なんでこう毎日、忙しいかな……。1
文字や言葉、基本的な知識、常識。これらは前世と少し変わるところあれど大きく差はない。
なので教科書を予め読んでいて、範囲が決まっているのだから、テストの点数は、努力する必要がなく満点に近い点数が取れる。
昨日の座学は、学力調査のテストだった。そして今日、教室の黒板にプリントでクラスの上位者の名簿が張り出されている。
それはまだ朝礼も始まっていない朝の登校時間の出来事だった。
テストの順位表にはクラスのうちの大半の生徒が群がっていて、つい先ほど登校したばかりのヴィンスと私は、まだ見ることが出来ていなかった。
黒板前に集まっている子たち以外は、チーム事に指定されている長机で話をしていたり、私のチームメイトの女子二人は、別の女子ばかりのチームに混じって談笑していた。
私とヴィンスは自分のチームの長机に座って、いつも通り私が一番端、ヴィンスがその隣へと座る。ちなみに前世の学校とは違い、この学園には個別の机は無い、そのかわり、固定されている長机と椅子があり、チームごとに座る机は指定されていつつも、席順の指定は無い。
……まだ、サディアスは来てないんだ。
今のチームの机には私とヴィンスの二人しかおらず、長机に二人という少し、さみしい状態だった。本当なら、すでに登校している二人の女の子と少しでもチーム内で打ち解けるために、会話をしたいのだけど、彼女たちは私に見向きもしない。
二人のチームメイトがおしゃべりしている、女性チームの方を眺める。どうやら一チームではないようで、随分人数が多い、二チームぐらいはいるかもしれない。あれだけ、人数がいれば……あの中にも私がクラリスだと気がついている人がいるのかな?
それとも、みんな平民?貴族でも、直で接していなければ、すぐには分からないと思うが、心配だ。
……でもよくよく考えると、何故バレてはいけないのかという話になる。
むしろばらした方が楽?あ、でもサディアスのように私を幽閉前の身分で扱うという事は保証されていないのだ。つまり、コンラットのように、罪人だとか、ララの仇のように扱われても文句が言えない。
それは困るね。と私が納得していると、その女性グループが少しずつ移動を始める。ぞろぞろと固まったまま移動して行って、黒板付近でテストの順位表を話の種にしていた男性ばかりのチームと合流する。
……集団婚活みたいだなぁ。
黒板の付近にいた男子のチームは、オスカーとディックがいるチームとは別のチームであり全員知らない生徒たちで少しやんちゃそうなイメージが強い。
彼らは私とまったく面識がない、感想を述べるなら男の子だな、と思うぐらいである。
他には我感ぜずを貫いているコーディチームが教室の端っこの方で固まって静かにしていた。コーディのチームは男女混合している物静かな子達で構成されていて、そこに彼が君臨している感じだ。
彼のチームメイトは親衛隊のように彼の周りを固めるように常に動いているように思う。しかしそれは、彼がメルキシスタのバイアット公爵家の爵位継承者だから、それも納得ができる。
と言った感じで、クラスのチーム構成はこのような分布になっているのだが、貴族平民の区別は未だ着いていない。
先程合流した三チームは、騒がしく笑いだした。
ほかのそれぞれ自由にお喋りをしていたチームたちも少し伺うように彼らに視線を向ける。
……正直、平民庶民と言っても、ここは前世の日本の一般家庭よりも、教育熱心な向上意識の強い親や、貴族と繋がりがある様な名家でなければここに通うことは出来ないと原作で読んだので、ディックの様な子は多くないように思う。
なので、一時の感情よりも、後先考えられる子が多いはず……なんだけど。
ケラケラと笑いあって、大人数で話している分、声がいっそう大きく聞こえる。
ちょっと声が大きい、というか、うるさい。私と同じような事を思ったのか、当人達以外は、少し視線が煩わしげだ。
クラスで一番大きな集団というかグループになったからか、なんなのか、身振り手振りも声も大きくして笑いあう。
そのうち、元からいた男子チームが話の種にしていた紙を、声がよく通る女子が見つけて読み上げる。
「座学の順位だって!……あ、これ、“お嬢様”が一番てこと?」
「そうみたいだぜ、さすが“お嬢様”」
「誰か勉強、教えてもらいなよ」
「チェルシーと同じチームじゃん?良かったね“お嬢様”と同じなら座学成績安泰じゃん!」
「座学だけ!な!」
男子生徒の声に周りの皆がどっと笑う。
……誰だ〜?入学そうそうお嬢様なんてあだ名つけられてるの。ふふふ、何したんだろう。こんなまだ一学期始まったばかりだと言うのに。
その子はどうやら頭は良いらしい。そしてそれ以外で何かダメな事があるらしい。
「あ、ヴィンス、今朝のサンドイッチのあまり、お昼ご飯にしたいから今日は寮に戻っていい?」
「そう仰られるかと思いまして、お持ちしておりますよ」
「わぁ……ありがとう」
そんな気を回わされてしまうほど、私がたまごサンドを気に入ったのがバレていたのか。
……恥ずかし……。まぁ、ヴィンスがそれだけよく人のことを見て、動いてくれているというだけだ。それが趣味の様なものなのだ。気にしない、気にしない。
私は勉強を教えてるし、それから他には……まだ無いけど、その分何かで返していこう。
そんな事を考えつつ一限目の授業の教科書を見ていれば、彼らの話し声は自然と頭の中に入ってくる。
「けどなぁー、あんだけ無様に負かされてよくまた教室に来られるよなぁ!」
「そうね、ほんとっ傑作だった!私だったら恥ずかしくて自主退学よ、退学!」
彼らの声はどんどん大きくなって、足音からなんとなくこちら側に移動してきているのだなと思う。




