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第5章ー5

 小沢治三郎中将は、参謀長の松永貞市少将や第一航空戦隊司令官の角田覚治少将、第二航空戦隊の山口多聞少将と協議して、空母6隻の航空隊を存分に使った独装甲艦の捜索、攻撃任務を立案した。


 セイロン島沖を通過した後、艦上爆撃機、艦上攻撃機を交代で、索敵任務に出撃させる。

 1日に4回、1回16機を航法訓練も兼ねて、出撃させた。

(さすがに、自分達が通過した後の後方にまでは索敵機を放たなかったため、16機ということになる。)

 この苦労が報われたのは、2月12日午前の事だった。


「セント・ヘレナ島より東方100海里、K5海域にて、独装甲艦1隻を発見」

 蒼龍から発艦した第一次索敵機の第一報が、戦艦「比叡」にいる小沢中将の下に届いた。

「艦隊との距離は、300海里といったところか」

 小沢中将は、少し考え込んだ。

 思ったより遠い、攻撃隊を出撃させるとなると、もう少し距離を縮める必要がある。

 しかし、攻撃を躊躇っていると、独装甲艦を見失う可能性がある。


 取り合えず、追加の索敵機を、独装甲艦のいる方面に集中させることにし、空母6隻以下の前衛艦隊は、独装甲艦の懸命の追尾に掛かるが、独装甲艦も振り切ろうと北へ向かい出し、距離がなかなか縮まらない。

 そのまま一時間余りが経過してしまった。


「角田少将から、発光信号で、意見具申です。直ちに攻撃隊発艦の要を認む」

「山口少将からも、同様の意見具申が」

 通信士官から、相次いで、小沢中将の下に、麾下にある二人の航空戦隊司令官からの意見具申が届いた。

「よし、やろう。その代り、我々は、全速力で独装甲艦の下へ向かおう。攻撃隊を少しでも近い距離で収容するのだ」

 小沢中将は決断した。


 小沢中将としては、遠距離であること、独装甲艦1隻が目標であることから、精鋭の艦爆16機、艦攻16機の合計32機で攻撃隊を編制するつもりだった。

 戦闘機が随伴しないのは、敵艦に戦闘機による航空支援がないこと、単座機であることから、航法に不安があるからだった。

 しかし、角田、山口両少将から、もう少し攻撃隊を増やすべき、という主張があったことから、最終的には、艦爆24機、艦攻24機の合計48機が、独装甲艦1隻に向かうことになった。

「「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」の例え通りになりそうだな」

 小沢中将は、空母6隻から発艦した合計48機の攻撃隊を見送りながら想った。


 この時、第三艦隊に発見された独装甲艦は、「アドミラル・グラフ・シュペー」(以下、「シュペー」と呼称する。)だった。

 何故、「シュペー」が、この海域に、この時にいたのかは、当時の乗組員が誰一人生存していないために正確には不明である。

 おそらく、南大西洋、アフリカ沿岸方面での通商破壊任務を試みようとしていたのではないか、と推測されるだけである。

 そして、単独航行していたのが、不運だった。


「比叡」は、戦艦であることもあり、攻撃隊からの電波を、良好に拾うことができた。

 攻撃隊の総指揮を執る淵田美津雄少佐は、次々と電文を発した。

「独装甲艦1隻を確認。これより攻撃を開始する」

「500キロ爆弾20発の命中確実」

「航空魚雷10本以上が命中した」

 これだけの戦果を挙げるのに掛かった時間は、30分余りだった。

 そして、これだけの被害を受けて耐えられる程、独装甲艦は堅牢では無かった。


「独装甲艦、撃沈確実。今、弾薬庫に火災が延焼したのか、大爆発を起こし、沈没した」


 攻撃隊収容後、海の男として、小沢中将は、「シュペー」の沈没現場に、前衛艦隊を急行させたが、それまでに15時間以上が掛かってしまった、

 そして、前衛艦隊の懸命の捜索にも関わらず、最終的な「シュペー」の生存者は絶無だったのである。

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