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悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?  作者: ぽんぽこ狸


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倫理観……。6





 校舎へは意外と距離があり、西門の側からグラウンドを出ると、途中に練習場へと分岐する道があり、私は呼吸を整えて、練習場のサイドにある広場へと足を向けた。


 誰かが追いかけて来ているということは無いだろうけれど、逃げ出した手前、リーダークラスの人とは、会いたく無かったからだ。でも、鞄を置いてきてしまっているし、エリアル先生に会いに行く日時を確認しなければならないし、色々と用事を残してきてしまったしばらくしたら戻らなければならないだろう。


「っ、……っは、……はぁ」


 肩で呼吸をして、どうにか整える。

 備え付けられているベンチに腰掛けて、背もたれに体を預けて空を見た。


 ……なんで、毎回こんなに巻き込まれるんだ、まったく。


 今回の事は、まったく私は悪くないとしか言いようが無い。彼らの思惑なんかは分からないし、絡まれるし、散々だ。


 せっかく、リーダークラスはなんとか上手くやれそうだと希望が見えていたのに。


 ……クラリスもローレンスもエリアル先生でさえ知らんぷりしちゃってさ。私には味方は居ないの?


 そう思ってヴィンスを思い出し寂しくなる。これから一人こうやって、逃げたり隠れたり、厄介事に巻き込まれたりし続けて学園生活を送るのだと思うと少し怖くなる。


 ……ダメだ。悪いことばかり考えてちゃ。


 空を見る、金色の魔力の波が寄せては返して、サラサラと流れていく。昼間の深い深い青空に、流れる魔力の光は、あいも変わらずちゃんと綺麗で、目を細める。


 ……いいことだって……あったよね?


 クラスの……リアちゃんが笑いかけてくれたのだ、アイザックくんもだ、もしかしたら、普通クラスでは、少しましな生活が出来るかもしれない。

 そう考えれば、ポジション別クラスも悪いものじゃなかったような気がする。


 それでも、体が重たくて、男子生徒が私に向けた光る瞳が怖くて、空を見ながらしばらく脱力していた。



 コツコツと足音が響く、早く昼食が終わった生徒が、練習をしにでもやってきたのだろうと思い、ぼーっと空を見上げるのをやめて、起き上がり足音の方向を見ていると、揺れるツインテールが遠くにいてもシルエットでわかった。


 それからアイザックくんに、影の薄い、私と同じクラスのチームリーダーが一人居た。


 一つ多い鞄を持っていて、もしかしてっとドキッする。


 ……もしかしたら、私の鞄を届けに来てくれたんじゃないだろうか。


 自分の顔はパッと明るくなっていたと思う。

 けれどそれとは裏腹に、彼女たちは魔法を起動している。


 ニコリと笑ってこちらへと近づいてくる。その笑みが親しみから生まれるものでは無いことに私はとうに気がついていた。


「……か、鞄……ありがとう」


 立ち上がって、咄嗟に私も魔法を起動しようと考えるが、今だって私の魔法玉はポンコツで、なんの対策もしていない今、私は魔法を使う事が出来ない。

 

「あら……やっぱり、ね?言った通りでしょ〜?」

「だな!まぁ、魔法無しでどんだけ楽しめるかわかんねぇけど、外見だけはそれなりじゃん?」

「二人とも早く!いつ人が来るか分からないでしょ?!」


 二人はニヤニヤしながらこちらへと近づいてくる。それを少し良識がありそうな女子生徒がせっつく。


 ……嫌な予感しかしな──────


 私がジリッと地面を踏みしめて距離を取ろうとすると、アイザックが素早く動いた事だけはわかり、それから腹に強い衝撃が加えられる。


「がふっ」


 ヒュ〜と彼は口笛を吹いて、私の首根っこを掴む。そのまま、広場の奥まった方へと引きずられる。頭がグラグラ揺れて力が入らない。


 あまり人が入らない場所まで連れて行かれて、練習場の壁に体を押し付けられる。アイザックは汚く舌なめずりをして、私の顔を覗き込んだ。


 他の二人は見張りのつもりなのか、そっぽを向いていて後ろ姿だけが目に入る。


「な、なに、?ねぇ、なに?やめて?」


 訳が分からずにわたわたと暴れて、アイザックを両手で押し返して抵抗するが、彼は私のジャケットを強引に脱がせて、それから多少の抵抗でも煩わしく思ったのか、私の頭を鷲掴みにし、思い切り練習場の壁に打ち付ける。そのまま引き倒されて、硬い地面に体を預ける。 もちろん彼は私の上にまたがって行動を封じるように体重をかけた。


「ッ!?ッ……っ、?」


 頭が真っ白になり抵抗する事を諦めると、ワイシャツを開かれて下着が露出する。

  

 こんな子供が、こういう事をするという事が、私の中では正直ありえない事で、前世では年齢的に普通に私が捕まるのではないか。

 

 ぼんやりする頭で、アイザックの方を見る。彼は私の髪を乱暴にまとめて掴んで口元にあて、すーっと匂いを嗅ぐ。


 すこし……いや、大分、気持ちが悪い。力を振り絞って、彼の頬を力なく叩いた。すると、拳でそれは返ってきてガチッと歯の奥がなって口に血の味が広がる。


「っはは!っあ〜!最っ高」


 彼の瞳には欲望と劣情が入り交じり、それは私の知っている子供の目ではなく、完全に男性の欲望に負けた男の顔だった。


 ……冷静に……ならないと。


 でも、冷静になったところで、この状況は変わる事はない。腹にアイザックのざらついた指先が触れる。瞬間に気持ちが悪いと言う感情が全身を支配して、抵抗できない恐ろしさと悔しさに心の奥から涙が延々溢れる。





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