第6章ー28
今やオスロから撤退してアーレンダール等から独本土への転進を図る独軍の将兵を、日本海兵隊は積極的に追撃している状況にあった。
後方、治安警備任務については、ノルウェー軍が完全に担っており、日本海兵隊は後顧の憂いなく、追撃を行うことが可能だった。
土方勇少尉は、零式重戦車に搭乗し、第1海兵師団の先陣を事実上は承っている状況にあった。
石原莞爾中将からは、基本的には、だが、戦車大隊を先頭に立て、その後方に海兵連隊が、その更に後方に砲兵連隊等が続いての進撃命令が下されている。
完全自動車化が完了している日本海兵隊は、155ミリ榴弾砲と105ミリ野砲によって編制されている砲兵連隊まで自動車によって牽引されており、対峙している独軍の将兵にしてみれば、羨ましいにも程がある状況だったが、土方少尉に言わせれば、まだまだ不満で、完全自走砲化を図るべきだった。
砲兵が自動車牽引である以上、どうしても機動力に制約が生じてしまうからだ。
実際、オスロを出発して3日目の午後、土方少尉は苦戦する羽目になった。
「独軍め、陣地を巧みに作っているようです」
「確かにそうだな」
敵陣地を確認するために操縦手が、首から上を突き出した後、すぐに車体内に全身を隠してしまった。
操縦手が首から上を出しているのに気づき、機関銃弾を自分達に浴びせてきたようだ。
土方少尉は考えを巡らせた。
この戦車の中に引っ込んでいれば、敵機関銃の弾等、木の塀に生卵を投げつけるようなもので、無視しておけば済むと言っても間違いではない。。
とはいえ、このままでは、うっとうしいのは間違いなく、歩兵は前進できない。
「砲兵の支援は頼めるか」
「やってみます」
土方少尉の問いかけに答え、副操縦手兼通信員が、後方に無線連絡を試みた。
「何とかなりませんか」
「分かりました」
通信員の返答しか聞こえないが、その内容から明白だ。
要するに、暫く我慢しろ、ということだ。
「航空支援はどうだ」
「当たってみます」
土方少尉は、更に支援を求めた。
義弟の岸総司中尉が、この場にいたら、少しは自力での解決を図れ、と自分を叱りそうだ。
だが、贅沢だと言われようと頼めるものは、何でも頼んでからだ、と土方少尉は考えた。
「ベルゲンに進出している日本海軍航空隊が、急降下爆撃を試みるそうです。詳しい場所を教えてくれ、と言っています」
「有難い」
通信員の言葉に、土方少尉は歓声を上げ、速やかに詳しい場所を連絡する。
約2時間余り後、独軍陣地に爆弾が降り注ぎ、更に2時間後、土方少尉は、歩兵部隊とも共闘して、独軍陣地の突破に成功した。
「やれやれ、と言ったところか」
独軍陣地の突破に成功したとはいえ、夕闇が迫っている以上、これ以上の進撃は止めて、独軍が夜襲で反撃してくる危険に対して備えるべきだった。
土方少尉はそう言って、中隊長に対して、これ以上の進撃を今日は取りやめるべき旨を意見具申し、中隊長もそれを受け入れた。
それで、野営の準備に、土方少尉は取り掛かることにする。
「進撃速度がこれだけ速いとはな」
野営の準備を終え、炊事兵が準備した夕食を食べながら、土方少尉はかぶりを振った。
1日に40キロ余りを進撃している。
後、3日もあれば、独軍はノルウェーから完全撤退止む無し、という状況になりそうだ。
とは言え、進撃速度が速すぎるために、色々と問題も出ている。
とうとう今日の夕食から、いわゆる外米すら乏しいため、現地購入のジャガイモが主食に格上げされた。
部下達は不平をこぼし、土方少尉も、せめて外米を食べたいと願った。
だが、速く進撃しないと独軍を逃がしてしまう。
数日はこんな辛い日々が続くのか、と土方少尉は観念した想いを抱いた。
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