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花繚(かりょう)の動乱  作者: 橋本ちかげ
第2章 浅井市
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かりょーのどうなん?⑤斎藤家と龍興

 さて、花繚の動乱でもう一つのテーマと言っていいのが、この美濃斎藤家の話です。


 その発祥は何と言っても、司馬遼太郎の『国盗り物語』で一躍名を挙げた『美濃の蝮』こと斎藤山城守道三さいとうやましろのかみどうさん。関東に後北条家を興した北条早雲(伊勢宗瑞)と並んで、下剋上戦国大名の代表格、天下布武の織田信長に先立ついわば「第一世代」として描かれることの多い英雄です。


 その生まれは定かではなく、元は「京において賤しき傘張り(職人)にありける人」(洞堂軍記)又は、「山崎の油商の子」(老人雑話)、さらに現在では道三は親子二代だった(新左衛門尉と左近太夫)など入り乱れ、謎めいたところが多いです。


 しかしいずれにせよ、信長の時代には元の国主であった土岐頼芸(ときよりよし)を追放し、守護代斎藤家の宗主として美濃を支配していた人物には、間違いはありません。


 ただしその手段は強引であり、道三は常に敵に囲まれていたと言ってもよく、『毒蝮』の所以は、圧政独裁によって美濃を封じていたから、と言っていいと思います。例えば『花繚の動乱』本編でも、稲葉山城に「人を煮殺すための釜」があったと言う逸話を紹介しましたが、あれは反抗的な領民を震え上がらせるための見せしめでした。つまり逆に言えば領民から年貢ひとつ取り上げるのにもこれだけの苦労をしたと言うことで、道三の一代、美濃は危うく一国の体を保っているような状態だったと言えます。


 道三の戦国大名としての人生を総じてみるとやはり、「血筋との戦い」に明け暮れたとしか言いようがありません。確かに道三は巧みな謀略をもって、国主の追放に成功しましたが、土岐頼芸は縁戚である越前朝倉家の武力を借りてたびたび、領土を取り返そうと攻撃してきましたし、美濃の東では同じ新興国である津島の織田家(信長の父、信秀)が国境を侵してきました。さらには嫡男、義龍との折り合いが悪く、道三はあえなく長良川に敗れると言う最期を遂げます。この義龍が実は、土岐頼芸の子であったと言う説を採用するならば、道三は「血筋との戦い」に敗れたとも言えるでしょう。


 ちなみに系譜上の父親を殺して次代を襲った義龍の時代の方が、美濃の領国経営は安定していきます。いわゆる道三一代で行われた『下剋上』を否定することで領国を固めた義龍の手腕は確かでした。その証拠に、義龍が国主である間、織田信長は何度も敗退を重ね、ついに美濃を獲ることが出来なかったのです。


 しかしその義龍も永禄四年(一五六一年)の五月十一日に三十五歳の若さで病没します。義龍は身の丈、六尺五寸(約一九五センチ)の巨体の持ち主と言われていますが、奇病にかかったと言われています。


 後を継いだのは、嫡男の龍興(たつおき)でしたが、これがまだ若干、十四歳と言う少年だったのです。美濃斎藤家の凋落は、ここから始まっていきます。


 この斎藤龍興、稲葉山城をかの天才軍師、竹中半兵衛のクーデターで乗っ取られるなど不甲斐ない逸話が多く、どうにも暗君のイメージがつきまといますが、さすがにそこまでではないと思います。


 よく考えてみれば織田信長は、龍興の代になっても美濃を獲るのにさらに六年もの歳月をかけており、突然、義龍から受け継ぐこととなった斎藤家をよく取りまとめてはいました。信長によって国を追放されたときに、ようやく二十歳です。十代で信長とこれだけ張り合えたと考えれば、それなりに善戦した方ではないでしょうか。


 しかも美濃を追われて以降も、龍興は、国主への返り咲きを諦めません。浪々の身となっても義龍は三好三人衆や本願寺一向宗に加担し、たびたび信長を陥れる謀略を企てていきます。その暗躍ぶりはこのあと取り上げる姉川の戦いに至るまでに形成される『第一次信長包囲網』にも、ひと役買っているのではないか、と考えられるほどです。年齢はお市と変わりませんが、これから描かれることになる『近江情勢』の黒幕の一人としての存在感は侮れるものではないと思います。


 それにしても祖父、道三と違い、近江武家貴族の名家の血を受け継ぐプライドを持ちながらも、浪々の身として道三のような野望をもって信長を倒す地下活動を展開する…龍興と言う人物の中では斎藤家のこれまでの経緯が入り乱れているとも言えます。


 そんな龍興の祖父を思う胸中は、いったいどんなものだったのでしょう。お市を脅かす悪役ながらも、複雑な人生を生きる龍興。そんな生き様もまた、本編で浮き彫りにしていきたいと思います。





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