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10話:砂上のミミック

借金生活2日目。

本日の予定は……"レアドロップで一攫千金"だっ!!


昨日から何も学んでいないって?

実はそんなことはない。


今日やってきたのは闇陣営に広がる広大な砂漠型フィールド『黄金砂漠』。

このフィールドに出てくるモンスターは、総じて高値で売れるアイテムを落とす。

そして、それとは別にレアドロップも。


つまり、モンスターを倒して稼ぎつつ、レアドロップも狙える……

堅実かつ大胆に借金を返せるってことだ!


「ここを教えてくれたエルミナさんに感謝しないとな」


そう言って砂漠の入り口へと踏み入ったその瞬間。


「あっつ……」


凄まじい気温が俺に襲いかかる。

1時間もいれば干上がってしまいそうだ。

いや、俺ミミックだから水は必要ないんだけど。


気温と戦いつつ小さな砂丘を越えると、目の前には地平線の彼方まで広がる砂漠が。

砂がキラキラと光を反射し輝くその光景は、まさに黄金砂漠。

現実にあったら観光スポットになっていること間違いなしだ。


それにしても……


「隠れる場所が全くないな」


どこを見ても、砂、砂、砂。

時折モンスターはいるが、人工物は欠片も存在していない。


そんな中ポツンと置かれる宝箱を想像してみる。

明らかに罠だ。


「ま、モンスター相手だし大丈夫だろ。ここにいるのは動物型で知能も低そうだし……」


それがフラグだった。

近くで砂に紛れていたトカゲ……サンドリザードが俺に向かって全力疾走。


「え、ちょっ」


完全に油断していた俺は、回避行動を取ることすらできず体当たりを受け、砂にめり込む。

そして俺に馬乗りになったサンドリザードは、短い手で俺を殴り壊す。


俺のHPがなくなったことで満足したようで、サンドリザードはのしのしとどこかへ去っていった。


動物の本能か何かなのだろう。

完全に怪しいから殴っとけ枠だと思われている。

確かに正解なんだけども、辛い。


「でもなぁ……倒せたら稼げるはずなんだよなぁ……」


金を求めて再度挑戦するも、再びサンドリザードに見つかり同じように死亡。

それから何度か挑戦してみるものの、結果は振るわない。


トカゲに小突かれ。

サソリに刺され。

ワームに飲まれ。


一体もモンスターを倒せないまま、死亡回数だけが増えていく。

砂漠という地形のせいで、俺は完全に攻撃するべき異物だと認識されていた。


「金が……金が俺を拒絶している……!」


ただ単に宝箱は砂漠に馴染まない。

それだけのことが、今の俺には致命的だった。


「なんとか隠れられればいいんだけどな……」


無謀な突撃を繰り返しても死ぬだけだと悟った俺は、何をするでもなく砂漠を眺めながら考える。


砂漠には遮蔽物がない。

だから隠れられない。

だから、攻撃される。


「それなら無理矢理にでも隠れればいいんじゃね?」


試しに貪納で砂を吸い込んでみる。

穴ができた。


穴ができたなら、入れる。

隠れ場所の完成だ。


「うぉおおお!!動けないけど!!きた!隠れてる!!!」


穴を掘っただけで感激だ。

完全にヤバい奴だが、まあ今更だろう。

そしてここで、さらなるひらめきが舞い降りる。


「俺を埋めれば良くね?」


穴を少し深くして完全に砂に埋まった後、貪納から砂を出して自分を覆い隠す。

完璧な擬態の完成だ。


外の様子が全く見えないのが弱点だが……

敵が近くに来たことさえわかれば、敵が俺の上を通ったことさえわかれば、影呑が発動できる。

いくら砂に覆われてるとはいえ、踏まれたかどうかは流石にわかる。

ちょっと……いやかなり暑いことを除けば完璧な作戦だ。


実際、この作戦は完璧だった。

サンドリザードも、デザートスコーピオンも。

この作戦に敗れ、影呑の餌食となった。


ワームに関しては、俺より下を移動しているようで引っ掛からなかったが。

まあ、食べられなかったのだからいいだろう。


こうして俺は、"場違いな存在"から"見えない捕食者"へと進化した。


◆ ◆ ◆


砂の中からの狩りは、あまりにも楽しかった。

今まで反撃すらできなかった相手を一方的に喰らい尽くせる。

砂漠に来てから溜め続けてきた鬱憤を晴らすかのように、俺は次々にモンスターたちを砂の底へと引き摺り込んでいった。


だが……


「たまたま、だよな」


もし俺が埋まったのが砂漠じゃなかったら。

例えば、草原なら。

地面を掘り返した跡がはっきりと残り、モンスターは近づいてこなかっただろう。


今日は砂という埋まりやすい地形だったから。

昨日は城という宝箱があってもおかしくない場所だったから。


俺が今まで戦えていたのは、たまたまだ。


毎回うまく擬態方法を思いつけるなんてことはない。

隠れる術を失った瞬間、俺はただの的になる。


森でも砂漠でも、海の中だって。

それがどんな場所であろうと、その場に紛れられる。

そんなどこにでもあるような"何か"になれたら。


ふと、そう思った。

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