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8話:木霊工房

プレイヤーとの戦闘の後、俺はモンスター20体討伐を終え、街へと戻ってきていた。


どうでもいいことだが、討伐数はモンスターを倒すと確定でドロップする魔石で数えているようだ。

そして今まで気づいていなかったが、影呑で倒したモンスターのドロップアイテムは自動で貪納に入る仕組みだった。

俺のスキルは、どこまでも有能だ。


「さて、どうするかなぁ。またクエストってのも味気ないし……」


「それなら何か装備を買ってみるのはいかがですか?」


突然後ろから柔らかい声がした。

いつの間にかダークエルフさんが俺の後ろに立っていた。


「うわっ!驚かさないでくださいよ」


「すみません、驚かすつもりはなかったのですが。休憩がてら散歩をしていたら、ちょうどミミックさんの話が聞こえてきて。そう言えばミミックさんは装備をつけていないな、と」


RPGといえば装備、当然の話だ。

だが、


「ミミックって何か装備できるんですか?」


武器を持っても使いこなせないだろうし、防具は考えるまでもない。

そう思っていると、ダークエルフさんから驚きの一言が飛び出す。


「確かに一般的な装備は難しいと思います。ただ、ミミックさんの装備を作れる場所に心当たりが」


「それは気になります。ぜひ教えてください!」


ミミックの装備……

箱に牙が付いたりするのだろうか?


「あの道を左に行ったところにある『木霊工房』という店です。普段装備は作っていないのですが、私……エルミナの紹介だと言えばきっと作ってくれるはずです」


「それは……ありがとうございます。何か俺にできることがあったらなんでも言ってください」


「それなら、大量持ち込みをやめていただければ」


「それはもう言われるまでもなく……」


俺の返事を聞いてエルミナさんが笑う。

なんというか、こういうのもいいな。


それからしばらくエルミナさんと話した後、俺は早速木霊工房へと向かった。

通りをしばらく左に歩いていくと、木霊工房の看板が目に入る。

そこはどうやら、家具屋のようだった。


「家具屋……?確かに箱は家具屋ってのはわかるけど……家具屋で装備……?」


思ってもいなかった現実を突きつけられたが、せっかく紹介してもらえたのだ、入らないという選択肢はない。


「お邪魔しまぁす」


扉を開き、そろりと中に入る。

そこには机や椅子、タンスにベッドなど様々な家具が所狭しと並べられていた。


「よく来たな、俺は店主のドルガルだ。さて、どんな家具をお探しだ?」


そう言って店主だというドワーフ、ドルガルさんが店の奥からやってきた。

……ドワーフ?

光陣営だったよな?


「なんでドワーフがここにって顔だな。ここはあっちより刺激が多いからよ。ここにいりゃ創作のアイデアがどんどん湧いてくる。スパイじゃねえから安心しな」


心を読まれた!?


「別に心が読めるわけじゃねえぞ?俺を見て固まる奴らがみんな同じこと言ってたってだけだ」


やっぱり心が読まれている。


「で、どんな家具を買いに来たんだ?」


「実は家具を買いに来たわけではなく……ダークエルフのエルミナさんからここで俺の装備を作ってくれるかもと紹介していただきまして」


「何、エルミナが?よしわかったついて来い!木霊工房の名にかけて、お前を"最高の家具"にしてやる!」


最高の家具かぁ……

なんだろう、嫌な予感がする。


俺はドルガルさんに続いて工房の奥へと入っていく。


「そんじゃまずは要望を聞かせてくれ。どんな機能が欲しい?」


「そうですね……一番は動くとガタガタうるさいので音を軽減できると嬉しいです」


「使用時の騒音軽減だな。ああ、堅苦しいのは嫌いだからよ。普通に話してくれ。んで、他には?」


ドルガルは俺の蓋や蝶番なんかの様子を確かめながらそう言う。


「じゃあ、遠慮なく。俺、宝箱に偽装して敵を倒すタイプなんで、見た目は今と同じような、よくある宝箱っぽい感じで。後はできれば足速くしたり、硬くしたりできたら最高ですね」


「見た目は変えずに軽量化して強度を上げると。これだけか?」


「……うーん、今の所はそれぐらいで」


少し考えるが、それ以外の何かは思いつかない。


「よしわかった。そんじゃ早速、加工に入るか」


「か、加工……?」


やっぱり、嫌な予感がする。


「ああ、そうだ。今からお前をガッツリ加工して"最高の家具"にしてやる。ちっと痛ぇかもしれねえが……ま、我慢してくれや」


そう言ってドルガルがノミとハンマーを手に取り、じわりと俺に近づいてくる。

嫌な予感が現実になった。

店内の灯りを反射し、ノミの刃がギラリと光る。


「う、うわぁぁぁああああ!!!」


店内に俺の叫びが響きわたった。


◆ ◆ ◆


「よし、いい出来だ」


満足げな表情を浮かべたドルガルが額の汗を拭う。


「ぐすん、あたし、もうお嫁にいけない」


あれから数十分間、俺はあんなとこやそんなとこまで、体全体をくまなく加工された。

このセリフはまあ、お約束である。


「いや、お前は男だろうがよ」


どうやらこれは異世界でも通じるらしい。


「んで、具合はどうよ?違和感あるなら調整するからよ」


ドルガルがニヤリと笑う。


それじゃあここで、俺の変化を確認してみよう。

一つ!

パーツが全部新品になった。

いわば新築ミミック。

完全にテセウスの船状態だが、元の俺は廃材になったので俺が分裂する事態は避けられている。

危ないところだった。


二つ!

"浮遊"の魔術が刻まれた。

原理はよくわからないが、特別な材料を使って文字を刻むと、その文字に対応した効果が得られるらしい。

ということで今の俺は、地面スレスレを浮いていて、すっと滑るように移動する。

なんと、無音だ。


装備かと言われると微妙なところではあるが……

問題はないな。


「最高です!ありがとうございました!」


「そうか、ならよかった。そんじゃ材料費と加工料……合わせて一万二千ってとこだが、エルミナの紹介だからな。キリよく一万ゴールドに負けてやる」


……一万?


慌てて貪納を確認する。

俺の全財産は、4620ゴールド。

割り引いてもらってなお、半分も払えない。

クエスト1回で90ゴールドだから、これだけあればしばらくお金には困らないだろう。

そんな油断が仇になった。


「……あの、非常に申し上げにくいのですが……全財産が4620ゴールドしかなく……」


これには流石のドルガルも驚いたようだった。


「……そうか。いや、予算を確認しなかった俺も悪いからな。後で残りを払ってくれりゃいい」


そう言ってため息を吐くドルガル。


「すみませんほんと……」


こうして俺はゲーム開始二日目にして、5380ゴールドもの借金を抱えることになった。

クエスト換算にして、なんと60回分である。

……どうしよう、これ。

なお、値段の半分以上がパーツ部分の材料費な模様。

防御力がそこそこ上がっていますが、元が貧弱なので……

猫に小判、豚に真珠というやつですね。

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― 新着の感想 ―
今更だけど、このゲームプレイヤーネームないのでしょうか? って書いたけど、光陣営の人(やばい人)はありましたね。 NPCから「ミミックさん」と呼ばれていることに違和感があります。 後、クエストの報酬…
そりゃこの新しくなったニューミミックのボディで稼いで返すしかねぇよ
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