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エピローグ

村の広場に面した建物の壁に背を預け、叡嗣は広場の騒ぎを見ていた。


ゴブリンの襲撃を撃退……いや、全滅させた後、ギークは村人の1人に先に逃げた者達を追いかけるように指示を出した。


そうして、村人達が戻ってきたのはゴブリンの襲撃を退けてから凡そ5時間後、太陽が高く登った昼過ぎのことだった。


ゴブリンの群れ襲撃を退けた、それも死者を出さずに。

それは、この小さな村であればめでたいことだ。

そして、娯楽の少ないこの村でめでたいことが起これば、大抵村を挙げての祭りが催される。


しかし、さすがにその日に、というのは小さな村であるここでは不可能であるし、ゴブリンの残党が村に居ないとも限らない。そんな考えがあって、祭りは翌日に持ち越されていたのだ。






「こんなところでどうしましたか?エイジくん」


広場の端に居た叡嗣に、声を掛ける人間が居た。ギークだ。

その手には、木のコップを持ち、そしてローブの袋からたくさんの花が見えていた。


その花を見る叡嗣の視線に気付いたのだろう。

ギークは笑いながら教えてくれた。


「これが気になってるようですね。この辺りの風習で子供は感謝の印として花を渡すんです」

「ああ、そういう」


要するに、あの花はゴブリンを倒し村を救ったギークへの感謝として贈られたものなのだろうと予想するのはそう難しいことでは無かった。見ればたしかに、村の中心で組まれた大きな焚き木の周りでは、ゴブリン退治に貢献した冒険者や村人たちが子供たちから花を渡されている。


「それで?なんでエイジくんはこんなところに居るんですか?」


ギークは再び訊いた。

叡嗣は、少し悩む素振りを見せ、口を開いた。


「なんというか……俺はこの村の人間ではないですから」


あの輪の中には入りづらい。

そんな言葉が出て来た。


「そんなことは言わないでくださいよ。それに、村の人間じゃないのはガイさんたちも同じですが、あれを見てください。もう村人みたいなものです」


ギークの指差す方を見れば、子供の頭を撫でているガイ、リンゴほどの大きさの木の実を矢で撃ち抜いてみせているカミラ、村のマダムたちから様々な食べ物を渡されタジタジのローマン、魔法の光の玉を飛ばして見せているルシエラ。

それぞれが、村人と親しくしていた。


「エイジくんだって似たようなものです。村を救うために戦った、それだけで十分なんですよ。…………それに、エイジくんが居なければ将軍ジェネラルを倒せたかわかりませんしね」

「はぁ……」

「さぁ、エイジくんも今日の主役なんですから、前に出てください」


そういって、ギークは叡嗣の背中を押した。



「おう、来たか」


ガイがコップに入った蜂蜜酒を渡してくる。


「これを食べるといい」


ローマンがイノシシ肉の串焼きを渡してくる。


「これも食べるといいわ」


ルシエラは皿に持った鶏の香草焼きをエイジに押し付けるように渡す。

慌てて、串焼きを皿に乗せどうにか受け取る。


「それじゃあ、やっと来た英雄に!」

「英雄に!」


「乾杯!」


見ていただけでもかれこれ10回は行っていた、乾杯の音頭をガイが再びとる。

それに呼応するように、周りでは盃を打ち付けあった音が響いた。


「ほら、お前も。乾杯!」


ガイは叡嗣のコップに自分のコップを合わせる。

続けて、ローマンも、ルシエラも、少し遅れてカミラも合わせてくる。


そこで、叡嗣はふと自分を見ている存在に気付いた。

小さな、手に花をもった女の子だ。


「お兄ちゃんも、戦ってくれたの?」

「まあね」

「そうなの、ならお兄ちゃんにもこれあげる!村を助けてくれてありがとう!」


そういって、叡嗣のズボンのポケットに花を挿すと、少女は走り去って行った。


「感謝されるってのはいいだろ」


ガイが叡嗣の肩に腕を回して言った。


「ええ、なかなかに」


叡嗣はそう答え、蜂蜜酒を口にした。

もとの世界の法律で言えば、まあ違法な行為。

だが、それを行ったということは叡嗣が、この世界で生きることを決めた。その証左なのではないだろうか。







さて、ここまでが天宮叡嗣が異世界へ誘われ、この世界で生きることを決心するまでの物語だ。





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