9話:古城再び
今回区切りいいところまで書きたかったので、少し長いです。
さあ、始まりました借金返済生活1日目。
本日の予定は……
レアドロップで一発逆転狙いっ!!!
クエストでちまちま稼いでても返済は終わらない。
だから、ここは運頼りでも勝負に出るべきだ。
このままだと家具として売られてしまう可能性だってあるのだから。
ということでやってきたのは、昨日と同じく『境界の古城』。
まあ、ここ以外で宝箱がある場所を知らないってだけなんだが。
俺が古城へと踏み入ると、遠くからプレイヤーの声が聞こえてくる。
せっかくなので物陰に隠れ、話を盗み聞きしてみることにした。
「あーまたハズレだ。ほんとにレアアイテム入ってるのか?」
「動画で見たから間違いないって。一撃3000ゴールドだぜ?」
3000ゴールド……
レア引いても半分かぁ。
いや、流石に一個で完済は高望みしすぎか。
価値的には俺1/2のアイテムってことだもんな。
「あ、けど気をつけろよ。ここ罠もあるし……ミミックも出るらしいんだ」
唐突にミミックの名前が飛び出した。
二人の会話を聞き逃さないよう、耳を澄ます。
「ミミック?厄介そうだな。対策とかあるのか?」
「見た目は普通の宝箱、探知には引っかからない、開けたら即死、HPは低いけど足が速くて追いつけない。それでも追うとまた即死。出会ったら終わりだな」
うん、完全に俺のことだ。
多分昨日の3人組が噂を広めたんだろう。
あとなんか、めっちゃ強そうに聞こえる。
実際は一歩間違えば即死だけど、ちょっと嬉しい。
「……お前俺のこと人柱にしたな?」
「バレたか。まー目撃情報は少ないから大丈夫だって。逃げれば許してくれるらしいし」
「そっかそっか……じゃねえよ!それ逃げれるのお前だけだろうがよ!」
「バレたか」
話が他愛もない雑談へと変化していく。
こっちに来る様子もないし、これ以上ここにいる意味はなさそうだ。
「それじゃ、俺も宝箱を探すとしますか」
俺は物陰から抜け出し、廊下をするすると進んでいく。
やっぱり音が鳴らないのは、最高だ。
それからしばらくして、前方を歩いているリビングアーマーを発見した。
これまでは宝箱に偽装して、前を通った時に飲み込んでいた相手。
だが、足音が鳴らなくなった今なら、後ろから近づけば待ち伏せしなくても倒せるんじゃないか?
ふと生まれたそんな思いに従い、俺はゆっくりとリビングアーマーに近づいていく。
音は出ない。
やはり、気づかれない。
何事もなく足元まで辿り着く。
ならば後は、飲むだけだ。
《影呑》
いつものように、闇が目の前の鎧を飲み込んで、消える。
成功だ。
これで高低差がなくても奇襲ができる。
改めて浮遊のありがたさが身に染みる。
借金をした価値のある、大きな成長だった。
◆ ◆ ◆
それから苦節10分ほど、ついに俺は宝箱を発見した。
ということで、いざ勝負っ!!
「闇の神様……光の神様……どうかいいもの出してくださいっ!」
闇の神と光の神に祈りを捧げ、箱を開ける。
箱の中に入っていたのは……毒々しい緑色の煙、毒ガスだった。
「げっ」
煙が凄まじい速度で充満し、部屋を満たす。
思わず、煙を吸ってしまった。
俺はやってくるであろう痛みに身構えるが……何も起きない。
HPを確認するが、全く減っていない。
ミミックが無機物型モンスターなのが幸いしたのか、毒は俺には効かないようだった。
ラッキー。
「それじゃ改めて、箱の中身はなんじゃろなっと」
毒が薄れてきた箱の中を覗く。
そこに入っていたのは、鉄塊。
もちろんハズレ。
「うーん残念。次だ次」
そして俺は再び次の宝箱を求め、部屋の外へと移動する。すると、奥の方から複数の足音がこちらへ近づいてきていた。
二人、いや三人か。
どちらにせよ、宝箱を狙ったパーティーだろう。
それならこの隠密性能、見せつけてやろうじゃないか。
俺は部屋に戻ると置いてあった宝箱を飲み込み、自分がその宝箱があった位置に収まる。
そしてわざと蓋を開け、他のプレイヤーが漁った宝箱であるかのように見せかける。
「あ、宝箱……もう、開けられてるか」
そう言って部屋に入ってきたのは、斧と盾を持った戦士、ローブを着たおそらく魔法使い、短剣を持った盗賊の3人組。
残念そうな顔をして、すぐに部屋を出ていった。
そして俺も、その後ろに続く。
「それにしてもレア出ないなぁ。同じこと考えてる奴多いからさっきみたく開けられてるのもあるし」
「だな。美味い話はないってことか」
戦士と盗賊は二人で話をしており、その後ろにいる魔法使いは話に入っていない。
いいカモだ。
俺はそっと魔法使いに近づき……
《影呑》
足元から影が伸び、音もなく魔法使いを飲み込む。
前の二人は仲間が死んだことに気づいていない。
まとめて飲み込んでしまいたいが、クールタイムがあるので一度部屋に戻り隠れる。
流石の影呑も万能ではないのだ。
「なあ、お前もそう思うだろ……ってあれ?あいつどこいった?」
「あいつならずっと後ろに……いないな。おーい!どこにいるんだ!?」
再び影呑が使えるようになるまで10秒。
二人はいなくなった魔法使いを探して俺が隠れる部屋まで戻ってくるが、もちろん魔法使いはいない。
「どこにもいないな……なにかリアルであってログアウトしたとか?」
「それならキャラは残るだろ。落とし穴に落ちたとかじゃないか?」
二人が部屋を出ていくところで、ちょうどクールダウンが終わった。
盗賊に続いて部屋を出ようとした戦士を、飲み込む。
これで、二人。
「……は?いない?おいおいおいおい、何が起きてるってんだ!?」
盗賊が部屋から戦士が出てこないことに気づき、軽くパニックを起こす。
辺りを執拗に見渡し、元凶を探すが、怪しいものは見当たらない。
当たり前だ。
今の俺は、盗賊の背後に張り付いている。
首を回すだけでは、俺を見つけることはできない。
そこで、盗賊があることに気がついた。
「部屋にあった宝箱が……ない?まさかミミっ」
「大正解」
俺の存在に気付いたようだが、もうクールダウンは終わっている。
俺の言葉と共に闇が盗賊を襲い、喰らい尽くす。
これで、三人。
「ご馳走様でした」
ドロップはなし。
楽しかったからいいんだけど、しょぼい。
「宝箱探し再開だな」
そんなことを呟いて歩き出したところで、また、足音が聞こえてくる。
俺は本能的に廊下の隅へと移動し、宝箱に偽装する。
「光の神よ、我が祈りに応え、その聖なる力で我らを守りたまえ《プロテクション》!」
姿が見えるよりも先に、詠唱が聞こえた。
何かモンスターと戦っているのだろう。
そう思った次の瞬間、俺を光の壁が囲んだ。
「ふっふっふっ……これで逃げられないね!」
勝ち誇った声と共に姿を現したのは、昨日俺が倒した三人組だった。
「どうして、気付いた?」
完全に逃げ場を失った俺は、そう問いかける。
こいつらは一度も俺の姿を見ていない。
気づかれる要素はなかったはずだ。
「さっきの声で、お前が近くにいると確信した。そしてお前がこっちに向かってきたから、足音を出して隠れるように誘導させてもらった」
弓使いが油断なく弓を構えながらそう答える。
確かにあの盗賊の叫びを聞けば、俺が近くにいるとわかるだろう。
「周りが見えてなかったのは、俺の方だったってことか」
彼らは昨日俺に負けてから、相当策を練ってきたのだろう。
打開策は見つけられない。
「昨日の恨み、晴らさせてもらうぜっ!!」
槍使いが光の檻ごと俺を串刺しにし、弓使いの矢が追い打ちをかける。
「今回は俺の負けだ。けど、次は負けない」
そう言った直後、HPが消し飛び、視界が赤く染まる。
完璧な敗北だった。
悔しいが、次は負けない……いや、勝つ。
「……もう一潜り行きますか!」
そう言って気合いを入れ直し、俺は再び古城の入り口にリスポーンした。
◆ ◆ ◆
「で、これが今日の成果ってか」
結果として、その日の成果は散々だった。
いくつか宝箱を見つけたが、ほぼ全てハズレ。
具体的には、錆びた剣、空箱、そこそこ綺麗な杖、石ころ、空箱。
後はモンスターから落ちた魔石がいくつか。
もしかしたら何かに使えるかもと、とりあえずドルガルの元へと持ってきていた。
「この杖はそこそこ使えるやつだが、他はゴミだな。よし、借金400ゴールド減らしてやる」
「……明日からは真面目に働きます」
「おう、借金は逃げねえからよ。ゆっくりやれや」
「借金、逃げてくれないかなぁ……」
こうして、俺の借金返済生活1日目は幕を閉じた。




