18話:トーナメント開始
予選を突破してから二日が経ち、ついに本戦……トーナメント当日になった。
俺は見れていないが予選二日目も盛り上がったらしい。
というのも俺は本戦に向けた準備をしていて、試合を見る時間が作れなかったのだ。
本戦は予選とは違い1対1での戦い。
しかもフィールドは40m四方で、障害物は一切なし。
逃げることも隠れることもできない、完全な正面戦闘。
俺の戦闘能力はゴブリン程度、普通にやったら勝てるはずがない。
だから、昨日一日を使ってトーナメントを壊す準備をしてきた。
俺の勝ち筋は初見殺しの奇策一択。
真っ向勝負なんてクソ喰らえだ。
そんな気持ちを胸に会場へと向かうと、そこには既にトーナメント表が表示されていた。
対戦相手は……
「ランセル……うーん知らない人だ」
俺の名前の横に書かれていたのはランセルという名前。
おそらく二日目に参加したのだろう、全く聞いたことがない。
そんなことを思っていると、声がかけられる。
「あなたが対戦相手のミミックさんですか。よろしくお願いします」
振り向くとそこには全身鎧が握手を求めて手を差し伸べていた。
彼が対戦相手のランセルなのだろう。
「こちらこそよろしく。いい試合にしようぜ」
俺はそう言って彼の手を取る。
鎧を着込んでいるにしてはやけに手が軽い。
おそらくリビングアーマーだ。
リビングアーマー相手に気をつけておくこととかあったか?
……ないか?
◆ ◆ ◆
それからランセルと他愛無い雑談をしていたら、ついに試合が始まる時間がやってきた。
無骨なフィールドに向かい合った状態で転移させられる。
試合は時短のため何試合か同時に行われるようで、周りのフィールドにもプレイヤーがいるのが見える。
会場に広がる静寂。
それを打ち破るように、試合開始の言葉が響き渡った。
「第一試合……開始!」
その言葉が聞こえてきた瞬間、ランセルが剣を抜き、俺へと駆ける。
それに対して俺は……貪納を展開した。
古びた武器と防具に陶器……
ゴブリンチーフの根城から再度集めたガラクタたちが雨となって降り注ぐ。
逃げることができない?
隠れることができない?
ならそれができるようにフィールドを作り変えるまでだ!
「さあ、かくれんぼの時間だ!」
俺は積み上がったガラクタの影に隠れ、手頃なガラクタに擬態する。
後はランセルが隙を見せるのが先か、俺が見つかるのが先かの戦いだ。
おそらく俺がアイテムに擬態できることを知っているのだろう。
ランセルは積み上がったガラクタを大振りな一撃で攻撃していく。
周囲の警戒も怠っておらず、このままだとそのうち見つかってしまいそうだ。
なら、作戦その二だ。
俺はゴミに紛れてセットしておいたボウガンを発射する。
発射された矢はランセルには当たらず、その足元に突き刺さるが……
事前に糸を引けば撃てるようにしていたそれは、俺がいる方向とは真逆の方向へとランセルの意識を惹きつけることに成功した。
おそらくはこれで十分、だが念には念を。
ランセルが矢が飛んできたガラクタの山へと剣を振りかぶった瞬間に貪納を発動。
ランセルの頭に黒いもやが生まれ、視界を奪う。
たまらず腕を振ってもやを払ったその隙に、俺はガラクタから飛び出して距離を詰める。
「《影呑》」
俺の影から立ち上がった闇が、ランセルを覆い、喰らい尽くした。
「っし!!」
考えていたことが、全て完璧にハマった。
これだからミミックはやめられないんだ。
全くもってミミックらしくは無いけど。
そんな満足感に包まれていた俺は、次の瞬間後ろから刺し貫かれた。
「ごめんなさいミミックさん。僕、殺しても死なないんですよ」
体を貫かれたまま後ろを見ると、先ほど確かに影呑で食べたはずのランセルが、そこに立っていた。
「なんだよそれ……」
「そうですね……ガラクタを活用できるのはミミックさんだけではない、と言ったところでしょうか」
ランセルはそう言って、未だ疑問がなくならない俺へと剣を振る。
その攻撃で俺のHPは0になり、ランセルの勝利を告げるファンファーレが鳴り響いた。
……勝ったらファンファーレが鳴る。
覚えておこう。
◆ ◆ ◆
「それにしても、ほんとになんで負けたんだ……?」
試合で負けた後、俺は観戦席で唸っていた。
俺の影呑は確実にランセルを喰らった。
即死無効のようなスキルを持っていた?
いや、それだと後ろから現れたことに説明がつかない。
「……そうか幻覚か!」
「いや違いますよー?」
俺の完璧な推論は、どこかで聞いたことがある声に否定される。
隣を見ると巨大な眼球、アイちゃんがそこにいた。
「また会いましたね、変態ストーカーさん!」
「いや違うって……」
口では変態ストーカーと言いながら、ニコニコとこちらを見つめるアイちゃん。
間違いなく揶揄われている。
「というか幻覚じゃ無いならなんで死ななかったんだ?」
「知りたいですか?どーしてもって言うなら教えてあげてもいいですよ!」
「どーしても知りたいから教えてくださいアイちゃん様ー」
適当にテンションを合わせて影の手でゴマをする俺を見て、アイちゃんは満足そうに頷いた。
「そこまで言うなら仕方ありませんねー。あのランセルさんは!なんと!ポルターガイストなんです!」
「ポルターガイスト?」
ポルターガイストといえば家具を動かして驚かせたりするやつ……
「そうか、あの鎧は本体じゃなかったのか」
「そう言うことです!」
「ってことはガラクタを活用ってのは、ランセルの本体もガラクタに潜んでたってことか……まじかぁ」
手玉に取られていたのは俺の方だった、と。
悔しいが、完敗だったな……
「ストーカーさんも頑張ってましたけど、相手が悪かったですねー」
そう言って笑うアイちゃん。
だからストーカーじゃ無いんだっての。
それから俺は、アイちゃんと一緒にトーナメント初日を観戦した。
おもちゃの軍団を操るオルゴールとそれを範囲魔法で焼き尽くすスケルトン。
空を舞う天馬とハーピーの空中戦。
脳筋戦士同士の真っ向からの殴り合い……
もう見るだけで楽しかった。
なんなら勝ってたら見れなかった試合もあると思うと、負けて良かったと言ってもいいかもしれない。
ちなみにアイちゃんは高度を確保する前に脳筋戦士に殴り倒され、初戦で敗北していた。
どんまい。




