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第2章ー2

 ポーランドへの独ソ両軍の侵攻計画は、レヴィンスキー中将に見る限り、ポーランドへの全面侵攻作戦としては、理想的に近いものだった。

 ポーランドの地形は、基本的に大平原の地形であり、南部にカルパチア山脈の険が多少、あるものの、独ソ両軍の侵攻に対しては、南から北へ流れる数本の大河くらいしか、拠るべき障害がない。

 しかも、ポーランド軍が総動員を完結した暁には、100万余りの大軍を揃えるとはいえ、独ソ両国軍を併せれば、その3倍を軽く超える大軍が東西双方から挟撃してくるのである。


 幾ら後に「連合軍の至宝」、「ポーランド史上最高の名将」等々の異名を奉られるレヴィンスキー中将と言えども、この時の独ソ両軍の量的に3倍以上の攻勢を跳ね返し、更にポーランド軍のみを率いて、ポーランドの国土を守り抜く等、不可能というしかなかった。

 更に付け加えるなら、もっと悪い条件が、ポーランド軍には加わっていた。


「基礎的な国力においては、ポーランドの方が、独ソ両国、何れか一方だけよりも劣る。従って、兵の士気はともかくとして、兵が装備する兵器等は、どうしてもポーランド軍の方が劣ることになる」

 レヴィンスキー中将は、そのように想いを巡らさざるを得なかった。


 ポーランドの国土は、第一次世界大戦より前、いわゆる「ポーランド分割」以来、ナポレオン1世のワルシャワ公国による一時の一部の独立時代を除き、1世紀以上、露独墺の三国による分割統治が続いていた。

 つまり、19世紀に起きた産業革命による工業化が、ポーランドでは起きないままになっていた。

 第一次世界大戦の結果、ポーランドは独立を回復するものの、そのために、ポーランド国内の工業化は全く進んでおらず、独立当初のポーランドは、後進的な農業国としか言いようのない状態だった。


 更に付け加えるならば、第一次世界大戦、ポーランド・ソビエト戦争等の戦禍は、ポーランドの国土を更に荒廃させ、ポーランド国家(国民)の貧困化を引き起こす結果を招いた。

 こうした中で、ポーランドの工業化を図る等、極めて困難と言わざるを得ない。

 ポーランド・ソビエト戦争等の終結により、ポーランドには、平和がもたらされたが、まずは、農業を振興し、ある程度、国土を豊かにしたうえで、工業化を図るという、迂遠な方策をポーランド政府は図らざるを得ない、という状況があった。


 そして、遅々とした歩みながら、戦禍から復興し、徐々に国内に富を蓄積し、ポーランド政府が、工業化の音頭を取ろうとした際に、ポーランドに襲い掛かってきたのが、「世界大恐慌」という悪夢である。

 このため、窮余の一策として、軍需関係の企業の一部国有化による保護という非常手段まで、ポーランドは講ぜざるを得ない羽目に陥った。

 それによって、ポーランドは、国産軍用機を装備する数少ない国の一つには成れたのだが、それがポーランドの国力の限界だったのである。


 ポーランドの国産軍用機の質は、日本で言えば、96式軍用機シリーズと同世代の質に過ぎなかった。

 これとて、米英独ソ日(仏)が突出しているだけで、大国の一つの伊と言えども、独からのエンジン提供に、一部の軍用機開発を依存せざるを得なかったという現実からすれば、大したものではあったが、ポーランドの軍用機の質が、独ソに劣るという現実に変わりはない。


 ポーランド空軍が幾ら奮戦しようと、独ソ両国の空軍に対して、質量共に圧倒的に劣勢とあっては、ポーランドの国土の制空権は、独ソ両国の手に落ちると考えざるを得ない。

 そして、制空権の無い中、質量共に劣るポーランド陸軍に勝算は無く、レヴィンスキー中将は、ポーランド国土の失陥を覚悟せざるを得なかった。

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