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第4章ー13

 このように日米満韓、4か国の軍同士の関係に、微妙な不協和音を奏でつつも、日米軍を主力とする3月初めをめどとしたソ連軍への反攻計画は立案された。

 この当時として見れば、当たり前の事態だったが、陸海空三軍が連携せねば、この反攻計画は上手く行かないことは明らかだったので、その点でも、関係部署は苦心惨憺する羽目になった。


 ジェームズ・リチャードソン米太平洋艦隊司令長官は、米太平洋艦隊司令部内に、苦労しつつも楽しげな空気を維持することに努めていた。

「難しい物事程、楽し気にしたいからな」

 それが、リチャードソン提督の最近の口癖だった。

 裏返せば、それくらい、1940年3月初めに計画されていた日米軍を主力とする反攻計画は、関係者にとり難しい話であった。


(詳しくは、次章以降で語ることになるが、日米両空母は全て、大西洋方面に投入されている現状があった。

 そのために、太平洋方面では、米軍は、軍用機の輸送等に苦労していたのである。

 また、ソ連海軍の潜水艦部隊は、遠征に際して、特設潜水母艦等の支援を受けられるとは言え、航続距離等の問題から、やはり、その主な矛先は、トラックから(マリアナ、小笠原を経由して)日本本土へと向かう航路か、シンガポールから(台湾等を経由して)日本本土へと向かう航路のどちらか、に向けられることになっており、トラック、シンガポール以遠では、ソ連海軍の潜水艦部隊は基本的に出没していなかった。

 これへの対処に、米太平洋艦隊は苦労していたのである。)


 そして、ほぼ同様の苦悩を、日本海軍も背負っていた。

 海兵隊等の欧州派遣に呼応して、鳳翔以外の全ての空母は、護衛艦隊と共に、欧州へと派遣された。

 勿論、米太平洋艦隊等の協力は得られるのであり、残された日本海軍の戦力で、充分にソ連海軍に対処は可能である、と考えられてはいた。

 しかし、日本に遺された多くの日本海軍将兵にしてみれば、それはぎりぎりの戦力であった。


(これまた、次章で主に語ることになるが、1939年12月に、日本海軍空母部隊は、全力でウラジオストク軍港等に対する大空襲を行い、重巡洋艦キーロフ以下のソ連太平洋艦隊の水上艦群に、大打撃を与えることに成功している。

 これによって、多くの掃海艇を喪失したソ連海軍は、日本海空軍の機雷敷設への対処に、これ以降は苦労することになる。

 そして、ソ連海軍の潜水艦部隊の黄昏の始まりにもなるのである。)


 話を本題に戻すと、1940年1月から3月にかけては、日米両海軍にとって、ぎりぎりの戦力でソ連海軍の潜水艦部隊に対処しているという現状があったのである。

 そのギリギリの戦力から、南満州を回復する反攻作戦の戦力を抽出せねばならない。


 こうしたことから、米太平洋艦隊では、米国最強の戦艦と言える戦艦テネシーを、第一次世界大戦時に建造された旧式の平甲板型駆逐艦が護衛するという事態が起こることになった。

 日本海軍も負けてはいない。

 完成したばかりの最新鋭戦艦「高雄」等を、護衛する第一水雷戦隊を構成する駆逐艦は、旧式の峯風型駆逐艦で構成される有様だった。


 このため、「高雄」初代艦長に抜擢された大西新蔵大佐の言葉として伝わっている逸話だが。

「今の時代が分かるなあ。商船や空母の護衛の方が大事だから、「高雄」の護衛には旧式艦を回せばいい、ということかい。もうちょっと大事に、我が海軍は「高雄」を扱っても、バチは当たらないと思うがな」

 と嘆かれる有様になった。


 とはいえ、戦力不足を改善しようにも、この急場に間に合うものではない。

 日米両海軍は、不足する戦力を何とかやり繰りしたうえで、満州方面におけるソ連軍への反攻準備を整えるしかなかった。 

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