そういうタイプの化け物か……。3
さすがに二階から飛び降りる勇気はなくて、階段で急いで向かった。
到着すると、先生の元には武器がたくさん用意されている木箱があり、その前にいるのは先程まったく声の聞こえなかった声が小さい先生がいて、手前にもう一人生徒がいた。
私の顔を見た途端、目をまん丸にして、それから、何とか取り繕った笑顔を私に向けた。
「はじめまして……サディアスです、どうぞよろしく」
彼は燃えるような赤毛の青年だった。立ち振る舞い、それに自前の剣を持っているようで貴族だとすぐにわかる。
貴族っぽいのだが、現在平民の私に彼は戸惑いながらも頭を下げた。
「??……よろしくお願いします」
敬称をつけて呼んだ方がいいのか、呼び捨てにしていいのか分からずに、返事だけして武器を選ぶ。重さや長さが違うだけで剣ということに変わりはないので、適当にいちばん小さいものを選んだ。
……あれ、あれぇ……重いな。
女子生徒も軽々と操っていた三十センチ程の片手剣が重い。この体はこれでもアウガス魔法学校でララと戦っていたことのあるクラリスの体だ。こんな風に感じる原因を考えるとすると、幽閉生活で筋力も体力も低下しているという可能性が大きいだろう。
私が戸惑っている間にも、サディアスは魔法玉を起動し、それを見たエリアル先生がボソボソと何かを言っている。
「魔法は……かな…………、す、…………、……」
試合の音でかき消されて話が聞こえない。
私が一生懸命に耳をすませている間に、現在の試合が終了する。
サディアスがコートへと入ったので私もそれに続く。なにかの注意事項だったのかもしれない。
エリアル先生が何を言っていたのか気になりつつも、所定の位置について、サディアスと向き合い魔法玉を取り出す。練習しておいた、魔力を込めるということをやれば一応光は灯る。
……合ってるのかなこれ。
向かい合うサディアスの瞳は真剣そのものだ。敵意という程でもないが、私の事をしっかりと警戒して試合に備えていることが分かる。
周りからの上がるヒソヒソとした小さな声、どこを見ても私を見ている視線がある。
そりゃ注目されるか……。
ダメだ、魔法玉に意識集中……しないと。
熱を込める、暖めるようなイメージで魔力を込める。ダメだ、やっぱり……。
どれほど魔力を込めてみても、私のお月様みたいな魔法玉のコアは……ドーナツみたいに真ん中が透明なのだ。ぽっかり色の無い部分が存在していてガラス玉のようになってしまっている。
ま、まぁ、周りは光っているのだし……大丈夫では?まだ一回も魔法使えた事ないけど。
私の目にもしっかりと魔法の光が宿っているようで、バイロン先生はサディアスの事もしっかりと確認してからすっと手を上げる。
あっ、始まる。
「っ」
なんとか両手で持って剣を構えてみるが、しっくり来ないし相手に打ち込める気がしない。
なんだかコスプレイヤーにでもなったような気分だ。
不安になって、剣先越しに、サディアスと目を合わせる。私を射抜くような視線にまずいと本能が叫ぶ。
これは私、同じ土俵に上がれてないっ!!
中止を訴えるべきか?でもまた変人エピソードが増えてしまう、ヴィンスだって一緒にいる私が笑いものにされたら嫌だろう。
即座にそう思考してしまい体が固まる。コートを囲んでいる生徒達は、問題ばかり起こす私に、色々な感情の混ざった目を向けている。消して好意的ではない多くの感情に晒され、目を瞑ってしまった。
「始めぇ!!」
過敏になった神経は、バイロン先生の号令に過剰に反応して剣を握る手にこれでもかと力を入れた。瞬間、体に衝撃が走って内臓が浮くような感覚。
防衛反応に抗って微かに目を開く、見えた光景は驚いた表情を浮かべるサディアスの顔だった。
耳が遠くなって、辺りの喧騒も自分の心音でさえ聞こえなくなる。
この状態には既視感があった。




