第三十二話
ライナのメンバーはスタジオでの収録がひと区切りつくと休憩に入っていた。
「なあ、最近どうなんだよシュウ〜? もう一カ月だろ? 可奈ちゃんと暮らしはじめて」
シンは前から気になっていた事を思い出すと、隣で休んでいたシュウヤに話しかけた。
「ん? ああ、楽しくやってるよ」
「そんなのお前の顔見てればすぐ分かるわ!」
「そうか?」
「はは、そうそう! 楽しくて仕方がないって感じでさ! 帰るのも早くなったしね!」
ベースのアキが笑いながら話に加わった。
「そりゃあんなに可愛い娘がいたらそうなるだろ」
「シュウヤったら可奈と自宅のスタジオに篭って仲良く音楽を楽しんでるのよ」
真面目に答えるシュウヤに今度は椎名が参戦した。
「へぇ〜 いいなぁ! 可奈ちゃん何か楽器ができるのか?」
シンは興味津々に身を乗り出すと、シュウヤに再び質問をぶつける。
「いや、歌うのが好きみたいで俺が教えてるんだよ。そしたら歌詞の書き方とか作曲まで教えてって言ってきてよ」
「ほんとに楽しくやってるな……」
話を聞いていたドラムのユウキは嬉しそうに話すシュウヤを羨ましそうに見ている。
「アイツは凄い子だよ、料理はうまいし、家事は手際がいいときた。可愛いくてしょうがない」
「はやくも親バカ発動か? コイツ!」
シンはシュウヤが憎たらしくなりシュウヤの腕を肘で小突いた。
「あの容姿だからな。こりゃ芸能事務所のスカウトが群がりそうだな」
「現に幾つかの事務所に声をかけられたみたい。この前私に相談してきたのよ」
ユウキの懸念に対して椎名がそれに答えた。それを聞いたアキはシュウヤがどう思っているのか興味をそそられると質問を始めた。
「シュウヤはどうなの? 可奈ちゃんが芸能界にいきたいって言ったら」
「本人はいかないって言ってたな。今は友達と遊んだり音楽が楽しいからって」
「実際可奈ちゃんて歌上手いの?」
「まだ荒削りだけど守屋からの評価は良かったな」
「それってあの守屋さん⁉︎ なんで⁉︎」
「アイツとは仲がいいからな、俺が忙しい時に代理で教えてもらってんだよ」
「な、なんていう贅沢な使い方……あの人、常に引っ張りだこで多忙なんじゃなかったっけ?」
「可奈ちゃんの為になんでもしそうな勢いだな……」
呆れるアキに周りのメンバーも唖然としていた。
「でも、あの守屋さんに認められるなんて凄いね!」
「確かにな。まだ素人なんだろ?」
「まあ技術的にはまだまだって前提だからな。あとは本人のやる気次第ってところだ」
「こりゃ将来が楽しみだな! 真帆の子供とライブできたら最高じゃないか?」
「いいね!」
「はいはい、悪ノリはそこまでよ。休憩終わり!」
「そういや恵は毎日シュウヤの所に行ってんだって?」
「そうよ? だって可奈が毎日会いたいって言うんだもん! そんな事を言われたら喜んで会いに行くわよ」
「恵も変わったな……」
「ほんと! 前はピリピリしてて怖かったけど今は頬が緩みまくってるしな」
「悪かったわね! どうせ私は売れ残りよ!」
「誰もそんな事言ってねえだろ……」
「「「ははは!」」」
そのやりとりに皆が声を上げて笑いながら再びスタジオに入って行った。
収録が終わりシュウヤは椎名と車で可奈が待つ家へと向かっていた。
「……悪いな。いつも来てもらって」
信号が変わるのをハンドルをトントンと指で叩きながら待つ椎名にシュウヤが申し訳なさそうに話しかけた。
「何よ急に……言ったでしょ? 可奈が可愛いくてしょうがないのよ。あの子と一緒にいると楽しいし必要とされてるのが嬉しいの」
「そうか……お前にはずっと俺の事に付き合わせて悪いと思ってる」
「今更よね……でも、私は全然後悔してないわ。あなたや他のライナメンバー、それに真帆に会えて幸せよ……それだけは言えるわ」
「ありがとな」
「もうすぐ着くわよ。ああ〜 早く可奈に会いたいわ!」
信号が青に変わり、椎名は少し大袈裟に嬉しさを表すと勢いよくアクセルを踏み込んだ。




