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1話:ミミック誕生

黒く染まっていた視界が徐々に明るくなっていく。

目を開くとそこは、薄暗い洞窟の中だった。

壁には光る苔のようなものが生えており、これのおかげで最低限の視界は確保できている。


うーん、まさに異世界!


「それにしても視点が低いな。まあ見た目は完全に宝箱だし、こんなものか」


大体座った時よりも少し低いくらいだろうか。

この視線で人間ぐらいのモンスターと遭遇したら相当怖い。


「さて、散歩でもしてみるか。せっかくの変な体、まずは動いてみないとな!」


そう言って移動しようとすると、体がガタガタと動き出す。

というか動くたびにガタガタと音が鳴る。

かなりうるさい。


……まあミミックってあまり動かないだろうから、いいか。

いや、こんなのだからミミックはあまり動かないのか?


それとミミックの体を動かすのはもちろん初めてのことなのだが、何故か普通に動かせている。

最近のゲームはすごい!


「とりあえず操作に問題はなさそうだな。それじゃあ次はスキルの動作確認でもするか」


ミミックのスキルは二つだけ。

さすが初期種族、しょぼい。

一つ目が《影呑(えいどん)》。

簡単にいうと一撃必殺の奇襲ができるスキルで、相手が至近距離にいる状態で、こちらに気づいていなければ"飲み込める"。

闇の神が言うには、理論上最高火力のスキルの一つらしい。

勝ったな。


「条件は厳しいけど、即死技はロマンだからなぁ。でかいドラゴンとか逆に食べ放題説あるし」


ちなみに使用時にスキル名を言う必要はないので、それで気づかれる心配はない。

試しに使ってみたが、ターゲットがいないと発動できないらしい。残念。


気を取り直して二つ目は《貪納(どんのう)》。

重量と保有数が無制限のアイテムボックスといった感じ。

倉庫代がタダでドロップアイテムも拾い放題!

うーん、最強だ。


「こっちは……使えるな」


《貪納》を使ってみると、目の前に黒いもやが現れる。

宝箱から手?を出してもやに入れると、手がするりと吸い込まれる。

試しにその辺に落ちていた石を入れると、石×1という表示が現れた。


ボタン操作もできるし、イメージ操作も可能。

上手く使えばヤバいことができそうだ。


ついでに闇陣営は普通のモンスターに敵対されない共通スキルも持っている。

仲間意識を持たせるとかそんな感じの効果らしい。

一度攻撃をしたら効果が切れるので一方的に殴れないのは残念だが。


「スキル確認も終わったし……次は狩りだ!食事だ!戦闘だ!!」


といってもステータスがあまりにも貧弱だから、《影呑》を使ってミミックらしく待ち伏せ狩りをするしかないんだけどさ。

そこまで考えてふとあることに気づく。


「ってこれ陣営スキルONにしてたら、俺がモンスターってバレるから敵が寄ってこないじゃん。危ねっ」


慌てて陣営スキル《闇の加護》をオフにする。

そして散歩がてら見つけたいい感じの行き止まりで待ち伏せ開始。


待つこと2分、ついにモンスターが姿を現した。

緑の肌、尖った耳、ついでに背が低い。

うん、ゴブリンだな。


さあ、おいで……

不味そうな見た目でも美味しく食べてあげるから……


そんな祈りが通じたのか、ゴブリンは通路の先にある宝箱()を見つけると、小躍りをして近づいてくる。

この世界でミミックはマイナーな魔物なのか、それともゴブリンの知能が低いのか。

どちらかはわからないが、ゴブリンは警戒した様子もなく宝箱を開き……


「グギャッ」


悲鳴だけを残して《影呑》に吸い込まれていった。

その直後、経験値が体に流れ込んだ。


「よっしゃ完全勝利っ!ゴブリンうまいっ!」


こうして俺は初めての戦闘……いや、捕食を終えたのだった。


「それにしても、待ち伏せって効率悪いよなぁ。このペースだとダンジョンクリアなんて何時間後になるんだか」


ダンジョンをクリアすると街に行けるようになるらしいので、できるだけ早くダンジョンはクリアしておきたい。

そう考えた俺は次の獲物を求め、ダンジョンを彷徨い始める。


そして曲がり角を曲がった瞬間、俺のガタガタ音に気が付いたのか緑色の影がこちらに向かってきているのが目に入った。

棍棒を手に持つゴブリンは、明らかに俺を敵として認識していた。


「あ、やば」


次の瞬間、ゴブリンの棍棒が振り下ろされた。

木と木がぶつかる鈍い音が鳴り響き、宝箱の蓋が割れ、木片が宙を舞う。

視界の端のHPバーが一気に減り、赤く染まった。


「一発でこれかよ!お前ゴブリンだよな!?」


残りHPは2割。

慌てて後ろに跳び、ガタガタと距離を取る。

思ったよりも致命的だな、この音は。


さて、気づかれてしまった以上《影呑》は使えない。

残された攻撃手段は、リーチの短い噛みつきと、貧弱な腕でのパンチぐらいか。

まともなダメージは期待できない。

逃げようにも、俺のガタガタ歩きよりゴブリンの方が速いのは明らか。


「あれ……これ詰んでね?」


藁にもすがる思いで蓋をパカパカさせて威嚇してみるも、ゴブリンは意に介さず距離を詰めてくる。

再度振り下ろされた棍棒を今度はギリギリで避け、反撃しようと前に飛び込む。


が、宝箱の体では遅すぎた。

ゴブリンの追撃が宙に浮いていた俺を捉え、残っていたHPが消え去る。

俺は、ゴブリンにかすり傷すらつけられずに死んだ。


ゴブリンは俺の死体を漁り、唯一見つかった石をつまらなそうに投げるとその場から去っていった。

くっそあいつ俺の石を……

というか俺のドロップアイテム石?

しょぼくね?


「いや、流石に無理ゲーだった。今は真っ向勝負は諦めて、大人しく待ち伏せするしかないか」


俺はそう呟いてリスポーンを選択する。

すぐにでもリベンジしたい気持ちもなくはないが、別に俺は低レベル縛りをしているわけではない。

レベルを上げてゴブリンにリベンジするため、再び待ち伏せを始めるのだった。

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