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第6章ー8

 とはいえ、この英海軍の空母集中は、結果論としては大正解だった、といえる出来事だった。

 これにより、独のノルウェー侵攻は、色々な意味で失敗が運命づけられた、といっても良かった。

 

 1940年3月から4月初めに掛けて、ソ連潜水艦部隊は、北大西洋で相変わらず活発に活動していたが、独潜水艦部隊は、ノルウェー侵攻を間接的に援護するために、移動を余儀なくされていた。

 そして、それについては言うまでもなく、独海軍は、無線で指示をある程度は下さざるを得なかった。

 出撃前に命令書を渡すという形式ならともかく、出撃した後の潜水艦に対しては、独海軍としては、無線通信以外に連絡の取りようがない。

 そして、エニグマ暗号を駆使したとはいえ、英仏米日の軍情報部によって、少しずつ独海軍の暗号通信は破られていった。


 更に、独陸空軍も、完全にノルウェー侵攻に関する通信について、無線通信を使わない、ということは不可能な話だった。

 従って、独陸空軍の通信内容からも、英仏米日は、情報を把握することができた。


 こうしたことから、3月半ばを過ぎる頃には、独が、ノルウェー、デンマークに侵攻しようとしている公算が大、というのは、英仏米日の軍情報部の共通認識になった。

 とはいえ、独が侵攻しようとしているノルウェー、デンマークに、この情報を流せるか、というと。


「冷たいようだが、日本としては、ノルウェー、デンマークに、具体的な警報を発する訳にはいかないな。同盟国に警報を発するという事ならできるが、ノルウェー、デンマークは中立国だ。具体的な警報を発して、ノルウェー、デンマークが、独の侵攻に怯える余り、独の味方になっては、元も子もない」

 日本の米内光政首相は、秘密裡に開催した五相会議の席で、そのように結論を下した。

 そして、英仏米も、日本と同様の態度を示した。

 このため、ノルウェー、デンマークは、それこそ4月9日になるまで、独の侵攻を察知せず、全面的に奇襲を受けることになるのである。


 だが、その一方で、英仏米日は、欺瞞行動をし、独のノルウェー侵攻を察知していないふりをした。

 英の戦艦の多くは、伊の中立維持のために必要であるとして、空母が本国艦隊に集められた代わりに、地中海艦隊へと向かった。

 そして、日本第三艦隊も。


「ブレストに移動して待機する」

 小沢治三郎中将としては、忸怩たる思いがしないでも無かった。

「「ご安心を」」

 角田覚治少将と、山口多聞少将は、笑みを浮かべながら、小沢中将にそう言った。


「比叡」、「霧島」は、ブレスト港に移動した。

「出雲丸」等の輸送船団も、これと同行する。

「伊勢」以下の6隻の空母は、軽巡洋艦「川内」、「神通」及び朝潮型駆逐艦12隻と共に、今暫く、スカパ・フローに滞在する。

 その代り、英海軍が輸送船団の護衛に協力するという手筈になっている。


 日本の空母が、スカパ・フローに残留する表向きの理由は、日本の艦上機や、空母の集中運用に関する指導を、英海軍に行うためだった。

 だが、実際には、ノルウェー侵攻を阻止する為であり、日英がノルウェー侵攻を察知していないという振りをするために、「比叡」等が移動することになったのだ。

 更に。


「急げ。後れを取るな」

 ハルゼー提督は、麾下の米空母部隊を急き立てていた。

 米海軍も、空母6隻を基幹とする部隊を、英本国に集中させつつあった。

 とはいえ、独を欺瞞するために、こちらも戦艦は1隻も含んでいない。

(もっとも、米戦艦は鈍足のために、空母部隊に随伴できないのも事実ではあった。)


 4月初め、空母19隻、搭載機数1200機余りを有する、当時世界最大の空母部隊が英本国に集結、独のノルウェー侵攻に備えることになった。

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