幕間1-2
千恵子が、土方家の男3人が酒を呑んでいるところに、酒を持っていくと、3人共それなりに、出来上がった状態になっていた。
「千恵子、ま、一杯、呑め」
義祖父の勇志が、酒を呑まそうとした。
「お祖父さん、千恵子は身ごもっています。酒は良くありません」
夫の勇が、祖父を止めた。
「そうですよ。父さん」
義父の歳一も、息子の味方をしたので、勇志も、さすがに止めた。
「ま、千恵子が身ごもっていなかったら、3人共、酔いつぶされるでしょうが」
だが、勇が要らぬことを言ったので、他の男2人が顔色を変えた。
「「それは、本当か」」
「ええ、一升酒を呑んでも、平気なことがありますよ」
「あなた」
勇の言葉に、千恵子が怒り、勇は首をすくめた。
実際、千恵子は酒豪だった。
異母弟の岸総司も酒豪で、やはり、姉弟だ、と勇が内心で思うほどだった。
少し気まずい空気が流れたので、勇志が空気を変えようと話を振った。
「そういえば、千恵子を見て思い出したが、岸総司が結婚したな」
「ええ、何とかなりました」
「忠子も察しはしたようですが、さすがに岸三郎大将が叱り飛ばして、黙らせたとか」
歳一と勇も、勇志の話に慌てて乗った。
岸総司も、海兵隊の一員として、欧州出征が決まっている。
千恵子が陰で奔走して、東京女子高等師範学校の同窓生の妹で、父が海兵隊中佐で退官した女性を、総司の見合い相手として、鈴木貫太郎枢密院議長が、総司の養父にして実祖父の岸三郎に紹介したのだった。
勇志や林忠崇侯爵が話を持ち込むと、岸三郎はともかく、総司の実母の忠子がへそを曲げそうなので、海兵隊の知己である鈴木枢密院議長を介することにした。
なお、実際には、その女性と総司は、顔合わせを事前にしていて、お互いに気に入っている。
そして、総司とその女性は、陰のシナリオ通り、鈴木枢密院議長夫妻を媒酌人として、見合い結婚したというわけだった。
忠子は、嫁の姉が、東京女子高等師範学校卒ということで、癇に障るものを覚えたらしいが、自分でもこだわりすぎなのが分かってはいる。
それに、忠子自身、嫁の人柄等に問題が無いのも分かっている。
だから、忠子の実父でもある岸三郎に、いい加減にしろ、と一喝されて、総司の結婚を認めたのだった。
「夫の勇も、弟の総司、更に義父の歳一も欧州出征か。留守を守る千恵子の心労は絶えないな。勇、千恵子の心労を増やすようなことはするなよ」
勇志が、しみじみと言った。
「どういう意味です」
歳一が口を挟んだ。
「欧州で女遊びをするな、ということだ。これ以上は、わしから言わすな」
勇志が言った。
千恵子は想った。
この前の世界大戦の時、海兵隊を中心に欧州に赴いた日本兵が現地の女性と関係を持って、それによって多くの子どもが出来ている。
以前も、夫の勇に注意はしたが。
「あなた、そんなことはしないわよね」
「勿論だよ」
千恵子の問いかけに、勇は即答したが、勇は、別のことにも想いを巡らせた。
祖父は、アラン・ダヴーのことを、それとなく言っている。
勇は、酔いに任せて、ギリギリのことを言ってみた。
「千恵子、もしかしたら、フランスに(異母)弟妹がいるかもしれないぞ」
「まさか。お父さんは、そんなにだらしない」
千恵子は、そこで言葉を詰まらせた。
村山幸恵のことがある。
ひょっとすると。
「こらこら、言って良いことと悪いことがある。いい加減にしろ。明後日、「北白川」で総司と二人は会うのだろう。その際、千恵子、勇と総司を締めておけ。欧州で遊ぶな、とな」
「勿論ですとも。土方伯爵家と岸家に醜聞が起きないように、二人をきちんと締めておきます」
勇志の言葉に、千恵子は、力強く言った。
その言葉に、勇は首をすくめる羽目になった。
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