはない。
俺は気になってアーシェに尋ねる。
「そういえば遺跡ってどこにあるんだ?俺も結構ここは探索したけど、全然見たことがなくてさ」
「見たことがないのも当然です。遺跡はこの砂の下に埋もれていますから」
前を歩くアーシェはそう言って地面を指差す。
「街の図書館で本を読んでいたらここに旧時代の遺跡が埋まっているという情報を見つけまして。大変でしたよ……見つけるだけで数日かかりましたし、見つけてからも敵が強くて探索ができないんですから」
「そんな苦労して手に入れた情報を俺に教えていいのか?俺、闇陣営だぞ?」
わかりやすい位置にあるならまだしも、そんな隠しダンジョンみたいな場所を教えていいのか?
光陣営の誰かと行った方がいいんじゃないのか?
そんな疑問が口から漏れる。
「そうですね……私がミミックさんと出会ったのが、ちょうど遺跡で死んだ直後で。それで思ったんです。噂のあなたとなら遺跡にも行けるだろうし……面白そうだって」
そう言って笑うアーシェ。
なんというか、やっぱりゲームが好きなんだと、そう思った。
「面白そうなら仕方ないか。精一杯守らせてもらうよ……俺、弱いけど」
「プレイヤーキルで噂になったにしては頼りにならない人ですね」
「俺奇襲型だからなぁ……正直アーシェに囮になってもらわないと敵を倒せる気がしない」
「流石に私も囮くらいならやりますよ。見ているだけじゃつまらないですしね……さて、着きましたよ」
アーシェと話しながら砂漠を進み、何個目かの砂丘を越えたところでアーシェが立ち止まった。
少し遅れて俺も砂丘を乗り越え、下を見下ろす。
そこには巨大な蟻地獄が広がっていた。
「え、あそこ?マジで?」
何やらモンスターが蠢く姿も見える。
絶対ボスとかいるとこだって……
「はい、あそこです。動かなければ狙われないので」
アーシェはそう言って蟻地獄の中に踏み入り、底へと吸い込まれていく。
まあ、死んでも入口に戻されるだけ。
騙されたと思って行こうじゃないか。
俺は覚悟を決めて、蟻地獄へと身を投げた。
ずるずると底へ流されていく感覚。
流される先に何やら巨大なモンスターがいることを除けば、意外と悪くない体験だ。
そんなことを思いながら先を行くアーシェを眺めていると、巨大なモンスターの口へと吸い込まれていった。
ダメじゃね……?
逃げ出したくなるが動いたらダメらしいし、動いたとして抜け出せない。
俺も諦めてモンスターの口へと吸い込まれようとしたその直前。
地面が抜けた。
「うおおおお!?」
突如として体を襲う浮遊感。
俺は叫びと共に砂の底へと落下する。
どうやらモンスターの付近は底がないようで、モンスターが口をこちらに向けていなければ飲み込まれる直前に下に落ちることができる。
そう言う仕組みのようだった。
「ぐえっ」
砂がまるで砂時計のように降り積もる場所に頭……蓋から落下し、潰れたカエルのような声が漏れる。
どうやら、無事に遺跡まで辿り着けたようだった。
辺りを見渡すと、ところどころに光が走る黒い金属でできたビルのような建物が立ち並び、遠くには同じ素材でできた一際巨大な塔が聳え立っている。
そこは何もない砂の世界とは真逆の、近未来都市だった。
「どうですか、すごいでしょう?」
まるで自分のものを自慢するかのようにアーシェが笑う。
「ああ……すごい。探索のしがいがありそうだ」
そう言って俺もアーシェに笑い返す。
すごい、冒険してるって感じだ。




