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第3章ー11

 ソ連太平洋艦隊の潜水艦対策として投入される航空戦力は、飛行船だけではなかった。

 飛行艇部隊も駆り出されていた。

 だが、こちらは数(飛行艇の方が多かった)や飛行速度等の問題から、別の任務に多くが投じられていた。


「気を抜くな。磁気探知機は試作品だ。目視が基本なのだからな」

 阿部善次中尉は、機長として、96式飛行艇を操縦しながら、部下に声を掛けた。

 日本本土から硫黄島間の航路帯の潜水艦対策として、横浜に基地を置く飛行艇部隊に所属している阿部中尉の飛行艇も投入されているのだ。

 だが、阿部中尉の操縦する96式飛行艇の直下には、軍艦どころか、商船の1隻もいない。


「分かってはいますが、中々、気を張り続けるのも難しいですな。何しろ何もいない」

 部下の竹中兵曹が、つい、ぼやいた。

「まあな。気持ちは分かる。だが、常時、飛行艇や飛行船が、空から監視していると分かっていたら、ソ連の潜水艦部隊は、安心して航行できない」

「確かに、そうですな」

 阿部中尉と竹中兵曹は、そうやり取りをした。


 阿部中尉が当たっている任務は、いわゆる間接護衛任務だった。

 そう長く、飛行艇を商船団の直接護衛に張りつけるのは、余りよろしくないのではないか、むしろ間接護衛させて、自由に捜索に当たらせるべきではないか、という発想から行われている。

 とはいえ、数がどうにも足りない。


「取りあえずは、本土からトラックの間で商船団が航空支援が得られるのは硫黄島まで、本土からシンガポールの間では沖縄までか」

 阿部中尉は、部隊の操縦員の間の噂話を内心で思い出した。

 実際、そんなものだろう。

 本音としては、硫黄島からサイパン、沖縄からマニラ間にも航空隊を配置したいが、そんな余裕はない。


「金持ちの支援がいる訳だ」

 阿部中尉は、更に内心で諧謔めいた想いを抱いた。

 米国の航空隊が応援に駆けつけてもらえないと、どうにもならん。

 何しろ、旧式化した水上機まで、倉庫の奥から引っ張り出して、日本沿岸の対潜哨戒任務等に当たらせる始末だからな。

 艦載の水上機に至っては、言わずもがな。

 日ソ開戦以来、立っている者は親でも使え、とばかり、全ての戦艦、巡洋艦から水上機は下ろされて、沿岸哨戒任務等に投入されている。


 何故、ここまでの決断を、日本海軍がしたのか。

 それは、ソ連太平洋艦隊の潜水艦の数の猛威を懸念したからである。

 1939年9月当時、92隻の潜水艦を、実際にソ連太平洋艦隊は保有していた。

(一部、練習用の潜水艦も含んでおり、第二次世界大戦後、詳細は判明するが、外洋での通商破壊任務に投入可能な大型、中型の潜水艦は、55隻だった。だが、残りの小型潜水艦、37隻にしても、日本海沿岸や韓国の東沿岸の航路を、攻撃することは十分に可能であり、実際、韓国海軍は、その対策に苦慮する羽目になる。)

 なお、1939年9月の第二次世界大戦突入時の、独の潜水艦は、全部を集めても56隻、実際に外洋での通商破壊任務に耐えうると独海軍が考えていたのは、22隻しか無かった。


 つまり、単純計算だが、独の全ての潜水艦の2倍近い、外洋のみを考えれば、約2・5倍の潜水艦を、ソ連太平洋艦隊は、保有していたのである。

 そして、独潜水艦隊を迎え撃つ英海軍に比して、日本海軍は半分以下の戦力しかない。

 日本海軍が、血相を変えるのも無理は無かった。


 だが、日本海軍が、有利な点もあった。

 それは、ソ連太平洋艦隊の最大の根拠地が、ウラジオストクである、ということだった。

 ウラジオストクは、その位置からして、太平洋へ潜水艦を出撃させるのは、宗谷、津軽、対馬の三海峡を通らざるを得ないのだ。

 この位置特性等から、日本海軍は、勝機があると判断していた。

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