魔法
「『始祖の叡智ありて人の世は繁栄し─────』」
どんよりと分厚い雲が上空を覆う下、ギークは杖を握り詠唱を行っていた。
ここまでに行った詠唱はすでに35節。掛かっている時間はおよそ2分。術式の完成度は60%といったところか。
一般的な魔法ならば考えられないほど長い時間の詠唱だ。
しかし、儀式魔法でこの時間は短いと言えるだろう。
スッと、ギークは詠唱を止め、また詠唱を始める。
普通ならその行為は詠唱の中断であり、最初からやり直しということになる行為であり、ギークの周囲に浮かぶ魔法陣も消えてしまう。
だが、ギークの周囲の魔法陣は消えることなく、詠唱の再開と共に新たな魔法陣が作り出された。
これこそが、ギークの単身で行う儀式魔法の正体だ。
固有スキル《詠唱保持》による詠唱の中断を無視する能力により、本来なら複数人で行う詠唱を複数のパートに分け、その上で詠唱を行いその詠唱を保持し最終的にそれらを組み合わせることで儀式魔法を再現する。
ギークの儀式魔法のタネはそんなこところだ。
図にすれば、
複数人〔─────長文詠唱─────〕
ギーク〔 1 | 2 | 3 | 4 | 5 〕
といった感じだろう。
本来なら、儀式魔法というのは複数人で同一ないし異なる詠唱を行い、組み合わせることで発動することができるものだ。
その難易度は高く、並大抵の者では発動させることなど夢のまた夢といえる。
そんなものをギークは行っているのだ。
「『[燃え上がれ]』」
その一言により、ギークの頭上で魔法陣が重なり合う。
ギークの儀式魔法──厳密に言うなら違うが──が一先ずの完成を迎えた証だ。
掛かった時間は3分と少し。先の宣言通りの時間だ。
しかし、これは最低限の威力が保証されているだけであり、ギークとしては更に詠唱を重ね、威力を増大したいと思っている。
普通の儀式魔法ならば、そんなことはできないが、1人で行うギークの儀式魔法だからこそできることだ。
しかし、それを行おうとすれば前線の叡嗣の消耗は激しくなるだろうということはわかりきっていた。
「エイジくん!あとどれくらい持たせられますか!?」
詠唱を保持しながらギークは問う。
魔法陣から緋色の閃光を迸らせながら叡嗣は答えた。
「同じペースなら2分弱です」
叡嗣は魔力量から残弾を計算しながら、魔弾を放つ。
あまり簡単にできる芸当ではない。
『《技能スキル》【並列思考】を獲得』
2分弱。
当初考えていた殲滅に必要な5分に届く時間だ。しかし、ゴブリンの数は減っており、ゴブリンは固まっている。
ならば……
「エイジくん!あと1分持ちこたえてください」
当初に考えていたよりも魔法の範囲を狭くして、威力を集中させる。その上で、万全な威力にするとなればあと2節は詠唱を重ねたい。それに必要な時間を計算し、ギークはそう告げた。
そして……
「エイジくん、下がって!『──────その威を以て破壊せよ【炎魔の噴炎】』」
1分丁度。
それまでゴブリンを釘付けにしていた叡嗣に指示を出す。
ギークは次の瞬間に魔法の鍵となる術名を唱えた。
ギークの頭上で構築された魔法陣が、ゴブリン達の足元に移動する。
ゴブリン将軍が焦ったように叫び、逃れようと前方に走り始める。
だが、魔法陣が煌き、魔法陣から垂直に火柱が上がった。
その熱量は凄まじく、叡嗣たちのもとへも熱を届かせる。
【炎魔の噴炎】
ある範囲に火柱を出現させる魔法だ。
魔力を込めれば込めるほど、範囲を狭くすればするほど、威力は上昇し、仮に高魔力で範囲を数センチ単位にすればさながらレーザーのような見た目で敵を焼き切り、貫通することだろう。
時間にしておよそ20秒。
魔法陣が消え、周囲に燃え移った火を除けば炎が消えた。
そして、ゴブリンたちのところを見れば、黒い塊があるだけ。
「終わった……」
そう言ったのは、誰だったか。
ただ、まあそんなのは関係なく、ゴブリンの襲撃を退けた。
ただ、それだけが事実としてあればいいのではないだろうか。
『《固有スキル》【詠唱保持】を獲得』
・儀式魔法
複数人で発動させる魔法。
特殊な道具や魔法陣を必要とする場合や、人数が居ればいいだけの場合といった具合でその幅は広い。
多くは、戦闘用として開発された。
個人で放つよりも強力な魔法ではあるが、ある一定レベルを超えた者になれば、儀式魔法よりも強力な魔法を単身で放てる。
にも関わらず、儀式魔法がある理由としては各人の魔力消費を抑えつつ強力な魔法を放ちたいとあう国家の軍事的な理由が関係している。
ギークは、単身で強力な魔法を放てる魔術師だが、とある理由でそれらの魔法を発動させることができない。
それ故に、魔力消費も大きく時間も掛かってしまう単身での儀式魔法を行った。
しかし、厳密に言えば、ギークの儀式魔法は儀式魔法ではなく、複合魔法とでもいうようなものである。




