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悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?  作者: ぽんぽこ狸


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33/306

早期発見って大事……。3




 私の発言に、サディアスは眉間に皺を寄せて、はぁーとため息をついた。


「心得ていますよそのような事。ですが、突然学園に貴方様がいらっしゃったら、こういった対応になるというだけです」


 他人がいるところではクレアとして扱い、それ以外ではクラリス様として扱うと?そういう事だろうか。でもどうして立場が無くなったはずのクラリスに礼を重んじるのだろう?


 不思議に思うが、この言い方だとローレンスがそうしろと言い含んでいるということでは無さそうだ。


 そうなると、単純に私がクラリスだと気がつき、自分で考えたうえで、こういう対応を取っているのだろう。


「じゃあ、気にしなくていいよ。今はクラリスとは完全に他人みたいなものだし、私の事は平民のクレア・カトラスと思っておいてよ」

「はぁ……確かに御人が変わられたようではありますが、そう簡単に行かないのが貴族というものです……クレアもご存知でしょう」


 そういう物なんだろうか、クラリスの地位は地まで落ちていると思ったがそうと言いきれない人も中には居るのだなと思う。


「……食事が冷めてしまいますし、食事をしながらお話させて頂いてもよろしいですか?」

「うん、ご馳走になります」

「……」


 サディアスが用意されている二人がけのテーブルをさす。真っ白なテーブルクロスが敷かれたその上には、可愛らしく控えめなお花とカトラリーが用意されている。


 ……焼肉じゃなかったね。


 数時間前の自分の思考を思い出し少し恥ずかしくなった。


 庶民だったんだもん仕方ないじゃない。

 

 ヴィンスが椅子を引いてくれて、テーブルにかけると、この世界のマナーをまったく知らない事に気がついたが、前世での高級な料理のマナーを必死に思い出す。


「平民のクレアだと君が主張するのなら、学園で出てしまわないよう、敬語をやめるけど良いか?」

「大丈夫、貴方に敬われてたら、また私、偉そうにしてるって言われちゃうし」


 席に着くとサディアスは幾分、砕けた態度になって、話し易くてありがたいと思う。それから、大きなお皿にちんまりと乗せられた前菜がメイド服の侍女ちゃんによって運ばれてくる。


 ……よかったー見覚えがあるよー!美味しそうだね!!


 とんでもない郷土料理が出てきて、食べ方が分からなかったらどうしようかと思ったがそんな事は無いようだった。


 しかし一体、どこから料理が運ばれて来ているのだろうか。まさかとは思うが厨房まで部屋についているのだろうか。そんなことを考えながら出来るだけ丁寧に食べていると、サディアスは、髪色と同じ朱色の入った瞳を陰らせて、私を見つめる。


 ……そんなに食べているところをじっくり見られても困るんだけれどなぁ。

 指摘していいものか、もしかしたら、こちらではそれが常識かもしれないと思って、もくもくと食べ進める。


 前菜が終わると彼は、やっと口を開く。


「頬の傷は綺麗に塞がっているようだな」

「……? ああ、昨日のね! ちゃんと治ったみたい」


 ……気にしていたのか、てっきり私は、こっちの世界の人はあのぐらいなんでもないと思っているのかと……。そうなるとやっぱりローレンスが異常なのか。


「肩や腕に不調は残ってないか?」

「うん、健康だよ、見ての通り」

「……」


 前菜が終わると、可愛らしいサイズのスープが運ばれてくる。


 優しい味の暖かいスープで、ほっと息をつく。

 それでもサディアスは私のことをまたじっと見ていた。食べてはいるようだが食事に集中出来ていなさそうだなとは思う。


「……以前のクラリス様であれば、今ごろ烈火のごとく怒りくるい、俺をビンタぐらいしているのだろうな」

「……?」


 ……試合での報復に?……まぁ、クラリスはそういう感じだったな原作では。


「わたくしの顔に傷をつけるなど、万死に値する行為ですのよ?!死を持って償いなさいっ……とか?」


 私が彼女の口真似をすると、サディアスは思ったよりも驚いた反応をしてガタンとテーブルが揺れた。


 本来だったら、彼女はもっとエクスクラメーションマークを多用していたが食事の場だったので抑え気味にしたのだけれど、それでも驚いたらしい。


 本当なら「万っ死に値する行為ですのよっっ?!?!?!」だ、すごいんだ、原作でのクラリスは。


「だ、大丈夫だよ?? もうそんな事言わないから、安心して」

「……はぁ……理解してる。こちらが素だったのか?」

「う、うーん、答えづらいかな」


 そういう訳では無い。多分、クラリスの方の素は確かに別にあったと思うがそれは、私とは違って、私はクレアで、ただそれだけである。


「ただ今は……以前のクラリス様であれば良かったとも思ってる」

「……それは、どうして?」

「…………」


 サディアスは言い淀んで、私は食事を口に運ぶ。今は魚料理だ。フレンチのコースと同じような構成なので、だんだん緊張も溶けてきた。


 そうして、リラックスしてサディアスを真正面から見てみれば、なんだかちょっと顔色が悪いということに気がつく。


 とくに苦しそうという事ではないのだが、もしかすると平常を取り繕うのが上手いだけで、不調なのかもしれない。


「クレア……俺を……」


 サディアスは途中で言葉を切って、それから、震える唇で続きを言う。


「殴ってくれないか」





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